郵政現場に広がる臨時職員の反逆
労組・当局の癒着構造をおびやかす臨時職員の増大


官僚と組合幹部の天下り先

 新郵政マル生が支配する今日の郵政現場は、過労死、強制配転、サービス残業、年末残業拒否だけで分限免職等々。そして、天下り汚職、不着や破損郵便物と詐欺同然の生存保険付き簡保、儲け主義とこの主義に反してしまった「違法」な不動産投資による不良債権化等々。神奈川県警にだって立派に対抗できるほどの目茶苦茶ぶりだ。
 しかし、さらにさらに、この郵政現場の矛盾を凝縮してしわよせされる下請け職場がある。日逓(日本郵便逓送株式会社)だ。
 投函された郵便物を集めた局から配達する局まで、貨物自動車の郵便輸送等をする民間会社だが、同業の72%という、独占禁止法一歩手前のシェアをもつ。長距離便は、京都・東京間は1人乗車で1日で往復、京都・青森間は2人乗車だが、帰社時間が決まっているのでとんぼ返り。合理化は、例えば4年ほど前、7時間労働1時間休息を8時間労働1時間休息に変更、これで1人1日1時間の超勤が減って年間約24億円の利潤増。
 さらにさらに、正社員以外に、6時間未満の短時間社員、パート、期間臨時社員と、日逓労働者内にも階層と差別がある。正社員は全国に約4500人、期間臨時社員は各支店で違いがあるだろうが、名古屋支店ではほぼ同数、年々正社員以外の比率が増えている。
 経営陣が素晴らしい。郵政30万人職員の組織を長年運営してきた国家官僚OBが陣取る。これだけならよくある天下り会社だが、さらに全逓労組16万人の組織を長年運営してきた組合役員OBの天下り先でもある。
 筆頭株主がこれまた素晴らしい。郵政共済組合あるいは郵政互助会。郵政互助会というのは郵政省と全逓で作り、長年のでたらめ経営がたたり今や大赤字、互助会会員の郵政現場労働者は大被害を受けている。日逓自体は株式配当10%の優良企業だが、これは経営手腕によるものではもちろんない。
 労働組合がまたまた素晴らしい。少し前まではほぼ全逓の逓送部門のみで、逓送部門からは全逓中央執行委員会へ1人が選出される。全逓役員OBの経営陣との「団交」は、ねじれ現象で大変だろうなどと心配する必要はない。事業防衛で堅い意志一致がなされている。正社員以外は組合員になれなかったが、今年になって急に、期間臨時社員を準組合員に組織し始めた。期間臨時社員が各地で声をあげだして、労組的統制の網をかけておかないとやばくなったためだ。

