《投稿》

なくてはならない存在だから楽しいんです!

―コミュニティーユニオン全国交流会in十勝―

(インターナショナル第192号:2009年11月号掲載)


▼ 支援へのお礼は運動で返そう

 10月17日・18日と北海道の十勝で、第21回コミュニティーユニオン全国交流会は全国から340人が参加した開催されました。
 全国交流会の開催地は毎年周り番で今年は十勝。1年間の準備期間を経て開催に漕ぎつけました。
 準備をした十勝ユニオンは組合員が30数人。えっ? 失礼ながらよくここまで漕ぎつけられたなという思いに駆られました。集会でも準備経過が報告されましたが、さらに地元の方に詳しく聞いてみました。
 十勝ユニオンが結成されたのは数年前。母体となったのは国労十勝闘争団です。
 国労十勝闘争団は国鉄が分割民営化されたとき、「民営化になったのだから民間の労働組合と共闘して運動を進めよう」と確認したのだそうです。地域から受けている多くの支援へのお礼は運動で地域に返えそうと意思一致したとのことです。全国からの支援には運動を発展させて全国に返そうと。
 そして団員が地域の職場に雇用されたとき、職場の労働者と喜怒哀楽を共にし、溶け込み、信頼を得ていったといいます。闘争団は組織活動、組合活動を経験しています。労働者の権利を奪われた怒りを持っています。そうすると自然にリーダーになっていきました。そのような職場が幾つかできると闘争団員を窓口に意見交換を重ね、地域運動を組織することができたといいます。

 国鉄分割民営化・国労組合員が解雇された後、闘争団員を雇用する自治体や企業が各地にありました。雇用した先からの話を聞いたことがあります。「闘争団員は5時になると用事があるといってさっと帰ってしまう。残業はしない。後の労働者のことは考えない」「腰掛気分で、身を入れて仕事をしていない。他の社員に溶け込まない」「公社気分が抜けない。成果を上げなくても賃金がもらえると思っている」。
 どんな事情があろうとも、自分らを特別扱いする労働者を周囲は信用しません。厳しい労働環境があるのなら、労働組合運動を知っている労働者こそ周囲に働きかけて改善を図る必要があります。5時に帰るということは他の労働者からは「労働貴族」に映ったと思います。そこに信頼関係がうまれるはずがありません。支援の輪は広がりません。
 私には国労闘争団は自ら孤立していったと思えてなりません。その一方で支援を受けるのは当然の思いでいるようにも思えました。生活保障のための社会的運動だった昨年末から新年にかけての年越し派遣村にも、国労闘争団の旗は見つかりませんでした。
 十勝闘争団はこのような状況とは無縁だったようです。だから地域に溶け込んだ十勝ユニオンの晴れ舞台に、地域の他の労働組合、平和フォーラム、自治労などが協力を惜しまなかったようです。これが全国交流会を成功させた原動力になりました。地域ぐるみによる成功です。

▼負けても継続できる強み

 全国交流会では、中野麻美弁護士が講演しました。中野弁護士はこの交流会は21回参加の皆勤賞なのだそうです。非正規労働、女性労働者の置かれている状況分析とそこにおける問題解決にむけた提案を行いました。
 パート労働とはなにか。女性パート労働者は働き手であると同時に生活・地域の担い手です。しかし仕事と生活を両立させようとすると働き方を理由に差別されます。根本的問題は低賃金です。差別と買い叩きの連鎖が貧困です。
 ユニオン運動は負けても継続できます。自分の存在は価値があるということを否定されたことに対する闘いだからです。それが強みです。
 あるパート労働者は「支店長を1人前に育ててきたのに、その私がなんで賃金は以前のままなの」という思いに駆られました。差別と暴力を受け入れなければ生きていけません。それを打ち破るのは、仕事に対する誇りです。
 差別とは一方の集団をなぎ倒すことです。「正社員は仕事と家庭を両立しなくていいんだ」といわれます。過労死は差別の結果です。
 1999年以降の労働法制における規制緩和のトップが派遣法改正です。競争を抑制しない働き方の促進です。経営者はそれを普遍化したいと狙っています。
 伊予銀行で13年働いている派遣労働者に対して、支店長が代わるといじめが始まりました。雇用打ち切りに対して裁判を起こしました。判決は「派遣労働者の期待権はわかるが、派遣労働は商取引だから打ち切っても差別ではない」というものでした。判決自体が差別です。
 ユニオン運動は、役に立つ自分がいる、労働に価値があることを自覚させる運動です。人権とは、自分の価値を見出すことができ、差別されない権利です。同時に他人の尊厳も確認できる権利です。
 ユニオン運動は、生活の視点から労働を見詰めてきたから持ちこたえられました。地域から多面的に問題提起ができる強さがあります。たとえば阪神神戸大震災の時の被災者との関係です。信頼による社会的連帯を追及できます。

