労基法改悪案を廃案へ!全国の労働者の声を国会へ!
連合・全労連・全労協つらぬく労働者共同行動がもつ可能性

(インターナショナル89 98年5月号掲載)


働き過ぎ・過労死はごめんだ

 4月22日、東京日比谷公園の野外音楽堂で開かれた「北から南から労働者の声を国会へ/労働基準法改悪NO!4・22中央集会」には4千人(主催者発表)の労働者が結集し、前日の衆議院労働委員会で法案提出の趣旨説明が強行された労働基準法改悪法案の廃案を求めて気勢をあげた。
 この集会は、昨年の「意義あり労基法改悪!11・27全国集会」の成功を受けて発足した「労基法改悪NO!98春全国キャラバン調整連絡会議」が、沖縄・那覇からの南コース、四国・松山からの西コース、そして北海道・札幌からの北コースという全国キャラバンを組織し、その集約集会として企画されたものである。したがって当日は、所属上部団体や政治潮流にとらわれない広範な労働者の共同行動を組織し、キャラバン隊と共に労基法改悪反対の地域実行委員会を担った全国各地の労働者をはじめ、調整連絡会議を構成した国労、東水労、東京清掃、全国一般全国協などの労働組合のほか、全労働省労働組合(全労働)や国公労連などの公務員労働者も一同に会し、壇上にも連合、全労連、全労協という3つの全国組織の代表がならび、超党派の国会議員やその代理も顔をそろえ、文字通りナショナルセンターの枠を越える労働者の大衆的共同行動の力で、労基法改悪法案の廃案を実現しようと展開された全国キャラバンの集約にふさわしい集会となった。
 さらに集会後には、民主党、社民党、新社会党の国会議員の出迎えの中、衆参両院の議員面会所前の道路を埋め尽くす長蛇の請願デモが繰り広げられた。
 この行動の中で、現在でも労基法の定める基準以下の労働条件で働くことを強いられている中小民間の労働者たちは、集会とデモを通じてサポーター用のラッパや笛を吹き鳴らし、ショッキングピンクに黒々と染め抜かれた「労基法改悪NO!」のプラカードを頭上にかざし、「働き過ぎはごめんだ!」「過労死はごめんだ!」のシュプレヒコールを繰り返しながら、パート労働者、女性労働者、派遣労働者そして外国人労働者など、労基法改悪で直ちに打撃を受けることになる労働者の声を聴けと、終始行動の先頭に立ったのが印象的であった。

JCイニシアチブの低下

 こうした労働者の熱気に支えられた集会では、連合の時短センター局長・吉宮氏、全労連の行革労働法制局長・寺間氏、全労協の副議長・中岡氏がそろって改悪法案の成立阻止と廃案を訴えたが、それはまた全国キャラバンの全期間を通じて、連合、全労連、全労協を貫いた共同行動が全国各地で組織されてきたことの反映でもあった。
 これらのあいさつと決意表明で注目をひいたのは、連合の吉宮局長がきたる5月1日のメーデーを「労基法メーデー」と位置づけ、連合メーデーでは取りやめになっていたデモ行進が7年ぶりに復活すること、また学者・文化人らの「応援団」による労基法改悪反対の意見広告が4月末の全国紙に掲載されることを明らかにしたことである。メーデーの起源が8時間労働制を要求する労働者の大衆的デモにあることを考えれば、その歴史的財産に他ならない8時間労働制の破壊を目論む今回の労基法の改悪に抗して、連合傘下労働者の大衆的デモが復活することは象徴的であるばかりか、今後の闘いの大衆的発展にとっても有意義であろう。さらに労基法改悪に反対する文化人「応援団」の構想は昨年末、一度はJC派の反対によって発議すら押さえ込まれた経緯のある「曰くつきの企画」なのだが、それが実現されることも大いに歓迎されるべきことである。
 こうした連合の動向から階級的労働者が読み取るべきことは、連合内の労基法改悪をめぐる分岐と流動が、JC派イニシアチブの低下として現れつつあることである。本紙87号(2−3月号)の指摘を繰り返すまでもなく、今回の労基法改悪の最大の焦点とも言える裁量労働制適用業種の拡大と変形労働時間制の上限規制の大幅な延長は、サービス残業などと称されているタダ働きを「実情に即して合法化」する以外の何ものでもないだけでなく、JC派支配の拠点であり牙城でもある自動車、電機などの基幹産業の独占資本のもとでは、すでに労働協約のかたちで先取りされている今日の労働の実態でもある。つまりメーデーデモと文化人「応援団」構想の復活と言う事態は、今回の労基法改悪をむしろ資本の意向を受けて賛成するJC派イニシアチブに対抗して、労基法改悪反対を連合の公式な態度として押し出すべきだとするゼンセン同盟や金属機械など、中小労組を主要な組織基盤とする労働組合のイニシアチブが、相対的にではあれ連合内でさらに強化されつつあることを物語るからである。
 さらに階級的労働者がもうひとつ見落としてはならないことは、こうした中小労組を基盤とする労組官僚の思惑がどうあれ、その背後には失業や定年後についての拭いがたい不安を抱き、これらの不安に対する連合の無力を実感しはじめた労働者の大衆的圧力が存在することである。それはバブル景気の80年代を通じて階級的労働者が直面せざるを得なかった孤立、総評の解体と連合の結成という状況下で国家の組合つぶしと頑強に対峙した国鉄闘争の孤立に象徴された階級的労働者の孤立の局面が、日本資本主義の長期の不況を背景に、ようやくほころびはじめたことを示すもと言えるだろう。

