民活の寵児・第3セクターの無惨
国鉄闘争で負けられない、もうひとつの理由


史上最悪の3セク破綻、シーガイアの倒産

 「シーガイアには、はじめっから反対だったとよ。こんな自然のきれいな海岸があるとに、なんであんなプールばつくらないかんとね?」。60年代の高度経済成長を背景に、日本ではめずらしい南国情緒を観光資源を活かして、かつては「新婚旅行のメッカ」と呼ばれて繁栄を謳歌した青島温泉で、東京からの客を相手に談笑していた飲み屋のママは、少しばかり語気を強めた。
 宮崎の巨大リゾート施設「シーガイア」を運営する第3セクター「フェニックスリゾート」(以下:シーガイア)が、関連2社とともに宮崎地裁に会社更生法の適用を申請して倒産したのは2月19日だった。冒頭のエピソードはその2週間ほど前のことで、すでに経営破綻が確実視されていたこともあって比較的冷静ではあったが、時代錯誤の観光開発に浪費された巨額の税金には納得がいかないとの思いは、はっきりと伝わってきた。

 破綻したシーガイアの負債は2762億円、関連2社も含めた負債総額は実に3261億円にものぼる。それは昨年倒産した「むつ小川原開発」の負債総額(1852億円)をこえる、第3セクター(3セク)の破綻としては史上最悪の負債記録となった。
 シーガイアの破綻が確実と見られはじめたのは一昨年の99年9月、メインバンクである第一勧銀が富士銀行、日本興業銀行との業務統合の発表を機に新規融資を停止したのが発端だ。これでシーガイアは事実上の延滞(元利支払い停止)状態に陥り、昨年には、サミット会場になったシーガイアがその開催前に破綻するのを回避しようと、宮崎県が観光産業の振興という「公益性」を名目にその財団法人基金に60億円の補助金を拠出、そのうちの26億円をシーガイアにつぎ込むまでに事態は悪化していた。

営利目的3セクの乱立

 官(第1セクター)と民(第2セクター)が合弁出資した事業体がいわゆる3セクだが、一口に3セクといっても財団法人や社団法人といった「民法法人」と株式会社や有限会社などの「商法法人」があり、住宅供給公社のような「特別法人」は含まれない。
 シーガイアは商法法人だが、こうした3セクの歴史は以外と古く、1913年に新潟県と地元企業が出資した佐渡汽船が初めてだと言われる。この元祖3セクは、現在は490人の社員で年商114億円を稼ぎ出し、資本金の6倍強の利益を蓄積する優良企業だ。つまり商法法人のシーガイアは官民合弁出資ではあれ、れっきとした営利目的の企業なのだ。ところがいま、全国に3484社ある商法法人3セクの多くが経営危機に陥り、出資者である自治体は、この佐渡汽船の不祥の末裔たちの救済や清算に関わる公金支出の是非に悩まされ、税金による営利企業救済に反対する住民との間に軋轢を引き起こしている。
 これら「不良3セク」の清算が急増したのは、金融ビックバンが叫ばれて不良債権処理が拡大した98年以降だ。97年にはじめて10件台になった清算件数は、98年には倍以上の25件、99年には27件、昨年は33件と年を追って増加した。第一勧銀の新規融資停止もこの不良債権処理の一環だった。
 ところで、この清算件数急増のなかで特に目を引くのは、民間活力導入と称して各種の優遇税制や規制緩和を促進した86年の「民活法」と翌87年の「リゾート法」を契機に、全国で雨後のタケノコのごとくつくられたレジャー・観光型3セクの清算件数が、3年間に清算された85社のうち39社(45%)を占めることだ。さらに清算や倒産には至らずとも、巨額の負債をかかえて経営危機に直面している観光型3セクは枚挙にいとまがない。例えば「3セクの優等生」ともてはやされた長崎のハウステンボスは、年商395億円に対して負債額986億円、シーガイアとともにリゾート法の第一次指定をうけた福島県の磐梯リゾート開発は、年商38億円に対して負債額500億円と、年商の何倍もの負債をかかえる3セクが目白押しなのだ。
 つまりシーガイアの倒産は、自治体の役人が殿様商売手を染めて失敗し、巨額の負債が自治体財政に、つまり地元住民が今後何年間も支払うことになる税金に付け回された、ということだけが問題なのではない。それはむしろレーガン政権下のアメリカによる内需拡大要求を背景に、社会的資産を私的資本の餌食にし、いまや社会的問題になっている環境破壊や財政危機の端緒となった、民活路線の破産とツケを象徴しているのだ。

民活の宴の果てに

 「リゾート法」(総合保養地域整備法)は、内需拡大の掛け声とともに策定された4全総(第4次全国総合開発計画)の目玉として成立したが、それは前年の「民活法」で金融や諸規制の緩和が一段と加速されたことと相まって、地価高騰の元凶である土地投機が一挙に全国に、それこそ過疎の山奥にまで拡大する契機となった。同法の地域指定を受けると、それまで開発が制限されていた国立公園や水源保安林、農業振興地域の指定解除や用途変更が、リゾート開発のために積極的に認められるようになったからだ。
 国立公園や水源保安林に限らず、農業振興地域もまた人間の社会生活に欠くべからざる社会的資産にほかならないが、リゾート法は文字通りの意味で、この自然が蓄積した社会的資産を開発と称する私的資本の営利活動の餌食として「開放」したのだ。しかも、中曽根自民党政権の民間活力導入の称揚が全国の自治体を営利事業へと駆り立て、そうした事業を手掛けない自治体首長は無能呼ばわりされる当時の雰囲気が、観光型3セクの乱立に拍車をかけた。
 そのうえ自治体の手掛ける営利事業は、多分に選挙を意識した地元向けの人気取りの傾向が強く、その分だけ経済的な合理性が軽視され、過大な売上見込みや非現実的な集客予測にもとづく計画になりがちだ。バブル景気を当て込んだシーガイアも、そのバブル景気によって進行した円高が海外旅行代金を大幅に下落させ、グァムやハワイなど南国への旅が急速に大衆化した現実を無視し、南国情緒の豊かさで人気を博した過去の繁栄を追い求めた末の破綻と言える。
 一発逆転・栄光復活の幻想をばらまく民活とリゾート開発の喧噪が、過去の栄光に代わる地域の再生を構想する地道な努力を忘れさせたとすれば、それこそがこの自民党的利権政治の最大の罪だろう

 自治体が合弁出資する3セクは、民活と称して社会的資産を私的資本の営利活動の餌食にする開発事業に、「公益」の衣を着せる絶好の隠れみのでもあった。それは国鉄の「赤字」解消という「公益」を隠れみのに分割民営化を強行し、他方では旧国鉄用地を再開発と称する資本によるさん奪の餌食に供しながら、減らすはずの国鉄長期債務を逆に増加させ、それを税金に付け回した手法とあまりにもよくに似ている。
 国鉄の分割民営化は、国家が不当労働行為の新しいモデルケースをつくってみせただけでなく、いま次々と破綻する3セク事業のモデルでもあったと思わざるをえない。こうして国鉄闘争が負ける訳にはいかない理由が、またひとつ追加される。

(さえき・しんや)


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