 このような思いは実感、共有できます。ユニオン運動には素晴らしい面がたくさんあります。たしかに阪神神戸大震災の時、ユニオン以外の労働組合は機能できませんでした。
 しかし、酒が入った夜の交流会ではそれぞれのユニオンの影≠フ部分の話が中心に真夜中まで続きました。どこもたくさんの悩みを抱えています。その1つが、加入者の定着率の問題です。どこも低いようです。何故なんでしょうか。

▼信頼による社会的連帯の追求

 個人加盟のユニオンでは多くの場合、相談はトラブルが発生した後に個人できます。ユニオンも「駆け込み寺」「個人でも加入できる労働組合」をキャッチフレーズにしているので、個人での加入を受け入れて交渉します。しかしこれは現在の労働組合法では可能となりますが労働組合運動論とはイコールにはなりません。「駆け込み寺」は緊急避難場所です。そこをどうつなぐかはユニオンが持っている運動論になります。
 各ユニオンは、地域に根ざしたり、専門性を持ったり多面性を持って経験を蓄積させています。しかしトラブルに直面した労働者は、加入手続きに際してユニオンの運動論を説明されても個人の問題を早期に解決したいという思いだけが頭を占領しています。
 相談に来た労働者にとってユニオンは解決のための手段であっても運動体ではないのです。トラブルが解決したらその後関係性を維持するかどうかは新たな判断をします。ユニオンは踏み止まらせる方策として交渉や相談活動の経験やユニオンの仲間との交流で「自己変革」を迫ろうとします。しかし他者の価値観を変えさせるなどということはそもそも傲慢です。
 短期間しか在籍しない組合員でも、自分が会社と交渉した、自分の意見を主張できたという体験による自信を持って再スタートします。この後いつかトラブルに遭遇した時、一皮向けた労働者として登場するはずです。彼はまた周囲の人や友人が労働問題に遭遇した時に、泣き寝入りをするなとアドバイスをし、ユニオンのことを話すはずです。長期的にみたなら、ユニオンや社会への還元は必ずあります。
 そのことは中野麻美弁護士が言う「信頼による社会的連帯の追求」だと思います。だからユニオン運動は社会運動でもあるのです。
 多くのユニオンが加入した組合員をより長く踏み止まらせたいと捉えるのは、財政上の困難さを克服したいという思いがあるための場合があります。財政は決して二次的問題にすることができない問題です。担当者の活動は決して無償ではできません。結果としてユニオンの担当者の活動スタイルに影響が出てきます。しかし日本では担当者の生活はなかなか顧みられません。どこでも深刻な問題です。担当者それぞれの自己犠牲の上に成り立っているのが現実です。
 
▼ 微力でも無力じゃない

 ユニオンで活動している者同士、大きな組織の組合を財政面では羨ましい、その何分の1でもあったら自分ならこう有効に活用すると夢を語ることがあります。しかしユニオン活動と比べて活動が面白いだろうなと思うことはありません。労働者と喜怒哀楽の共有があるとは思えないからです。
 労働組合は団結と言います。では団結とは何か。
 現在の国労・国労闘争団の運動と冒頭の十勝闘争団でも、団結の捉え方は違うように思われます。
 かつて、全国一般労働組合は他の組合から「寄せ集めのごみ組合」と言われました。(今聞くと二重三重に差別性を含んでいます。)ではユニオンは? 「芥・埃組合」と言われることでしょう。
 しかし、大きな組合が取り上げない課題を抱えたり、時には無視されたり追放されたりして個人加盟のユニオンに辿り着く労働者がいます。相談を受けると内容は確実に労働問題です。たった1人であっても労働者の権利や生活権を放置したり否定することは許されません。
 なぜ大きな組合は相手にしないのでしょうか。大きな組合は量的に大きいだけで対応できないのです。新たな問題への挑戦をしないで組織の拡大や強化はありません。だから現状維持に固執するのです。そこでは人権が否定されます。差別はやむなしと捉えられています。それらの問題を受け入れて闘う個人的加盟のユニオンは、組織破壊者となります。
 そんな組合活動を、面白いとは見えないのです。
 しかしユニオンは1人の問題をみんなの問題と捉えてきました。生活の視点から労働を見詰めてきました。そしてそれぞれが自己変革してきました。やはりなくてはならない存在だと確信します。だから楽しいんです。
 個人加盟のユニオンの地域と生活に根ざした活動は、わからないことに遭遇したら他のユニオンに相談します。全国コミュニティーは「隣り組」活動です。1つひとつを捉えると社会問題を含む事案がたくさんあります。視野が広がります。時代を掴み、全国的社会問題として取り組むことが可能です。
 コミュニティーユニオン全国交流会に参加した仲間は、それぞれのユニオンに「微力だけれど無力じゃない」と実感させます。だから楽しいんです。

(投稿:ちはま・しんじ)


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