連戦連勝の臨時社員の反逆

 1996年にユニオンなごや・日逓支部(東海)結成、97年に岡山一般・NOA支部(中国)結成、99年に郵政全労協・日逓支部(近畿)結成。他にも「日逓愛媛・水本博三さんの闘いを支援する会」(四国)があり、数年前より郵便輸送労働者全国交流会を積み重ねている。
 期間臨時社員への差別待遇はすさまじい。岡山日逓では組合結成以前、朝5時に電話してきて「今日は仕事があるから6時半に出勤しろ」あるいは「仕事が無いから11時に出勤してくれ」などということがまかり通る。2週間に1回休みがあるということだけが決まっていて、仕事が少なかったら「明日は休め」。そして昨年の賃金アップ要求への回答は「士気高揚のため1日13円から15円、月にすると約300円」。
 京都日逓では、臨時労働者を呼び捨てにし、昼食時間でも臨時便が出ると仕事優先、年間3800時間勤務で収入380万円。
 京都日逓の稲井司さんら4人は、24時間拘束の泊り勤務で2日分だけの賃金、つまり仮眠時間の賃金未払いを争い、98年11月19日、京都地裁で一人数百万円になる支払い命令・勝利判決をえた。つづいて今年10月21日、大阪高裁でも勝訴。国のお役人OBと労働組合プロOBが、違法に賃金をくすねていたのだ。全国の各支店でも同様の賃金未払いがなされているのであり、この闘いの全国的な波及は決定的な意味をもつ。
 稲井さんはまた、臨時社員にも最低6つ位は手当てを支払えという提訴もしている。正社員には、大型車乗務の際の手当てなど20数種類が支払われているのに、同じ仕事をしている臨時者にはゼロなのだ。
 そして日逓近畿統括支店が、昨年9月18日に行った雇い止め解雇に対しても、稲井さんは今年5月10日、京都地裁で解雇無効の仮処分決定(地位の保全、毎月28万円の支払い)を勝ち取った。決定文は、ことごとく稲井さん側に軍配をあげた。日逓側は、通勤災害による欠勤を「私傷病による休業」と述べたが、「私傷病とは業務に関係のない純然たる私的な原因による傷病」だとし、申請した通勤経路と交通機関を利用しない自動車通勤だったとしても、勤務の終了が深夜になることもあるので「合理的な代替経路」だったと、常識的判断を示した。そして、全国の臨時社員全体にとっての朗報となる「雇い止めはダメ」との決定を下した。「期間臨時社員の契約は事実上反復継続されており、実質上期間の定めのない契約であり、3年間という有期労働契約を定めた就業規則は、期間臨時社員の労働条件を不利益に変更するものであり合理的なものではない。従って3年間の期間経過による契約終了は失当である」。
 日逓は本訴争いに持ち込んだが、それは悪あがき。臨時社員の勇気ある反逆の火の手は、連戦連勝の道を進んでいる。
 すでに郵政全労協近畿協議会として、郵政局への要求書提出や駅頭ビラ、おおさかユニオンネットワークと共同での日逓申入れ、更に東京総行動・権利総行動での日逓本社交渉(岡山NOA荒木忠久さん、稲井さん、高橋伸二郵政全労協議長等の上京行動)などが取り組まれ、闘いは前進中だ。

【注記】以上は、「こんなんでっせ、シリーズNo.2『日逓期間社員』/郵政大阪労組発行」<99年3月/第14回郵政全国職場交流会報告>を参照した。

 

「職場の多数派」が変わる

 郵便局での「ゆうメイト」さんへの人権侵害も、ひどいものだ。郵政全労協が取り組んでいるアンケートにも、怒りの声がみなぎる。最近も、違法に社会保険未加入だったことが、会計検査院の指摘で暴露されたりしている。京都の奥田さんの雇い止め解雇撤回の公判も大詰を迎えている。支えているのはもちろん全逓ではなく、京都ユニオンの仲間だ。
 2001年に郵政事業庁、2003年には郵政公社化の合理化の大波が押し寄せ、真っ先に犠牲になるのが下請け労働者やパート労働者たちだ。しかし危機はチャンスに転化しうる。
 日本と同じように、ちょうど10年前、フランスに「連帯・統一・民主・郵便電信電話労働組合」という独立組合が誕生した。組合官僚が、闘う者を権利停止処分にしたことを契機に1000人で出発、今や1万2000人となった。組合員以外の労働者を含めた職場の多数派を、各労働組合が争う各種の従業員代表選挙では、元の労働組合を上回る支持を得るようになっている。そして日本では最近、郵政省は、サブロク協定(労基法36条に基づく協定)はパート労働者を含む職場の過半数の代表と締結するのが合法と、千葉で分限免職と闘う桜沢さんとの争いの中で認めさせられた。過去の企業内多数派に安住してきた全逓は、すでに職場の過半を代表できない状況が始まっているのだ。
 このフランスの独立組合の発展をもたらしたのは、徹底的な弾圧に抵抗しぬいたこと、組合の徹底的な民主主義、そして、反ネオナチや女性・移民・不安定労働者・失業者などとの社会的連帯の組織化にあったという。最近では、教育労働者の独立組合など26独立組合と緩やかな全国連合の形成もしている【「労働情報」536、537、538号/湯川順夫「フランス労働運動の新潮流」参照】。日本でも未来を切り開こう。     

 (T・U)


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