【投稿】

「国民のための郵便を守れ」は何だったんだ
−新郵便番号制のデタラメぶり−

インターナショナル88号(1998年4月号掲載)


 2月2日に実施された新郵便番号7ケタ制度が無残なデキソコナイとなる事は、昨年配布された新郵便番号簿で既に予感されていた。重くて見づらくて480頁もあるこの番号簿には、1700ヵ所もの並外れた正誤表がついていた。そして改訂版の番号簿発刊という無駄な経費と手間とをかけたのだが、この改訂版にもまた正誤表がついていたのだった。「7ケタ番号簿ならぬ、編集の仕事をナマケタ番号簿、これでは全くタマゲタ番号簿」と某新聞に揶揄されたわけだ。トボケタ郵政官僚が、利権確保というフザケタ動機で、バカゲタ新制度を考え、フニャケタ仕事で作り出した、これが7ケタ制度に他ならない。
 7ケタ制度は、郵便労働者にも利用者にも、何一つ利点というものをもたらさない。もしもメリットがあるとするなら、官僚の出鱈目(でたらめ)さが世の中全体を巻き込み全国の人々にデメリットを強いるなんてことがやすやすとできてしまうんだという、この世の不条理を再認識できる点だけだ。明治以来の郵便制度の大失態・大激動・大改悪が、大手を振ってまかり通る。

▼机上の空論、現場の実態

 「機械化により郵便料金値上げの時期を引き伸ばせる」、「宛名書きは市町村名・町丁名まで省略できる」という2点だけが、7ケタ制度導入のうたい文句だ。そしてこの2点ともが大嘘なのだ。
 ほんとうに郵便料金は据え置かれるのだろうか? 「10年間で8000人の人員削減など、費用を差し引いても2000億円の経費削減」などと郵政省はのたまうが、きちっとした見積もりや原価計算をしてだした数字ではない。10年間での投資総額2200億円(1台1〜3億円の区分機を、全国5000の集配局中1100局に1500台配備)も同じだ。付属品や保守費や機械の改良費など含めれば1台あたり5億円にもなると言われ、費用の総計は1兆円とも言われている。これでは採算割れで、逆に郵便料金値上げへとつながってしまう。
 人員削減の犠牲に真っ先になるのは、区分や配達順路に並べる仕事をしている女性パートさん。ところが7ケタ区分機導入のこの間、逆に5000人ものパートさんたちを雇っている。機械処理がうまくいかないからだ。機械故障の多発や誤読、それに機械は転居の家も、同一番地の複数の家も一緒に仕分けしてしまう。定形外郵便は郵便物の2割を占めるが、これはそもそも機械処理が出来ないのだから7ケタを書いても無意味なのに、省はこのことを利用者に告げていない。さらに書留郵便、速達郵便、小包郵便等も同様だ。結局、全郵便物の5割以上が以前と同じように人の手で仕分けしなければならず、2度手間になったりもする。バーコード打ち込みの新たな作業も必要だ。この実態が「人員削減で経費削減」という官僚による机上の空論の結果なのだ。いま行なわれている連日の残業代も、この机上の計算には入っていない。
 もう一つのうたい文句である「市町村名・町丁名まで省略」はどうだろうか? 従来の3〜5ケタでも書き間違えや機械の誤読は日常茶飯事、これが7ケタに増えるのだからより多くの間違いがおこるのは子供でも解る。1と6と7と9、3と8、5と6と0などなど。また、従来なら番号で駄目な時にはほとんどが市町村名までの記入があったので配達できたが、この記入が無ければお手上げだ。それに、付記するならば、「市町村名まで省略」して数字だけの郵便物などというのは味気ないのもいいところであって、漢字文化・日本語文化の衰退へとつながるだろう。
 今「幽霊郵便」が激増している。「〒313局(茨城県)」宛が「〒813局(福岡県)」とバーコード印刷されてしまうと、「〒813局」で間違いが判明→、福岡県の中心局である「博多局」へ送り返し→、博多局で機械処理してまた「〒813局」へという具合。やっと茨城県へ戻ってきたとしても、茨城県の中心局である「水戸中央局」で機械処理をすればまた「博多局」へ。こういうわけなので、一か八かの賭事が好きな人にだけ「市町村名まで省略」をお薦めしたい。もっとも、市町村名を記入していても、「何が何でも機械処理優先」の当局管理者によって「幽霊郵便」となってしまう危険はあるのだが・・・。