 

 こうした連合内でのJC派イニシアチブの低下傾向は、全国キャラバンの全課程おいても各地で現れていた。連合、全労連、全労協という3つの労働者全国組織を貫いて、あるいは少なくとも所属上部団体の相違を越えて組織された各地区のキャラバン実行委員会は、数のうえではそれほど多くなかったとはいえ、南コースでは沖縄、鹿児島、熊本、福岡、京都などで、北コースでも北海道、福島、群馬、埼玉などで、「連合が結成されて以降は初めて」と言われる共同行動を実現し、それ以外の地域においても、結果的には奏効しなかったとはいえナショナルセンターの枠を越えた共同行動の実現に向けた様々な努力がつづけられた。そしてこうした労基法反対の共同行動に対して、各地の県連合は陰に陽に妨害を試みはしたものの、これを統制することは結局できなかったのである。
 こうした共同行動の第1の意義は、もちろん連合の結成によって分裂を強いられてきた日本の労働者階級が、地域の労働運動をベースにしてこの分断状況を部分的にではあれ突き破り、ナショナルセンターの枠を越えた労働者の連帯や協働の可能性を、自らの行動を通じて切り開いたことである。それは総評の解体とともに消滅させられた地区労運動、つまり資本系列や企業を越えて連帯する地域的な労働運動の復権の可能性を示すだけでなく、昨年11月27日の画期的な労基法反対集会が単なるエピソードではなく、全国的な基盤と可能性であることを明かにした。
 したがって第2に、この労基法改悪反対運動の全国闘争としての展開が、総評の解体によって、また地県評連絡会の機能マヒ以降は一段と深く地域ごとに分断され、全国的課題とは疎遠にならざるをえなかった地域的な労働運動とその活動家たちに、改めて全国的な視野での運動の必要や重要性を認識させる契機となる可能性である。今日、労働運動の全国的展開は、労基法の改悪という政府・労働省の攻撃に対抗する必要にとどまらず、長期の不況によって文字通り全国で激増するであろう倒産や失業に対応して、労働者の生活と権利の保障を国家(政府)に要求していくような闘いにとって、ますます欠くことのできない条件となる。だがまさにこの点で連合は、現実に増大するリストラや倒産による失業を資本の利益のために積極的に容認し、労働者による全国的な政治表現は、政府に景気対策を求める「制度政策要求」の枠に押し込めようとするのである。
 こうして第3に、この全国闘争の展開で示された国鉄闘争の成果と役割が、新たな意義をもって浮かび上がる。各地でナショナルセンターの枠を越えた共同行動を実現するために積極的役割を果たしたのは、連合系労組の結集にとってはユニオンネットが、全労連系労組では全労働省労組(全労働)が、そして全労協系労組では全国一般と国労であった。たしかに国労自身の取り組みは地区によってばらつきが大きかったのだが、闘争団が連合内外を貫いて築き上げてきた支援戦線とそこで育まれた活動家相互の信頼関係が、ひとつの結集軸となったのも明らかである。しかもそれは、国家的不当労働行為と対峙しつづけ、だからまた連合によって公式の支援を拒絶されてきた国鉄闘争が、16年にも及ぶ国家・資本から自立した闘いを堅持することを通じて、つまり連合の「制度政策要求」に対して、国家と資本から自立して闘う労働運動という「対案」をもって、連合内外を貫きかつ全国性をもつ労働者の共同行動の有効なイニシアチブたり得ることを示したという意味で、労基法改悪反対運動に現れたもうひとつの画期なのである。

 労基法改悪反対運動を通じて表面化しつつある連合内の分岐とJC派イニシアチブの低下は、連合の成立によって強いられた労働者階級の分裂状態を無条件に前提とする展望、とりわけこうした状況下で地域的な立て籠もりや連合傘下での隠忍自重による防衛的展望の見直しと転換を、すべての戦闘的労働組合と活動家に提起するのである。
 もちろん大衆的流動は始まったばかりであり、JC派イニシアチブが直ちに崩壊に向かう訳でもなく、これにとって代わる新たな全国的イニシアチブが準備されているとも言い難い。にもかかわらず明らかなことは、資本と癒着し、資本の意を呈する企業内労働組合の権化とも言えるJC派イニシアチブの低下が、連合時代の終わりのはじまりを示唆する以上、階級的労働者は、連合が総評から継承した企業内労働組合の限界性とともに連合そのものを歴史的に対象化し、戦略的反抗のイニシアチブのための自覚的な準備をはじめなければならないのである。

                                                                        (さとう・ひでみ)


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