第一研究会まとめ報告 「総括研究の終了と情勢分析のための研究の開始」

2003.8 文責:すなが けんぞう


 第一研究会では、1999年の1月以来、第四インターナショナルの路線的総括のための研究を3つの段階にわけて行ってきた。
 すなわち、各研究ステージは以下のとおり。
(1) トロツキーの第二次永久革命戦略の総括(第1ステージ)
(2) 戦後第四インターナショナルの革命戦略の総括(第2ステージ)
(3) エルネスト・マンデルの後期資本主義論の総括(第3ステージ)
 この三つの総括のための研究ステージは、2003年6月をもって終了し、秋からは、情勢を分析しつつ、革命派の現代的課題を明らかにするための研究にはいることとした。
 三つの段階の総括は、順次文書化していく予定であるが、新しい研究ステージに入るにあたって、以下に大略を記し、簡単なまとめとしたい。

1.情勢の概略と研究作業の意義・目的

 1990年代の「グローバリゼーション」という名の、アメリカ国籍の多国籍企業(正しくは「世界企業」とよぶべきか)の世界展開の進展と、その利益を最大限に確保するために、アメリカ政府による、世界市場のアメリカ標準への再統合という状況が進展したあとの21世紀の今日は、時代が、20世紀とは大きく変化したといえよう。
 20世紀は「アメリカの世紀」と言われるように、アメリカ的資本主義(マンデルの後期資本主義、大量生産・大量消費のシステムを基本とした、フォーデズム資本主義というもの)が世界の主要な部分を覆い、世界人類の多くの人々に、これまでとは異なった豊かな生活を実現した時代であった。そしてこの時代は、資本主義発展の歴史の中でも、最も豊かさが確保されるとともに、平和な時代でもあった。
 たしかに米ソを中核とする「冷戦」と呼ばれた東西両陣営の対立は特に旧植民地である第三世界の帰趨を巡って、世界各地で戦われてはいたが、それは局地的に限られており、西欧と日本という先進資本主義国は、空前の繁栄を謳歌し、第三世界での争奪戦も、「開発独裁」による第三世界の資本主義化という形で、豊かな資本主義国へと生まれ変わった国々が出現し、「労働者は資本主義の下では不断に窮乏化せざるをない」という理論も、「植民地は資本主義の下では常に搾取され発展することはない」という理論も事実をもって覆され、さらには東欧・ソ連邦の崩壊・市場経済化という形で両陣営の戦いは、「資本主義陣営」の勝利という形でほぼ決着した。そして、「覇権国」ともいうべきアメリカも冷戦期においても、そしてその崩壊以後も、主要な国々との協調を旨とする国際戦略をとるゆえに、90年代までには「資本主義による」平和が実現したかのような様相を呈していた。
 しかしこの様相は、90年代後半から変化し始め、2001年9月のテロを契機に、大変動し始めた。
 すなわち、一方では、「豊かな社会」「平和な社会」の下で下降ぎみであった労働運動や市民運動が、先進国・発展途上国という枠をも超えて「反グローバリズム」という形で高揚する。そして、グローバリズムによって社会・文化を破壊された「第三世界」の「怨念」はテロという形で、世界資本主義の牙城アメリカを痛撃した。他方でこの動きに伴って、アメリカは、従来の国際協調的(大国同士の多国間協調的)国際路線をかなぐり捨て、中東を中心としてイスラムの地域を軍事的に制圧・アメリカ的市場へと強権的に改変することを通じて、世界をアメリカ国籍の世界企業の利益追求に最もふさわしい形へと再編するために、従来の同盟国をも強権的にその意思に従わせようと動き始めた。
 それゆえ時代は、20世紀が「豊かな平和な時代」だとすると、21世紀は「富の偏在と戦争の時代」であるかのような様相を呈しており、時代は大きくかわりつつある。
 この時代の変化をどうとらえ、その中で高揚しつつある反グローバリズムの運動にどのように関わるべきなのかが、今問われている。しかもこの運動は、さまざまな局面で多国籍企業(世界企業)の動きを規制し、富の偏在や差別をいかにして軽減していくかという、「資本主義の改良」ともいうべき性格をもっており、われわれ革命的左翼の陣営においては、これらの情勢をどうとらえ、どう動くべきかの問題をめぐって深刻な混乱を生み出している。
 そしてこの問題に答えることは同時に、われわれ革命的左翼の理論的な混乱やいまだ極少数派に過ぎない状況はどのようにして生まれたのかという問題にも答えなければならないことをも意味している。
 第一研究会の1999年からはじまる総括のための研究作業は、以上のような時代の転換の性格とわれわれの課題を明らかにするために、その第一段階として第四インターナショナルの歴史を振り返り、その革命戦略の批判的総括をすることを通じて、20世紀という時代の性格を把握するとともに、それと同時に、われわれの先達の戦いの何を継承し、何が克服されねばならなかったのかを明らかにすることを目的にして推進された。