▼誤配の激増、信頼の崩壊

 7ケタ新郵便番号制度は、差し出し局で7ケタ番号と番地とを合わせてバーコド化して定形郵便に印字、配達局でバーコドを読取り道順に並べるところまで機械が行なう。郵便労働者の局内作業は激減し、熟練も必要なく、皆すぐに配達に出発し従来よりも広範囲を1日中郵便配りの激務、これで人員削減、万々歳という筋書き。
 この7ケタ番号制度の最大の問題は、「安全に確実に」届けるという、郵便の生命線が断たれてしまう点にある。多少の誤記入や不記載があっても、日本の郵便は間違いなく配達されていた。この信頼は、無能な郵政官僚ではなく、職人気質の現場労働者が延々と築きあげてきたものだ。1968年の3〜5ケタ制度導入後も全逓が郵便番号反対を掲げ、当局の愚策の防波堤になっていた。79年の4・28処分後数年で全逓はこの郵便番号反対の旗を降ろし、郵便番号制度は世の中に定着、全逓のマル生合理化協力路線もあいまって現場の郵便プロフェッショナルは減っていき、誤配や遅配などの矛盾が広がってきていた。7ケタ制度導入はこの揺らぎだした信頼を、不信のレベルにまで質的に転化させてしまうだろう。さらに近年、省は人事交流という名の強制配転を大規模にやりだし、何十年という地域での蓄積と熟練をゼロにし他局で丁稚奉公を強いるという非人間的で非効率的な施策で、不信への転化を手助けしてもいる。
 いま郵便局のなかは大混乱。利用者からの苦情の電話は絶えない。機械処理の不出来具合は配達の出発時間を早くはさせず、連日残業の強制。以前午前中に配達されていた利用者へのお届けが「夕便」になったりする。機械から出る多量のエラー郵便は、翌日回しにされることが多い。新型機械はローラーを何回も通るため汚損・破損が続出で、封筒の中身が飛び出してどこへ行ったか解らなくなったり、封筒の中のフロッピーが割れてしまったり、葉書がちぎれてしまったり。こういうひどい目にあっても、郵便局からお詫びがくる人はまだしも幸せだ。宛名も差出人も判読不能なほど破損した郵便は、当然のごとくほったらかしにされて終わり。以前は区分け・道順組立・配達の3段階で誤記載や転居などをチェックできたのだが今はそうはいかず、機械エラー郵便物の多さもあって、誤配達が激増している。

