【反貧困世直しイッキ!大集会】

弱さの自覚の上に、強い絆を

−「社会的労働運動」が姿を現すとき−

(インターナショナル第183号:2008年11月号掲載)


▼反貧困全国キャラバン

 「反貧困世直しイッキ!大集会・明治公園に2千人」(朝日)、「反貧困ネットワーク『私は部品じゃない』2千人が訴え」(毎日)、「自己責任ではない 命を削らないで『反貧困ネット』都内で2千500人集会」(東京)。
 10月20日各紙の政治面、社会面トップに掲載された反貧困集会の見出しである。かつて春闘や総評大会の記事は常にニュースのトップを占めていたが、近年、労働問題がこれほど注目されたのも珍しい。
 10月19日、東京・明治公園で、反貧困ネットワーク主催の「反貧困世直しイッキ!大集会」が、2千人の労働者、市民の参加で開かれた。
 反貧困ネットワークは、市民団体、労働組合、法律家団体などが集まって昨年10月に結成された。その後、「今こそ、私たち一人一人が世直しに立ち上がり、垣根を越えてつながっていくとき」とのアピールを発して、7月から東西2コースで全国キャラバンを展開、10月19日に明治公園に結集した。反貧困ネットワークは当日のプログラムで、自らを次のように自己紹介している。
 反貧困ネットワークは、日本で初めてできた貧困問題に幅広く取り組むネットワークです。貧困問題に取組む多様な市民団体・労働組合・法律家・学者諸個人が集まり、人間らしい生活と労働の保障を実現し、貧困問題を社会的・政治的に解決することを目的として2007年10月に発足しました。私たちは、貧困問題解決のために、さまざまな諸団体との連携の下、@当事者のエンパワーメント、A学習会・イベント・ホームページなどを通じた社会的問題意識の喚起、B政・官・財各界への働きかけ、Cその他の活動を行っていきます。「見えない」貧困問題を「見える」ようにして、社会全体で取組むように、皆で声を上げていきたいと思います。
 全国キャラバンは、西日本コースが北九州市(7月12日)から、東日本コースがさいたま市(同13日)からスタートした。北九州市や埼玉県がスタート地点に選ばれたのは、生活保護打ち切りの結果である餓死事件(北九州市)や、行政の生活保護打ち切り策動に対する三郷生活保護裁判(埼玉県三郷市)を意識してのことだ。
 東日本コースのスタートとなったさいたま市の集会では、民主、共産、社民党の国会議員と同時に、自民党国会議員も連帯あいさつを行った。また、笹森清前連合会長は中央労働福祉協議会会長の肩書で「人間らしい生活を求めて」をテーマに記念講演。彼は1989年の連合結成時には不倶戴天の敵であった国労のスローガン、「1人の100歩よりも100人の1歩」を紹介しつつ、団結して貧困と闘うことの重要性を強調した。
 この日のパネル討論出席者は、NPO法人自立生活サポートセンター事務局長の湯浅誠さん、NPO法人ほっとポット代表理事の藤田孝典さん、首都圏青年ユニオンの河添誠さん。また、連合埼玉、埼玉県労連(全労連系)の2つの労働団体や埼玉弁護士会などから発言があった。
 3ヵ月の全国キャラバンを経た10月19日の反貧困世直しイッキ!大集会では、派遣労働者やシングルマザー、生活保護受給者などが〃現代の貧困〃の窮状を訴えた。全体集会後は12のワークショップに分かれて、正味2時間の真剣討論。住まい、労働、食の危機、死刑廃止、多重債務・消費者問題、社会保障、後期高齢者・医療制度、女性と貧困、子ども、フェアトレードなど、ワークショップで取り上げた課題は、従来の労働運動の常識的枠組みを超えた社会問題そのものといってよい。現代の貧困と正面から取り組もうとするならば、その課題はこのような幅を持って山積しているのである。
 それは、私たちが主張してきた「社会的労働運動」と重なるのだが、さらにそこには政治への要求が加味されている。解散・総選挙間近と思われていたこの時点でのワークショップの課題設定は、総選挙での争点化を狙ったものだった。
 その趣旨は、「集会宣言」にもっともよく示されている。【資料参照】

