9.25暫定滑走路に反対し
東峰をにぎやかにする集い
運輸省・空港公団を撃つ、新たなイニシアチブの登場


 9月25日、千葉県成田市にある東峰地区の「ワンパック」出荷場前は、政府・運輸省が発表した「暫定滑走路」建設計画に反対するおよそ200人の人々で賑わった。
 「暫定滑走路に反対し東峰をにぎやかにする集い」と銘打たれた、滑走路建設予定地のただ中で開かれた現地集会は、「成田空港問題円卓会議」(91-93年)の中で、空港建設の二期工区用地の強制収容を断念せざるを得なくなった政府・運輸省が、今年5月、文字通り突然、二期工事として建設を予定していた平行滑走路を「サッカーワールドカップ開催の2002年に暫定供用する」方向で検討をはじめたことを公表、空港公団は早くも9月3日には2500メートル滑走路を2180メートルに短縮して北側に800メートルずらす、姑息な計画変更の認可申請を運輸省に提出するという動きに反対し、現地の東峰を賑やかにする集まりとして開催された。

多様に賑やかに断固として

 この「集い」を全国に呼びかけ、当日は進行役をつとめた「暫定滑走路に反対する現地の会」の石井紀子さんは、「こんなにたくさんの人に集まっていただいて驚いている」と冒頭のあいさつで述べたが、事実、全国に発信された集いの「案内」にしたがって、京成東成田駅前発で会場近くに停車する昼間唯一の路線バスは、東京の通勤時間帯なみの満員状態で会場前に到着した。
 たしかに、かつて数千人数万人の全国集会を何度も開いてきた三里塚闘争から見れば、200人という参加者は極少数と言えるかもしれない。にもかかわらず当日の「集い」は、かつては全国的な反権力闘争の象徴的存在であった三里塚闘争とはあらゆる意味で趣を異にした、それでいて新たな可能性を垣間見せる性格を秘めていた。それは反対同盟の号令一下、様々な全国組織が上意下達の動員指令を発することで組織されたカンパニア的闘争を越えて、三里塚闘争が内包していた大衆的民主主義の要求を再確認し、さらには現代資本主義が軽視し破壊してきた土(つち)と食と命の循環という価値観の再発見と復権を通じて、肥沃な農地のもつ「公共性」を国際空港建設という「公共性」に対置し、それを社会的問題として突き出す、ラディカルな提起と運動の再組織を萌芽的ながらも体現するものと言っても過言ではない。
 と言うのもこの「集い」は、石井紀子さんが自ら出荷している「ワンパック」有機野菜のコンテナに、「ワンパックの未来はどうなるのでしょう/どうか力を貸して下さい」と題した一通の訴えを託し、これに共感した人々が口コミで、あるいはインターネットでこの訴えを海外にまで広め、そこから「成田空港の滑走路暫定案を白紙に戻すよう訴える声明」運動が生まれ、短期間のうちに全国で三里塚の闘いに心を寄せる人々が、あるいは環境問題や農業問題に取り組む人々が次々とこれに賛同すると言った、これまでの三里塚闘争とは明らかに違った経路と方法で、現地と各地の新しい自発性に支えられた、大衆的で全国的な連帯の輪が生まれ始めていることを背景にしていたからである。それは、未熟ながらも初々しい、三里塚現地と全国そして海外をも結ぶ、新たなイニシアチブの登場を予感させる動きである。
 だからもちろん「集い」の企画も、三里塚の集会ではおなじみの全国各地の「代表」たちが次々と壇上で決意表明を行い、戦闘的デモで権力と対峙するという旧来的なスタイルとはうって変わって、ワンパック出荷場周辺のチェックポントを廻りながら東峰地区の現状を見学するウォークラリー風のオリエインテーリングから始まり、「現地の会」の女性たちが中心になって作り飾りつけた色とりどりの造花や紙飾りで奇麗に飾られた会場で、現地の野菜をふんだんに使った豚汁やバーベキューを囲んでの交流あり、三里塚産の有機野菜を賞品にした抽選会ありと、多彩で賑やかであった。しかもこうした「集い」のあり様は、かつての闘争スーガンである「農地死守」を一歩すすめて、この土地で有機農業をつづける断固たる意志を示すことで「死守した農地の未来」を、つまり明日の三里塚農業の姿を対案として空港に対置するものであったし、当然ながらこの対置された農業の未来という「公共性」と、その担い手を自負する現地の農民たちに共感して集った支援者たちも、暫定滑走路の建設を絶対許さない決意を新たにした。

