「産業再生法」の施行と中小労組政策ネットの結成
国家的リストラ法制を阻止しよう


 12月5日、東京・野口英世記念館で、「中小労組政策ネットワーック」(以下:中小労組政策ネット)の結成総会と結成記念シンポジウムが開催された。
 97年秋以降の、労基法改悪反対闘争からはじまった一連の労働法制改悪に対する反対闘争を闘い抜く中から生まれた「労働者の権利と倒産問題研究会」を中心にして結成された中小労組政策ネットは、今年8月の通常国会で成立し、早くも10月には施行された「産業活力再生特別措置法」(産業再生法)が象徴するように、「国家的リストラ法制」(朝日新聞12月3日:中野隆宣記者)の整備が急テンポで推進されはじめた情勢をうけて、この法制改悪に反対し失業や倒産と対決する民間中小労組の全国的ネットヮークとして、11労組・団体(約2万人)で構成される。
 その運動的土台は、労基法改悪反対闘争を皮切りにした一連の闘いの過程で、「中小労働組合の共同、共闘が深ま」(結成総会「2000年春の行動計画」より)ったことをベースにしているが、同時に、この同じ過程で国会での法案審議に対する闘いで協力を得られた社民党や民主党の超党派の国会議員たちとの連携を改めて強化し、今後次々と国会に上程される「民事再生法案」(今国会に提出)、商法などの一部改正を含む「会社分割法制」が、就労権の保障や労働条件の一方的な不利益変更の禁止などの労働者の権利を全く無視したものとなっていることを重視し、そうした政府原案の成立を阻止し、労働債権や就労権の保障を法案条文として明文化するよう要求するなど、「国家的リストラ法制」の整備との対決を焦点にして、これに反対する労働者の大衆的運動を強力に展開することを主眼におき、それを通じて中小民間労働者の全国的共同をさらに拡大しようとする運動体ということができるだろう。

大企業の合理化と首きり基準

 ところで「産業再生法」が施行された10月以降、日産自動車(10月18日)の大合理化案の発表を筆頭にして、松坂屋(同4日)、日本航空(6日)、三菱・コスモ石油(12日)、石川島播磨重工(13日)、住友・さくら銀行(14日)、高島屋(19日)、日立製作所(21日)、NTT(25日)そして三菱自動車(25日)と、著名な大企業が次々と「事業再構築計画」と称する大量の人員削減や賃金カットを含む経費削減、会社合併などを発表、11月初旬にも三菱重工や出光興産と、まさに首きりと賃金カットが、さしたる抵抗もなしにまかり通ろうとしている事態が始まっている。
 当然ながらこうした大企業の合理化推進は、中小民間企業にとっては、納入製品に対する価格低減の強要、下請け仕事の切り捨てや合併の強要まで含めて、重大な影響を及ぼさずにはおかないばかりか、それが中小企業における人員削減などの合理化を正当化し、さらなる連鎖的失業や倒産につながることは誰の目にも明らかである。しかも、こうした合理化を国家が後押しする産業再生法にもとづく支援が適用されるには、通産省が9月に出した「産業活力再生特別措置法にもとづく事業再構築計画の認定基準」をクリアーする必要があるが、その「認定基準」たるや、「従業員一人当たりの付加価値額が6%以上上昇すること」などの目標を明示するなど、首切りや労働強化を徹底してあおり立てるがごとき内容なのである。
 そのうえ「民事再生法案」や「会社分割法制」が原案のまま成立し、いわゆる「不採算部門」とされた部署や子会社が勝手に切り離され、「優良部門」だけがまったくの別会社に売却されるなどの行為が、就労権や労働条件の確保を無視して強行される事態が全面的に合法化されるなら、これは倒産・失業と対決する民間中小労組にとっては、まさに死活問題である。しかもこの局面で、こうした就労権の無視や労働条件の一方的変更の合法化を傍観すれば、それは公務員労働者にも、そう遠くない将来に災いとしてふりかかるだろう。
 その意味で中小労組政策ネットは、民間中小労組を軸にして、連合、全労連、全労協を貫いた、リストラに脅かされるあらゆる労働者にとって、今まさに「必要な道具」としての可能性を秘めて結成された。

シンポジウムの討論

 午後から開かれた記念シンポジウムにはおよそ200人が参加したが、同ネットの常任運営委員の小谷野・全日建運輸連帯労組書記次長が「大量失業・雇用破壊を生み出す産業再生法と会社法変更の動向」と題する報告を行った後、武健一・全日建関西地区生コン支部委員長、設楽清嗣・東京管理職ユニオン書記長、嘉山將夫・全国一般東京労組埼玉支部委員長、それに東條由紀彦・明大教授をコメンテーターにしてパネルデスカッションと会場からの発言を含めて討論が行われた。
 小谷野氏の報告では、「国家的リストラ法制」の整備の動向が、とくに戦後労働法制の下で保障されてきた労働者の諸権利をまったく無視して進められていることにの重大な危険性を鋭く指摘し、(1) 主要労働団体と共通して「企業組織の変更に伴う労働者の雇用・権利保護法」の制定を要求し、(2) 大企業リストラに対抗する社会的運動、未組織労働者の組織化、中小企業者との共闘などが今後の具体的課題として提起された。
 つづくパネル討論では、嘉山氏は、カメラのニシダ再建闘争が、不況下で苦闘する商店会の中小企業を励まし励まされる関係として、地域運動の社会的基盤の広がりについて語り、設楽氏は、戦後システムがあらゆるところで破綻しはじめている今は、労働者が新しい生き方を見いだす好機でもあると提起した。そして武氏は、現在のような資本主義の危機はわれわれにとっては好機であり、限界がはっきりした企業内労組に対して、企業の枠をこえた個人加盟の産業別労組が優位性を発揮すべきときであり、さらに資本に要求するだけでなく労組自身が産業政策を対置し、投資などの企業経営にも関与するべき時になっているのではないかと提起した。
 シンポジウムの最後は、同ネットの共同代表のひとりである中岡基明・全国一般全国協議会委員長が団結ガンバローの音頭をとり、翌日の労働省への申し入れ行動を確認して終了した。               

(S)


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