▼運動の幅を広げた格差の拡大

 それでは「反貧困世直しイッキ!大集会」と、全国キャラバン運動の特徴と意義を振り返ってみたい。
 それは第1に、7月のさいたま市で開かれた全国キャラバン東日本コースの出発集会が見せた幅である。
 この集会には、連合埼玉と埼玉県労連という2つのナショナルセンターの地方組織が正式に参加、記念講演は前連合会長が行った。また各党からのあいさつには、民主党、共産党、社民党の国会議員と並んで、自民党議員までもが登場した。これは、驚くべき幅である。
 1989年に連合が発足したときの綱領「進路と役割」は、当時の総評左派(社会党系左派と共産党系)の屈伏ないしは排除を目的とする〃反共〃綱領であり、共産党系の全労連と連合が同じ集会に顔を並べるなど、あり得ない事態であった。自民党議員の連帯あいさつも同様である。
 ところが反貧困全国キャラバンでは、このあり得ないことが現実のものとなった。その実現の圧力となったのは、ワーキングプア問題が照らし出した日本社会の深刻な格差拡大である。
 ワーキングプア問題が示した格差拡大の現状は、〃中流社会〃を謳歌していた10年前の日本社会と比べるならば、信じられないような過酷な社会である。
 いつでも解雇が可能な日雇い派遣労働の下で、年収200万円にも満たない数百万人の若者たちが不満を鬱積させながら呻吟している姿、派遣労働の解雇によって住居を失い、ネットカフェ難民・路上生活者にならざるを得ない現実、生活保護費の削減による餓死者の続出、健康保険から除外された膨大な人々。あまねく平等であり、健康で文化的な生活を享受していると信じられていた日本的中流社会は10年後、失業から住居の喪失、餓死までの間に社会的なセーフティーネットがほとんど存在しない、恐るべき格差社会に変貌していたのである。
 このような惨状が過去との対比で鮮明であるだけに、ブルジョア的常識から見ても異常な格差社会に対して、多くの人々が異議申し立てをせざるを得ない。反貧困運動が有している幅は、このような現状に規定されているのであり、異議申し立てに賛同する層をさらに拡大させていくことが可能である。

▼テーマの広がりと政治的な要求

 反貧困運動が持っている第2の特徴は、運動主体の深まりである。
 この運動の中心的担い手であるNPO法人自立生活サポートセンターやNPO法人ほっとポットは、ホームレス支援としての生活保護受給申請へのサポート活動、地域生活サポートホーム(住居のない生活困窮者の一時的居住のため一軒家の借り上げ活動)の創設など、社会運動として労働問題にアプローチしてきた団体である。
 このような社会運動と、非正規雇用労働者の組織化を通じて発展してきた様々なユニオン運動が結合し始めたのである。そこには労働と生活、職場と地域をトータルに問題化せざるを得ない方向性が最初から内包されているのであり、日本の労働組合運動の宿痾(しゅくあ)とでもいうべき企業内組合とは一線を画す、新しい質を持った運動の広がりが示されているといってよい。
 それは、10月19日の「反貧困世直しイッキ!大集会」でのワークショップに、如実に示されている。住まい、労働、食の危機、死刑廃止、多重債務・消費者問題、社会保障、後期高齢者・医療制度、女性と貧困、子ども、フェアトレードというワークショップのテーマは、従来の個別的な労働運動の常識的枠組みを超えた、〃人間としての生存〃を求める根源的内容である。
 われわれはかつて、このような労働運動の登場を希求しつつ、それを「社会的労働運動」と呼んだ。いま姿を見せつつある反貧困運動は、未定型的要素が多分に含まれているにせよ、そのような新しい運動の開始である。