対案と共生と「話し合い」

 反対同盟によって「円卓会議」に提案され、今年3月には準備会が東京でシンポジウムをも開催した「地球的課題の実験村」構想が、この対案の基礎であろう。
 そこで提唱された空港と農業の「共生」とは、低下しつづける日本の食料自給率(今では主食の米を含めても30%に満たない)という現実にもかかわらず、巨大消費地・東京の近郊に広がる肥沃な農地をつぶして建設される空港が、他方では莫大エネルギーを浪費して空輸される大量の生鮮食品の輸入基地でもあるというあまらさまな矛盾に対して、農業の側から、滑走路増設による国際空港・成田の完成という展望に対置された戦略的対案に他ならなかった。
 ところが暫定滑走路の建設を強行しようとする運輸省と空港公団の名分は、相も変わらぬ「地域経済の振興」である。しかも空港建設工事による経済振興なるものが不況下の土建業界救済策であることは、「箱物行政」と言われる土建偏重公共事業に対する批判が強まっている今日では、誰もがただちに理解できることである。そして実に単純なことだが、空港建設工事は永久には続かないが、肥沃な農地を自然の循環の中で活かす有機農業と、現在の成田空港をも含む都市への生鮮食料の供給という営みは、人間が生きつづける限り必要なことなのだ。
 こうした戦略的見地に立った「共生」と、それを前提にする「話し合い」が、計画どうりの空港建設に固執し、ひたすら「農地を売れ」と地元に迫る農地買収交渉ではありえないのは当然であろう。だが運輸省と空港公団が「反対派農民に拒絶されている」と盛んに言い立て、マスコミもこれを鵜呑みにして宣伝している「話し合い」は、こうした農地の買収金額や立ち退き料の交渉でしかないのも明白である。つまり反対派の態度は「買収交渉の拒否」であって、円卓会議で提唱された対話の拒否とは違うのだ。
 ところが運輸省と空港公団は、平行滑走路建設が地元住民の要求であるかのような虚構をつくるために、地元商工会議所や町内会・自治会といった組織の地域ボスたちと結託して「工事推進の署名」を集め、さらには推進派(要するに空港建設で一儲けを企む輩)を中心に「成田空港問題フォーラム」を盛大に開催するなど、文字通りなりふりかまわず、滑走路建設予定地周辺の農民や地元自治体に圧力を加えたのである。しかも26万人と発表されているこの署名の実態は、三里塚の現実は何も説明しないばかりか、「円卓会議」の経緯もその結末も、さらには成田空港がかかえる政治的危機や暫定滑走路の欠陥には一言も触れることなく、平行滑走路さえ完成すれば地域にばら色の未来が開けるかのように吹聴し、親類縁者や近所づきあいまで利用し、「多ければ多いほどいい」などと言っては同一人物に二回三回と署名させるなど、実にでたらめなものであったことが暴露されはじめているのである。

空港の危機と滑走路の欠陥

 わたしは本紙96号(99年1-2月号)で実験村の現地ツアーを紹介し、併せて3月の実験村シンポジウムへの参加を呼びかけた一文で、成田空港が羽田空港との競合という政治的危機に直面していることを指摘し、空港公団が発表した「エコ・エアポート」構想なるものが、「政治の負債を象徴する(成田)空港を粉飾しようとする姑息な計算」であろうと批判した。そしてこの批判は、今現在も全く的を得た批判だと考えている。
 ただひとつ付け加えれば、滑走路の沖合移転の完了で発着枠に余裕ができ、地元でも国際線誘致の声が高まり始めている羽田だけではなく、いわゆる「首都圏第3空港」構想の浮上もまた、不便で、中途半端で、使用料も高い成田空港にとっては重大な脅威となっていることである。もちろん「第3空港」はまだ構想にすぎないが、自民党という利権政治集団の内部では「欠陥空港につぎ込む金があるなら新空港を」の声が高まるのは自然の成り行きであり、それが運輸省と空港公団の脅威であることは疑いない。
 今回の暫定滑走路建設計画の強行は、こうした成田空港の窮地を打開しようとする苦肉の策である。だが苦肉の策だからこそ暫路案には、重大な欠陥がはらまれることにもなった。すでにマスコミでも指摘されはじめている「短すぎる」欠陥である。
 ここで詳しくは述べないが、国際線の主力機体であるジャンボ機は、計画どおりの2500メートル滑走路ならかろうじて使用可能だが、暫定案の2180メートルでは全く使用できないと言う。ということは運輸省と空港公団のもうひとつの名分である「国際的信用」、つまり日本に国際線乗り入れを求めている国々に応えることが、暫定滑走路ではどの程度可能なのかが判らないことになる。とすれば運輸省と空港公団の思惑は、頭上40メートルという超低空で離着陸する飛行機の騒音に耐え兼ねて、東峰地区の人々が農地買収交渉に応じるのを待つという、実に悪どい追い出し工作であろう。これは機動隊やヤクザのかわりに騒音を使った「地上げ」である。
 暫定計画は運輸省によって認可され、早ければ12月には着工と言われる。だからこれに反対するわれわれは、知恵を出し合い、特技を生かし、現地東峰の声と現実をひとりでも多くの人々に伝え、暫定滑走路の建設と使用を是が非でも阻止するために全力を尽くさなければならいだろう。時間はまだある。現地と各地をつなぐ新たなイニシアチブが生まれつつある。だから多くの人々に真実を伝えなければならない。  

(K・S)


環境・生活topへ HPTOPへ