●若年失業率上昇が提起する課題●
偏見や差別との闘いにむかう、失業者運動の可能性


大量失業時代のメーデー

 5月1日の第71回日比谷メーデーには、「働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう」をメインスローガンに、およそ2万人の労働者が結集した。
 今年の日比谷メーデーでは、リストラと倒産攻撃による失業が増加しつづけるなかで、政府がこれを容認するだけでなく、むしろ不当な整理解雇を合法化する商法改定などによる一連の倒産法制や会社分割法制の整備が矢継ぎ早にすすめられ、司法とくに東京地裁では、労働組合の闘いによって判例として確立されてきた「解雇4条件」を事実上反故にするような不当判決が連発されているといった情勢を背景に、労働者の雇用、権利、生活を脅かす攻撃をはねかえす、労働者の総団結が訴えられた。
 と同時に日比谷メーデーでは、石原東京都知事が、陸上自衛隊第1師団の記念式典で巨大災害時に自衛隊の治安出動の必要性を公言するとともに、在日朝鮮人と中国人の蔑称である「三国人」という言葉をつかって、彼らがあたかも災害時の騒乱の主体となるかのごとき発言を行ったことに対して、「雇用破壊NO!」の運動を共に担った外国人労働のユニオンを先頭に抗議の声があげられ、都労連からも、失業の危機に脅かされながら、劣悪な労働条件下で働く外国人労働者との連帯の決意が表明された。

若年失業率の急増

 メーデー直前の4月28日、総務庁が発表した労働力調査によると、今年3月の完全失業率は4・9%で、1953年以降の最悪を記録した前月と同率であった。しかしより正確には、2月は4・85%の切り上げで3月は4・92%の切り下げつまり3月は0・07ポイント悪化したのであり、失業者数は前月比22万人増の349万人と、文字通りの最悪を記録した。そしてさらに男性の失業率は前月比0・1ポイント増の5・2%と、これまた過去最悪となった。
 失業率の高止まりが常態化しつつあるが、3月調査に現れた特徴は、中高年層の失業率の推移との比較で、男女ともに若年労働者の失業率が悪化しはじめていることである。右の[表]を見ていただければ一目瞭然だが、男性失業率は、新卒者が加わった学卒未就職者が32万人と過去最多となった影響もあって、「15〜24歳」では前月比2・0ポイントもの急激な悪化で12・5%に、「25〜34歳」でも同0・7ポイント悪化の5・8%となり、他方女性では「15〜24歳」の9・7%を筆頭に「25〜34歳」の6・5%、「35〜44歳」の4・2%と、若年層失業率が上位を占めている。
 経済企画庁や日本銀行が今年になって景気の回復傾向に言及しはじめた一方で、3月と同じく最悪となった2月の失業率が公表された当日に発表された日経連の奥田会長のコメントは、「企業には依然として雇用過剰感があり、今後とも雇用情勢は厳しい」と、失業のさらなる増加を予測するものだったし、経済企画庁が4月11日に公表した99年度の企業行動アンケート調査の結果でも、過剰人員が解消されるまでに「今後2年以上かかる」とする回答が6割に達した。
 いわゆる「雇用なき景気回復」の様相がますます明らかになりはじめ、ここから日本社会の未来への漠然たる不安が、あるいは既得権益と骨絡みになっていることで社会的再編に伴う矛盾や厄災に対応できない保守政治=自民党への不満が広範に、そして幾重にも積み重なる。

新たな課題 失業者運動

 若年労働者層の失業率の増加傾向は、グローバリズムに対応する日本資本主義の産業再編が、新しい段階に入りつつあることを示唆している。
 世界的な過剰生産に直面し、生産設備の大量廃棄がバブル時代のツケでもある不良債権処理と平行して進められた時期、失業者の多くは、ポストの削減で行き場を失った相対的に賃金の高かった中高年労働者が、配転や出向が繰り返されるなど陰湿な形で職場を追われたり、中小企業の倒産件数の増加とともに生みだされた。
 しかし若年労働者層の失業率の増加は、こうした生産設備の大量廃棄や企業淘汰がある程度進んだ現在もなお、新たに雇用を生み出すような職場がつくり出されないばかりか、企業は新規採用を手控え、今後もしばらくは生産削減を維持しつづけようとしていることを示すものである。その意味で「景気のゆるやかな回復傾向」は、失業という労働者の犠牲のうえに、デフレスパイラルに直面していた資本が、ようやく一息ついたことを明らかにしているにすぎない。
 政府・労働省は、求人・求職のミスマッチが問題だとして、情報通信や介護労働を中心に職業訓練を強化し、1年間で35万人の雇用機会の創出をめざす緊急対策を策定したが、それは不安定雇用労働者の就職機会を多少増加させる効果はあったとしても、例えば大卒などで就職浪人になった若年労働者層の就職機会の増加にとっては、どれほどの効果があるかはなはだ怪しい。
 こうした失業の新たな深刻化は、失業との闘いが、労働組合にとって今後ますます重要な課題となることを意味する。連合も、企業内組合から失業者を出さないという視点からではあれ、「解雇に関する規制」を盛り込んだ労働者保護法制定要求を全面に押し出しはじめているが、それと同時に現実の失業者を、とくに若年失業者層をいかに労働運動の一翼に組み入れ、雇用を労働者の権利として社会的に認知させるかが、労働組合の新たな課題となっている。
 この失業者自身を労働運動の一翼にしっかりと組み入れるという課題は、実は労働力調査などには現れない潜在的な失業者、その多くは社会的な差別や偏見によって、長期にわたる失業を余儀なくされ、あるいは雇用流動化政策が助長する不安定雇用にあまんじることを強要される女性労働者や外国人労働者を労働運動の内部に組み入れ、そうした仲間たちとともに労働組合が失業という社会的問題と取り組むことを通じて、社会的差別や不平等とも対峙していく、そうした社会的労働運動への挑戦に連なるのである。
 大量失業時代の本格化は、労働組合と労働運動の真価を問う局面のはじまりを意味するのであり、それは民間中小の労働運動の問題にとどまらず、公務員の労働組合にとっても、すでに行政の職場に大量に導入されているパートやアルバイトなどの不安定雇用労働者の組織化や新たな関係の構築という課題として提起されているのである。

  (きうち・たかし)


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