三里塚:成田空港暫定滑走路建設計画
運輸省前で50人が抗議
対決の焦点と新たな闘いと


礼儀わきまえぬ運輸省の対応

 11月20日の正午過ぎ、新東京国際空港(通称:成田空港)の暫定滑走路建設計画に反対する労働者・市民およそ50人が、この暫定滑走路の建設申請を12月にも認可するだろうと言われる運輸省に抗議するため、東京霞ヶ関の運輸省門前に集まった。
 この日は、成田市三里塚の東峰地区で有機農業を営む石井紀子さんが、運輸事務次官に事前に面会を申し入れ、抗議の意志を明確にした文書を手渡したいと伝えていたが、運輸省は、国会期間中の政務次官は多忙であり、20日は土曜日なので面会できる係官がいないなどを理由に面会を拒否していた。
 しかし石井さんの方も、日ごろは畑仕事があって東京までの遠出は簡単ではないし、当日の抗議行動を準備していた首都圏の仲間たちも、政務次官の都合に合わせて運輸省まで出掛けられる訳でもない。だから政務次官には面会できなくとも、せめて係長クラスの係官にでも面会し、石井さんの思いの丈を綴った「抗議文」を手渡そうと、運輸省の前に集まったのである。
 門前では、すでに連絡を受けていた守衛が、抗議団の面会要求に対して「土曜日なので係官が誰も居ない」の一点張り、頑なに面会も省内への立ち入りも拒否しつづけた。運輸省にとっても大きな行政上の課題であろう、いわゆる成田問題の暫定滑走路計画に関連して、一方の当事者である地元農業者がわざわざ東京まで出向いて面会を求めているのに、土曜日だからと言って一人の面会相手も準備しない運輸省の対応は、彼らが盛んに宣伝している「反対派との話し合いの努力」が、底の浅いポーズであることを雄弁に物語る。そればかりか他方で前日には、何の予告もなく運輸大臣が東峰や菱田を訪れ、結局はほとんど誰とも会えずに引き返したのも、むしろ現地では、運輸省のポーズとの認識を広め不信感を強めるだけであろう。
 報道陣に答えて石井さん曰く。運輸大臣が来るのが判っていたら当然、直接文書を手渡したと思う。でもこれまでの経緯では政務次官が窓口なので、それを尊重して政務次官に面会を求めたのだと。これが「対話」というものの礼儀やルールと言うものだ。
 こうしてやむなく抗議団は、門前で石井さん自ら「抗議文」を読み上げ、この文書を守衛に託し、必ず政務次官から運輸大臣に渡るように念押しをして、全員で抗議のシュプレヒコールを挙げて運輸省を後にした。その後には有楽町のマリオン前で、三里塚現地の実情を訴え暫定滑走路建設計画に共に反対してくれるように、東京の人々に訴える行動が控えていたからである。

成田の矛盾を衝く闘いへ

 石井さんの運輸大臣宛ての文書は、今年2月に運輸大臣と空港公団総裁が連名で地元に送った手紙を批判して、「まさにこの『代替地があれば済むというものではない』ところの問題は大きいのです」と、現在の対立点を鋭く指摘している。
 なぜなら、暫定滑走路に反対する地元の農業者たちは、「20数年をかけてずっと有機肥料を入れて作ってきた土は何者にも換えがたい、地球の財産とも言うべきものです。単に自分の私有財産である土地を守るというのではなく、このかけがえのない土と農業を守る為に、滑走路には協力できないのです。そうした農業者としての思いを受け止め、ここで畑を守りたいという姿勢を支持する消費者の皆さんとの豊かな関係の中で、東峰住民はそれぞれ生きているのです。それはもはや、自分だけの問題でもあり得ません」(同文書)と、考えているからだ。
 運輸省・空港公団そして地元推進派は、この現地に根付いた対案的提起に答える代わりに、欠陥だらけの空港である成田が、拡張された羽田空港や候補地選定作業が始まっているともいわれる「首都圏第3空港」との競合で、「首都圏唯一の国際空港」の地位を失いかねないという焦りの本音をひた隠しにし、地域経済新興やら国際線受け入れ枠の拡大など目先の利益や根拠のない名分を振り回し、欠陥の上に欠陥を重ねる暫定計画なるものを強行しよとしているのだが、これこそが今日の対決の焦点である。
 だとすれば、この暫定滑走路建設反対運動を支援しようとするあらゆる勢力は、例えば中核派がいまだに固執する「軍事空港粉砕」といった、現実の焦点とは乖離した方針に批判の目を向け、自らもまた過去の呪縛を解いて、かつて自らが三里塚闘争で掲げたスローガンをも真摯に再検討し、現実の、今日の三里塚の闘いが必要とするスローガンや展望のために努力する必要があるだろう。
 敵の弱い環に批判と攻撃を集中し、敵の内的矛盾をも利用して勝利の可能性を追求するという闘いの常道に立つなら、成田空港の欠陥、しかも利用者が実感し航空会社もが密に抱く欠陥に改めて着目し、成田が直面している「政治的危機」を徹底的に、しかも推進派が最も恐れる競合相手に聞こえるように暴き出し、箱もの行政や環境破壊の公共事業に対する社会的批判との結合をも射程に入れて、運輸省・空港公団の動揺を誘い出す闘いを構想することこそが、いま東峰で、暫定滑走路計画に「地球の財産」を対置して闘う現地の農業者と、真実の、そして新しい信頼関係にもとづく連帯を実現する道であろうと、わたしは確信する。        

(K.S)


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