第一期 トロツキーの過渡的綱領の背景にある資本主義分析と革命戦略の総括
第二回 三回大会の展望の修正と綱領論争を通じての世界革命戦略の再検討

○「綱領草案批判」と「ヨーロッパとアメリカ」の革命戦略

99.4. 文責:すなが けんぞう


 1928年六月に発表された「綱領草案ー批判の基礎」と、1926年二月の講演「ヨーロッパとアメリカ」は、その革命戦略においては同じである。両者の違いは、「綱領草案」が第一次世界大戦後の情勢の総括全体に重点を置いているのにたいして、「ヨーロッパとアメリカ」が戦後情勢の根幹であるヨーロッパとアメリカの関係とアメリカの力の源泉の分析に重点を置いている事の違いだけである。

●戦後情勢の根幹は

『アメリカ合衆国が資本主義世界の中心となった』ことであり、『アメリカの膨張の必然的な、より以上の発展、ヨーロッパ市場自体を含むヨーロッパ資本の市場の縮小は、過去に起こったものがすべて影も薄くなってしまう様な、最大の軍事的・経済的・および革命的動乱を伴う』ことである。(草案批判)

●合衆国の圧倒的な経済的な優位性は

『ヨーロッパ資本主義の上昇を許さない。アメリカ資本主義は、ヨーロッパをますます袋小路に追い込む事によって、自動的にヨーロッパを革命の道へと追いやる。ここに世界革命情勢を理解する最も重要な鍵がある。」 (ヨーロッパとアメリカ)

●アメリカの国際化とは

『アメリカが膨張する必要はますます大きくなる。・・・合衆国が全世界を自己に依存させるが故に、ますます合衆国自身があらゆる矛盾と恐るべき激動を伴った世界全体に依存する。・・・アジアにおける資本主義の発展は不可避的に民族革命運動の成長を意味し、この運動は帝国主義の担い手たる外国資本とますます敵対的に衝突する。・・・合衆国はその力を不安定なヨーロッパとアジア・アフリカの民族革命運動に基礎づける事を余儀なくされている。・・・・アメリカは資本主義ヨーロッパの上昇を許さない・・ヨーロッパそのものがどのような政治的変動を経過しようとも、ヨーロッパの経済的行き詰まりは基本要因として残り続ける。そしてこの要因が遅かれ早かれプロレタリアートを革命の道に押しやる・・・。」(ヨーロッパとアメリカ)

※コメント:アメリカの国際化についてのトロツキーの理解は、「新帝国主義は旧帝国主義の危機の構造にひきずりこまれていく」というもの。ここにトロツキーの限界があったのではないか。実際は、アメリカによる世界の再組織化・世界のアメリカ化が1920年代初頭にすでに始まっていた。

以上の資本主義分析と革命の展望において、トロツキーの理解は、コミンテルン三回大会とは違ってきている。

☆ではどこに違いがあるのか・・・・・・・

 三回大会の展望は「21年に始まる資本主義の安定は、以上の展望に基づいて、24・5年の早い時期に革命的動乱が勃発する」との予測であった。しかし予想されたアメリカとイギリスの戦争は起こらず、ヨーロッパのプロレタリア革命も起こらず、ヨーロッパ経済はアメリカの援助のもとで一定の安定化をみせた。
 この予測の違いをどう評価し、今後の展望を建て直すかが、この時期の焦点。トロツキーは1923年のドイツ革命の敗北を基礎に「アメリカ問題」を情勢の根幹に据えて分析しようとした。

☆三回大会の展望をどの様に総括しどの様に建て直したのか・・・・・

@総括・・・・・・・

 ●『「安定」の第一のそして根本的原因は、一方における資本主義ヨーロッパと植民地 東洋の経済的および社会的地位の全般的混乱と、他方における諸共産党の弱さ、準 備不十分、不決断とその指導部の有害な過失との間の矛盾にある。』(草案批判)
  −−−−諸共産党、とりわけドイツ共産党指導部の極左的偏向と極右的偏向のジグザグにより、ヨーロッパのとりわけドイツの革命的情勢は取り逃がされた−−−−
  −−−−全く同じ事は、1927年の中国革命についてもいえる−−−−

 ●『1923年のドイツ革命の敗北のみが、アメリカ資本をして、ヨーロッパを暫しの間平和的に征服する計画の実現を開始することを可能ならしめた』  『ヨーロッパ革命が長く延期される事によって、国際関係の軸がアメリカの対ヨーロッパ攻勢の方へ移ってしまった。』  『かかる状況において、アメリカ問題は充分に検討さるべきである。』     (以上、草案批判)