2.トロツキーの第二次永久革命戦略の総括(第1ステージ)

・ アメリカのヘゲモニーへ注目したことは、この戦略の新しい側面であり、継承すべき視点である(現代資本主義をとらえかえすうえで)。

・ しかし彼の資本主義認識は「死の苦悶の資本主義」であったために、新しい性格と巨大な力を備えたアメリカ資本主義も、それが世界化したゆえに、この「死の苦悶の資本主義」矛盾の爆発の流れに引きずり込まれるとしたところに、限界があった。トロツキーには、アメリカ資本主義が世界を救済するとは考えられなかったのである。

・ 従って彼は、時代が「旧資本主義ヨーロッパ」から「新資本主義アメリカ」へのヘゲモニー交代をかけた争いの時代であったことを正しく認識できず、「死の苦悶の資本主義」としてのヨーロッパ資本主義の救済としてのファシズムと、「新たな発展しつつある資本主義」としてのアメリカ資本主義を背景とする世界資本主義の救済としての人民戦線との対立=ヘゲモニー争いを正しく捉えることができず、反ファシズム・反人民戦線の路線をとったために、第四インターナショナルは大衆から孤立し、第二次世界大戦後の危機においても、そしてその後の資本主義の急成長の時期においてもなんらの積極的な役割を果たしえず、少数の孤立した党派へと沈滞する端緒をつくった。

・ また彼は1920年代から30年代のヨーロッパ革命の挫折の原因を「主体の未成熟」と「主体の路線的誤り」によって労働者階級が歴史的敗北を喫したからと理解しており、労働者階級が革命へと向かわず、資本主義の改良へと向かった背景には、アメリカ資本主義によるヨーロッパ資本主義の再建およびそのアメリカ的資本主義への再編成があったことを見逃し、これが戦後における革命戦略の再検討を遅らす原因となった。

・ トロツキーの戦略・戦術は「すでに資本主義的改革・発展は不可能」との認識によって成り立っていたために、プロレタリアヘゲモニーの偏重に陥っており、資本主義的改革や、資本主義の枠内における社会改革などの政策は「階級協調」的なものとして退けられていた。しかし過渡的綱領の思想には、進んだ資本主義であるヨーロッパやアメリカにおいて、大衆を獲得する戦いでの苦闘の成果が盛り込まれ、戦後の豊かな資本主義・成長し続ける資本主義の中で、いかに社会改革を勝ち取り、社会主義へとむけて地歩を固めていくかという問題を考える上での、多数参考になる視点を内包している。しかし戦後においても「死の苦悶の資本主義」の認識の変更がなかったために、過渡的綱領の「改良と革命を有機的に結び付けようとした性格」は、発展させられることはなかった。

3.戦後第四インターナショナルの革命戦略の総括(第2ステージ)

・ 戦後の第四インターは、トロツキーの第二次世界永久革命戦略をほぼそのまま踏襲した。

・ この典型的例が1951年の第三回大会におけるパブロの路線(来るべき対決)であった。

・ だがこの路線は「死の苦悶の資本主義」との誤った認識に立っていたがゆえに、第三次世界大戦⇒アメリカ革命⇒世界革命という展望は破綻し、以後世界革命の展望をめぐってインターナショナルは分裂した。

・ そのご50年代後半における植民地革命の進展を背景に再統一されたが、植民地革命と先進国革命さらには労働者国家の政治革命の相互の有機的関係を把握する作業はなされず、トロツキー以来引き継いだ革命戦略の根本的な見なおし再検討はされなかった。

・ インターナショナル内部には「先進国革命」派と「植民地革命」派が内在して対立は続いていたが、基本的には「死の苦悶の資本主義」の認識は踏襲され、それゆえ「資本主義的改革は不可能」との立場に立っていたことにおいては変わりはなかった。

・ 日本支部は「植民地革命」派が優勢。その極東解放革命論の背後には、資本主義が延命したのは、1930年代のヨーロッパにおける労働者階級の歴史的敗北と、アメリカ資本主義が軍事的に革命を押さえつけたことにあるとの認識があり、それゆえ、アメリカの軍事的包囲網を突破して社会主義へと進むベトナム革命は世界革命の最前線とされ、その進展によってアメリカによる軍事的反革命は崩壊へと進み、その網の中で押さえつけられてきた日本労働者階級も革命へと向けて決起するとの考え方にたっていた。

