【派遣切りの嵐に抗して】

賃金も報酬も配当も分かち合うワークシェアリングという方策

−命と生活に直結する雇用確保のために−

(インターナショナル第184号:2008年12月号掲載)


▼どこにも危機感のない異様さ

 派遣労働者の、期限前契約打ち切りの嵐が吹き荒れている。
 しかも年末を控えたこの時期に、社員寮からの退去まで要求する無慈悲な「派遣切り」が横行し、文字通り路頭に迷う失業者の急増が心配されている。
 政府は、就職斡旋や「雇用促進住宅」への入居斡旋などの対策を打ち出し、経団連などを通じて経営側に雇用の確保を要請したりはしたが、期限前の契約打ち切りや、新規採用者の内定取り消しは「違法だ」という強いメッセージがなければ、派遣切りの嵐に歯止めを掛けることはできない。
 雇用(失業)保険給付期間の延長や給付額の増額も検討するとはしているが、急激な雇用環境の悪化のスピードと比べればイラつくほどスピード感に欠け、あげくに民主党が参院で可決した失業対策の法案を衆院では否決すると公言しながら、代替案さえ提案しようとはしない。

 日本経済団体連合会(経団連)も、09年春闘の経営側の指針となる「経営労働政策委員会報告」(12月16日発表)で、雇用安定に関する方針を当初の「最優先」から「努力」に後退させ、「未曾有の危機の中、雇用問題で政府の積極的役割を期待する」と、まるで他人事のように政府に対策を丸投げして、その社会的責任を果たそうとしない。
 少なくとも、昨年まで史上最高収益記録を更新する活況に沸いてきた大企業が、その収益のほんの一部を非正規雇用労働者の雇用確保に回すだけで、真冬に路頭に迷う失業者を出さずにすむはずなのにだ。

 日本最大のナショナルセンター・連合の高木会長は、経団連の指針について、「率直に言って失望した。どうやって不況を乗り切るのか、格差社会をどう変えていくのかといった視点が何もない」を厳しく批判したが、労働組合として、現に路頭に迷う危機に直面している失業者に対する具体的な支援や援助を語りはしない。「雇用も守り、賃上げも勝ち取る。優先順位はつけない」と大見得はきっても、その雇用を守る具体的な提案さえ示しはしないのだ。
 しかも連合傘下労組の現場では、「組合員ではない非正規社員のために(労組が)動くには限界がある」と言う。正社員だけを守ろうとする「企業内本工主義」が非正規雇用労働者の苦境に背を向けさせ、それがやがては正規雇用も脅かす危険であることには、やはりが思いが及ばない。
 これだけの失業禍なのに、危機感を持って立ち向かおうとするリーダーがどこにも居ない異様さに、愕然とする。

▼正規も非正規も共に闘う意味

 いったい日本の社会は、いつから「会社都合による失業」に、これほど冷淡になってしまったのだろうか。いま吹き荒れている解雇の嵐は、労働者には責任の無い世界的な不況で、製造メーカーが産調整(減産)を始めた結果によるものだ。労働者に責任の無い失業にまで「自己責任」を押し付けるのは、本末転倒と言うものだろう。
 そんな「当たり前の思い」が、非正規雇用労働者たちに声を挙げさせ始めた。非正規雇用労働者の駆け込み寺となってきたユニオンが、生活支援のNPOが、反貧困運動を担ってきた人々や運動体が、未曾有の失業禍に懸命の抵抗を始めている。

 そうしたユニオン運動のひとつである「全国コミュニティ・ユニオン連合会」(全国ユニオン=3300人)は12月13日、「緊急ワークシェアリング」を盛り込んだ「09春闘」の方針を発表した。
 ワークシェアリングと言うと、今から10年前の98年末、当時の日本経営者団体連盟(日経連)が「99春闘」の経営側指針となる「労働問題研究委員会報告」(労問研報告)で、「1人分の賃金を2人の労働者で分け合う発想」という、とんでもない解説付きで提唱した「雇用確保の方策」を思い出す【本紙96号:99年1-2月参照】
 もちろんこの「発想」は、ワークシェアリングと称する「賃金半減」方策であって、その実態は、現在の非正規社員が正規社員の5〜6割程度の低賃金で雇用されている姿そのものである。
 だがワークシェアリング本来の意味は、不況による減産などで仕事が減った時、労働者全体の労働時間を短縮し、それに伴う賃金の低下分を労働者が分かち合って「失業を減らす」方策であり、さらには経営者の報酬や株主配当の減少も「分かち合い」の対象にして然るべき方策でもある。
 全国ユニオンの方針は、賃上げ原資を前年比3%程度増額するよう経営側に求めた上で、正規労働者の賃金は据え置き、その原資のすべてを非正規労働者の雇用確保に充てるという具体的な提案を含んでおり、経団連がねじ曲げたワークシェアリングの意味を、「労働者の相互扶助」という、本来の意味で復権させようとする試みとも言える。少なくともこの具体的提案は、10年前に連合が主張した、「賃金低下を伴わないワークシェアリングによる時短と雇用増」(99連合白書)という、一般的で現実的でもない反論より、はるかに明快で現実的である。
 さらに全国ユニオンは、「今回の春闘は正規も非正規も、ともに闘わなければ意味がない」という前提に立っているが、それは「正社員の賃金が高すぎる」という「正社員たたき」で非正規労働者の低賃金を正当化し、正規と非正規の労働者を分断・敵対させようとする経営側のキャンペーンに抗して闘うためには、必要なことだろう。
 すでに解雇と失業の嵐は、非正規雇用労働者から正規雇用労働者にまで広がっており、非正規だ正規だと言って労働者相互の連携に背を向けては、未曾有の失業禍に立ち向かうことはできない。
 「雇用とは生活であり、命の問題であるという認識が、経営者になくなっているのではないか」という、全国ユニオンの鴨会長の危惧が現実感をもつ現状であればこそ、「正規も非正規もともに闘わなければ」ならないのだと思う。

(12/22:ふじき・れい)


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