 この運動の持つ第3の特徴は、反貧困運動の現実に根ざした政治的要求を掲げ始めたことである。
 ワークショップで掲げられたテーマは、いずれも改良主義的な政治的解決を必要とするものである。しかも政治的解決を求めるこの要求は、金融危機に見舞われ、トヨタを中心とする大企業自動車メーカーで大量の派遣労働者が解雇されている現実を見るならば、ますます切実である。
 資料として掲載した集会宣言は、この点を簡潔に「貧困を解消させる第一の責任は、政治にある」と述べている。反貧困運動の規模はまだささやかではあるが、その運動が持っている質からして、今までとは異なる新しい政治勢力を求めるものへと発展していくであろう。
 「100年に1度」とマスコミも言わざるを得ない世界金融危機の中で、日本の社会に誕生した新しい運動の試みを大きく発展させなければならない。それはかつての運動の失敗を背負う古い世代の責務であると強く感じている。

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【資料】反貧困世直しイッキ!大集会「集会宣言」

 私たちは、今日ここに「世直し」のために集まりました。
 どんな世を直すのか。
 それは、人が人らしく生きられない、人間がモノ扱いされる、命よりもお金や効率が優先される、貧困が広がる、そんな世を直すためです。
 どうやって直すのか。
 それは、一人一人が声を上げ、場所を作り、それによって仲間を増やし、守られる空間をつくり、一人じゃないことを確認し、そして相互に垣根を越えてつながっていくことで直します。
 私たちの社会は今、間違った方向に進んでいます。私たちはそれを直したい。それが、私たちの責任です。「自己責任」などは、決して私たちが取るべき責任ではない。私たちには私たちの、市民には市民の責任の取り方がある。
 いま、日本社会は大きな岐路に立っています。
 労働者をいじめ続けるのか、人間らしい労働を可能にしていくのか、
 社会保障を削り続けるのか、人々の命と暮らしを支える社会にするのか、
 お金持ちを優遇し続けるのか、経済的に苦しい人たちへの再分配を図るのか、
 生存権を壊すのか、守るのか。
 私たちの選択は決まっている。私たちは、人間らしい生活と労働の実現を求める。
 選挙が近い、と言われています。
 政権選択の選挙だと、言われています。
 しかし、私たちが求めているのは単なる政権交代ではない。日本社会に広がる貧困を直視し、貧困の削減目標を立て、それに向けて政策を総動員する政治こそ、私たちは求める。
 そのためにはまず、労働者派遣法の抜本的改正が必要である。また、社会保障費2200億円削減の撤廃が必要である。
 しかし、それだけでは足りない。雇用保険、職業訓練、年金、医療・介護、障害者支援、児童手当・児童扶養手当、教育費・住宅費・子ども支援、生活保護、あらゆる施策の充実が必要である。この国ではそれらが、貧しすぎた。政治は、政策の貧困という自己責任こそ、自覚すべきだ。道路を作るだけでは、人々の暮らしは豊かにはならない。
 そしてその上で、国内の貧困の削減目標を立てるべきだ。貧困を解消させる第一の責任は、政治にある。
 私たちが「もうガマンできない!」と声を上げてから一年半。私たちは着実に、仲間を増やしてきました。私たちの仲間はすでに全国各地に存在し、分野を越え、立場を越え、垣根を越えたつながりを作り始めている。
 小さな違いにこだわって、負け続けるのはもうたくさんだ。敷居を下げ、弱さを認め、弱さの自覚の上に、強い絆(きずな)を作る。それが、私たちの運動であり、私たちの世直しだ。
 声をあげよう。
 居場所を作ろう。
 仲間を増やそう。
 一人一人が、もう一歩を踏み出そう。
 そして、社会を変えよう。政治を変えよう。 もう一度言う。
 私たちは、垣根を越えたつながりを作ろう。
 労働者派遣法を抜本的に改正させ、社会保障費2200億円削減を撤回させよう。
 貧困の削減目標を立てさせよう。
 そして、誰もが生きやすい社会を作ろう。
 それが、私たちの権利であり責任だ。
 以上、宣言する。

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(11/16:あらい・たかよし)


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