・ つまり現にある大衆的闘争とその中間主義的指導部がそのまま革命化するとの立場をとっており、これが60年代末の青年の急進化という、資本主義の高度化にともなう社会・国家のより一層の民主化を求めた急進主義運動に、無原則的に合体するということに帰結したのである。

・ こここにも、「死の苦悶の資本主義」という考え方は通底しており、戦後に高度に発展した資本主義の内在的分析に基づく戦略の立てなおしという観点は存在しなかった。

4.エルネスト・マンデルの後期資本主義論の総括(第3ステージ)

・ インターナショナルの中で唯一戦後の高度に発展した資本主義を内在的に分析して革命戦略を立て直したと見られていたのはマンデルである。

・だが彼もまた、トロツキーの革命戦略をそのまま無批判に踏襲していた。「死の苦悶の資本主義」という認識、また資本主義が延命したのは1930年代のヨーロッパ労働者の歴史的敗北とアメリカの軍事的優位にあるという認識、したがって「資本主義の下における改良の発展」はありえないという認識もまたそのまま踏襲されていたのである。

・ それゆえマンデルは1960年代後半から70年代初頭における全般的な景気後退を「世界恐慌」と見誤り、ヨーロッパにおいて革命的危機が来たと判断してしまい、その後のヨーロッパにおけるインターナショナルの混乱の基礎を築いてしまった。

5.今後明らかにしなければならない課題

 90年代末から明確な姿をとりはじめた時代の転換と新たな大衆闘争の登場をどのように認識するのか。そしてこの運動の中で、どのように動くべきなのか。 
 この問題を明らかにするためには、以下のような様々な問題を明らかにする必要がある。

@ 今の歴史的段階を資本主義の上昇と下降のサイクルのどこにあると捉えるのか。
・後期資本主義の危機のはじまりと捉えるべきでは?

A 今を捉える上で、批判的に継承すべき歴史的遺産は何か?。
・ トロツキーの第二次世界永久革命論の積極的な側面
・ グラムシのプロレタリアヘゲモニー論や文化革命論 ではないか?。

B グローバリズムをどう捉えるか?
・ 一般的な理解は、経済主義的に捉えすぎている。
・ 食料、エネルギー、IT、軍事技術というアメリカが世界を主導できる分野をてことして世界を支配するために、政治的に世界をアメリカ的に再編成しようとするアメリカの世界戦略としてとらえるべきではないか?。

C アメリカのヘゲモニーが今後も貫徹するのだろうか?。
・ フォーディズム資本主義で世界を再編成するというアメリカのヘゲモニーは、ヨーロッパと日本を再建するという点において成功し、多くの人々に「豊かさを保障する」ことで、世界的にアメリカヘゲモニーが承認される基盤をつくったが、さらなる市場の狭隘化と競争の激化を招いた。
・ その後の70年代以降の第三世界の資本主義化の動き(グローバリズム)は多くの矛盾を噴出させている(貧富の格差・既存の社会文化の破壊・テロの続発など)。
・ もはやここには「豊かさを保障する」という大義も、「民主主義を広める」という大義もなく、あるのは、アメリカ一国の利益・アメリカの多国籍企業の利益しかない。このようなアメリカのヘゲモニーが、今後も世界の支持をえられるだろうか。

D アメリカのヘゲモニーが貫徹する中で、アメリカ自身の社会・経済・政治のシステムにどのような改変が生じてきたのか?。
・ アメリカは、戦後に高度に発展を遂げる中で、さらに大量の移民を受け入れ続けた(主としてアジア系とヒスパニック系)
・ そしてこの人々は、充分な豊かさが保障されないなかで、伝統的な「アメリカ人」に同化されることを拒み、独自の文化を持ち続けており、「アメリカ」的な伝統は分裂しつつある。
・ さらに60年代の公民権運動の進展やベトナム反戦運動の進展は、従来のアメリカ的価値観えの疑問を広げ、その反動としての保守的なアメリカ主義が白人中間層を中心に広がっている。
・ アメリカは二つに分裂しつつあるのかもしれない。

E 新保守主義派の淵源はどこにあるのか?。
・ 保守的なアメリカ主義を極度に純化した観がある新保守主義は、以上のようなアメリカ社会の分裂にその基礎をおいており、アメリカのヘゲモニーがそのままでは世界に貫徹しないという現実への、急進主義的対応という側面をも持っているのではないか。