▼あれやこれや、ムダや危険

 7ケタ化にまつわる問題点はまだまだゴッソリとある。ありすぎるのでひとつひとつ詳述できないが、どれも、そのひとつだけで社会的大問題となるようなことだ。
 第1に、国民総背番号制にもつながるプライバシー問題。機械が読取るのは住所だけなのに、世帯主や家族や同居人、更に電話番号や在宅時間や飼い犬の有無までデータベース化し、しかもこのコンピューターへの入力を民間会社へ依頼した。地域事情に詳しい郵便屋さんならではの個人情報が一人歩きする恐怖。しかも郵政省は「住所・氏名データベースは、省の他の事業だけでなく、省外の国家機関でも活用」(「郵政研究」495号)と公言している。
 第2に、68年の区分機導入以来、機械納入を独占している東芝とNEC2社との郵政官僚の癒着。この癒着問題のひとつは、お決まりの天下り。もうひとつは、これもお決まりの談合。昨年12月には、公正取引委員会が独占禁止法違反容疑で東芝とNECの両社に立ち入り調査をした。
 第3に、印鑑や封筒の作り替え、名簿修正などの出費や労力を強いられた多くの人々・商店・企業など。7ケタ制への書き替えで、自治体では平均1千万円・全国合計で300億円の出費という。これは元をただせば税金。しかも憎いことに、郵政省は「自治体の対応やそのための経費は把握していない」と知らんぷり。他人に迷惑をかけて謝らないですますのは、ヤクザ屋さんと郵政官僚ぐらいなものだ。
 第4に、バーコード印刷の投資ができない全国の中小印刷屋さんは仕事が激減するなどの、社会的弱者へのシワ寄せ。損をした人がいれば得をした人がいる訳で、大資本の印刷会社やコンピューター関連企業などが大儲けというわけだ。
 第5に、大口利用者優遇の儲け主義。言い換えれば小口冷遇。つまり一般の利用者からふんだくって大口の大企業に貢ぐわけだ。これまでも一度に2000通以上なら最大43%という、採算割れと思われる料金割引があったが、バーコード機械を買って印字してから郵便局へもっていくと最大48%割引になる。1000通以上でも、80円が50円、90円が55円などかなりの割引だが、一般の利用者には無縁だ。ダイレクトメールを大量に送る会社などの場合、バーコード機械を買っても1年で元がとれるといわれている。ミニコミ誌などは書替え等でかなりの負担になるが見返りは無しだ。
 第6に、利用者無視の、自分らに都合の良いことだけの大キャンペーン。これに127億円も使った。3月末までに読取り区分機が導入されるのは、全国で都市部中心の200局だけ。ちなみに京都府では京都中央局の1局だけ。導入されていない局で7ケタを書いて出しても全くの無意味。2月2日に間に合わせようと必死に名簿修正などした利用者がこれを聞いたら怒るだろう。郵政省は人を怒らせても、もちろん意に介さない。自分らの準備不足を隠すほうが大事なのだ。
 第7に、新型区分機の危険性。昨年5月には試行局の東京・成城局でバーコード印字のインクが引火、爆発炎上をして近くにいた労働者が大怪我をして病院へ運ばれた。当局はいい加減な原因究明のまま事故隠しに躍起。つづいて北海道でも炎上事故が起きた。またこのインクは発ガン性物質を含むなど有害なものだが、ある局では機械操作の際マスクやゴム手袋の装着指示をだし、他のある局ではノーマスクと素手で作業をさせているという実態だ。郵便労働者の安全も健康も郵政省の眼中にはない。
 第8に、エリア配達という新しい配達方式の諸矛盾。これも机上の計算から出てきた、非効率・労働強化のマヤカシものだ。また、7ケタ新システムにより、配達時間(バイク乗車時間)が増えており、過労などによる交通事故などの危険性が高まっている。そしてまたまた郵政省は、こういうことを考慮しようとはしない。

▼7ケタ制度を葬り去ろう

 郵政民営化反対を唱えたとき、郵政省は何と言っていたのか? 全逓・全郵政の連合2労組は何と言っていたのか? 「国民に役立つ郵政事業を守れ、公共性を守れ」とは言わなかったのか? 7ケタ新郵便番号制度は、7割あった民営化反対の世論を消滅させてしまう施策だということを、彼らは理解できない。思考能力が限りなくゼロに近い。誤配・遅配・破損郵便などの被害者や現場労働者の方ではなく、大企業・大口利用者や天下り先の方へ、儲け主義と自己保身の怪物が彼らの関心の全てを向わせてしまうからだ。
 郵政全労協や郵政全協などボクらの仲間は、民営化反対の論議の中で「私たちの郵政事業論」の叩き台を提起してきた。この立場から、今なすべき最も必要な闘いは、7ケタ制を葬りさる活動だ。7ケタ不記載でも郵便は届く。今後10年間に更に数千億円を注ぎ込もうという無駄をやめさせなければならない。
 パートや非常勤の労働者と共に、そして最低限の公共サービスを受ける権利を侵害されている一般利用者と共に、郵政労働者は立ち上がろう。「確実に、安全に」郵便を届けるという自分の労働の中身にプライドをもってきた労働者にとって、今が正念場。7ケタ制廃止の大きな世論を創りだそう。

  名古屋哲一(郵政4・28免職者)
  参照資料:「伝送便3月号」他


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