※コメント:トロツキーはここで、「革命的情勢においては指導部にブルジョア社会の巨大な圧力がかかる」という形で「指導部の危機」と「情勢」との関係を相互的に捕らえようとしてはいるが、「アメリカの援助によって資本主義の危機は回避」されて、「情勢が革命的ではないから労働者階級の多数は社会民主主義にひきつけられ、革命的指導部は階級を動かせない」とは見ておらず、「アメリカ問題」と「指導部の危機」とを弁証法的に捉えていないのでは。ここにトロツキーの限界があった。そしてこの限界の根拠とは?。

Aアメリカの力の源泉の分析と資本主義の今後の展望・・・・・・

  T.アメリカ資本主義の第一の力の源泉
   −−−無尽蔵の自然・資源と資本主義の発展を妨げる歴史のがらくたのない社会環境、そして、最も活動的な人間分子の移動
  A.アメリカ資本主義の第二の力の源泉
   −−−労働の高度な機械化によって引き起こされた急速な技術発展と労働生産性の向上による、国際競争力の圧倒的な強さ
  V. アメリカ資本主義の第三の力の源泉
   −−−大量生産・大量消費のシステムの構築。預金銀行やクレジットの導入により大衆の一定の生活向上をはかることで、市場の拡大と資本       の集中を同時にはかる社会システムを構築した
  C.アメリカ資本主義の第四の力の源泉
   −−−政治的には一定の大衆民主主義の形態をとった労使一体の構造であり、これは資本と労働の利害の一致という外観に基づく
                       (以上、ヨーロッパとアメリカ)

※コメント:トロツキーはアメリカ資本主義の特徴を「特殊アメリカ的」なものとしてとらえ、アメリカにおいてのみ実現可能なものとした。しかし当時すでにカナダやラテンアメリカにおけるアメリカの動きは旧帝国主義ヨーロッパとは異なって、これらの地域を資本投下市場として開発する動きを見せていた。「世界をアメリカ化」する動きなわけだが、なぜトロツキーにここが認識できなかったのか?。

 X.資本主義の今後の展望と新たな革命戦略
   ・トロツキーはアメリカ資本主義の以上の特質を『純粋にアメリカ的な』特殊な事例ととらえる。
   ・従って、資本主義は破壊期にあるという情勢認識そのものには変更はなく、指導部の戦略・戦術の正しさだけが問題となる。

  『最近の議会選挙に現れたヨーロッパ労働大衆の急進化は争うべからざる事実である。しかし、この急進化は今その第一段階を通過しつつあるにすぎない。最近における中国革命の敗北のごとき要因は急進化の動きを妨げて、大部分を社会民主主義の水路へ追いやってしまう。われわれはこの過程が近い将来においてどのようなテンポで進んでいくかをここで予想してみようとは全然思わない。しかし、いずれにせよ、この急進化は、ただ、共産党への吸引力が社会民主主義の大きな予備勢力を犠牲にして増大し始めるという瞬間からのみ、新しい革命的情勢の前触れとなるだろうことは明らかである。現状はまだそこまでいっていない。しかし、これは鉄の必然性をもって起こらねばならない。』
  『戦後の第二の十年間では、革命的動乱の最も主要な源泉はヨーロッパとアメリカの相互関係にある。・・・・全問題は、プロレタリアートの国際党、コミンテルンの成熟と闘争能力とに、その戦略的立場と戦術的方法の正しさにかかっている。』   −−−(以上、綱領草案批判)−−−

☆新たな革命戦略の総括・・・・・

 @コミンテルン指導部の1928年以降のジグザグの指導による、革命的情勢の取り逃がし−−33年のドイツ革命の敗北とファシズムの勝利など
  −−−−その根本は・・・・・
   『 ヨーロッパとアジアにおけるプロレタリア革命の敗北を基盤とした国内の官僚 的およびプチ・ブルジョア層の経済的および政治的圧力の増大』にある。(綱領草案批判)
 
 A第二次世界大戦の勃発と、それを通じたアメリカ資本主義の巨大な予備力を背景にした資本主義世界の再組織化

 この2つの情勢の柱の相互関係をトロツキーはとらえようとしていたが、アメリカの位置・力が過小評価されている。そのため指導部のジグザグがアメリカ資本主義の力によるヨーロッパ資本主義の再建に基礎があるとは見なかった。それは、彼が、資本主義は「死の苦悶」の過程にあるとの前提で考えていたからではないのか。


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