F 資本主義がすぐには崩壊に向かわず、上昇と下降を伴った一定の発展を続ける中で、革命に向かう多数はを形成するためには、資本主義の中における改良と革命の関係をどう捉えなおすのか。また、現代資本主義の中におけるプロレタリアヘゲモニーはどうあるべきなのか。
・ プロレタリアートの独裁という考えかた、つまり労働者階級が権力を握らないかぎり、社会を社会主義的に改造することはできないという考え方は、その基礎に「死の苦悶の資本主義」という認識がある。
・ 資本主義の発展が紆余曲折はあるにしろ続くとすれば、この「改良か革命か」という二者択一的な発想は、社会主義に向けた運動にとって害をなすだけでなないか。

G EUに向かうヨーロッパの現在をどう捉えるのか?。
・ 経済共同体としてのEUは、フォディズム資本主義の枠内にあるが、そこにおける資本の活動を民主的に制限するシステムの発展などを基礎として国家統合へと進もうという動きには、フォーディズム資本主義を超える質が内包されている。
・ すなわち、反グローバリズムの中で言われている「もうひとつの世界」とは、そのような質を内包している。
・ したがってEUが国家的統合に進むには、その過程で社会革命をその不可欠の基盤とするのではないか。
・ EUに向かうヨーロッパの動きの中に、資本主義の改良から社会主義へと移行する過程が、端緒的に存在するのではなかろうか。

H 日本の現在をどう捉えるのか?。
・ 今日の戦後革新・戦後民主主義の崩壊とも言える状況は、どこからいたっているのか。いかえれば、戦後革新・戦後民主主義の総括が今必要である。
・ この戦後民主主義は、どのような性格をもった社会に基礎を置いていたのだろうか。この社会が変化しつつあるからこそ戦後民主主義は崩壊しつつあるのではないか。
・ この過程を分析する中で、こんごの展望も見えてくるのではないか。

※ ようするに「現代資本主義」の過去・現在・未来をたどり、その本質と今後の姿をを明らかにするとともに、そこにおける革命の戦略と戦術とを明らかにすることである。

6.今後の研究テーマと研究の進め方

☆ テーマ:「現代資本主義論とそこにおける革命の戦略と戦術」

○第1ステージ:アメリカンヘゲモニーの過去・現在・未来

@ アメリカ史の概略
A アメリカ建国革命の世界史的意味と、その思想
B フロンティア(西部開拓と国土の拡大)の世界史的意味と、その思想
C 工業化=フォーディズムと革新主義の時代の世界史的意味と、その思想
D グローバリズムの展開と国民国家の矛盾の拡大の時代の世界史的意味と、その思想

※ このそれぞれの過程におけるアメリカ資本主義の形態(社会および産業・国家の形態)とそこにおける政治思想のありかたを把握する。

○第2ステージ:ヨーロッパの現在と「もう一つの社会」の展望

@ ヨーロッパ史の概略
A ヨーロッパヘゲモニーの成立・発展・衰退
B EUに向かうヨーロッパの世界史的意味と、その思想
C 反グローバリズムの中で広がる「もう一つの世界」の展望の世界史的意味と、その思想
D 「もう一つの世界」への具体像とその全体構想

○第3ステージ:日本の現在をどうとらえるか
※ 明治維新以来の日本の近代化の過程を歴史的にとらえる(その流れの中で戦後史を位置付ける)

(問題点)
@ それぞれのステージのふさわしい参考書籍の選定
A 三つのステージを順次研究していくというスケジュールで進める余裕があるのか。

【討論の結論】

1:総括については様々な異論があり、合意には達しない。特にトロツキーの戦略と戦後の第4インターの総括については。しかしこの点をつっついていても仕方がない。現実の運動にどうかかわり、情勢をどうみるのかを実践的にやっていくなかで一致は図られるだろう。

2:研究テーマについては良い。しかし三つのステージの順番にそってやるのではさまざまなことが見えてこない。それぞれが相互に密接に関係しているので、もっとも焦眉の問題からやる。日本の現状、とくに戦後民主主義・戦後革新と呼ばれたものをどう総括するかは焦眉の問題だ。戦後革新は高度経済成長という枠グミとそれを支えた冷戦というアメリカの平和に依拠していた。今それが崩れているために、新たな戦略が求められる。それには戦後革新の総括が不可欠。新たな戦略にとって「成長神話」からの脱却は不可欠。この問題を考えるのに、小熊英二著の「民主と愛国」という本はとても参考になる。これをまず最初にやっていくこととした。


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