国労中央委が査問委設置を決定
闘争団・遺族が鉄建公団を提訴
右翼分裂組合の道か、闘争団共闘会議の道か

(インターナショナルNo.124/2002年3月掲載)


鉄建公団訴訟と査問委員会

 国鉄労働組合(国労)は2月3日、東京の本部ビル(交通ビル)で第172回拡大中央委員会を開催し、闘争団員と遺族283名が鉄道建設公団(鉄建公団)を相手に提訴したことを「分裂行動」と非難、統制処分のための査問委員会の設置を賛成多数で決定した。
 査問の対象とされた訴訟は、1990年4月に1047名の闘争団員を一方的に解雇した国鉄清算事業団の継承法人である鉄建公団を相手に、1)鉄建公団との雇用関係確認、2)解雇以降の未払い賃金の支払いと、不当労働行為に対する慰謝料1000万円の各原告への支払いなどを請求して提訴したものである。
 闘う闘争団を中心としたこの提訴は、国労本部が4党合意にもとづく解決案提示の条件として行政訴訟の取り下げを要求する自民党の圧力に屈し、不当労働行為責任を追及する裁判闘争の幕引を画策する事態に抗して、あくまでも政府・JRの責任を追及するために起こされたものである。
 それは2000年末に相次いで出された東京高裁の採用差別事件に対する不当判決を、ILO(国際労働機構)89号・98号条約違反として160以上の組合・団体と連名で申し立てを行い、同2000年11月にILOが出した不当な逆転勧告を是正する闘いさえ放棄した国労本部に対抗せざるをえなかったのと同様に、今後の国鉄闘争の両輪をなす闘いと言える裁判闘争である(ILOへの申し立ては、昨年11月に正式に受理されている)。
 当然のことだが、それは4党合意による争議終結を画策する国労本部と国労右派にとっては、さらに数年におよぶ、しかも闘争団が自ら先頭に立つ争議に「巻き込まれる」悪夢であろう。2月中央委で査問委員会を設置し、大急ぎで鉄建公団訴訟原告団を切り捨てようとするのは、争議を継続する闘争団と国労を組織的にも切り離し、自民党政府・国土交通省(旧運輸省)に身の証しをたて、国労の組織的苦境を救済してもらおうとする期待の表明なのである。

国労本部と分裂組合

 国労の組織的苦境は、2月中央委で設置された査問委が、もうひとつの査問対象とするジェイアール東日本ユニオン(東ユニオン)なる分裂組合問題に象徴されている。
 この分裂組合は、新井修一・前国労本部中執を委員長に、長野地本や秋田地本など4党合意を積極的に支持した右派地本の国労組合員約800人で昨年12月に結成された。だがそこには、国労右派が本部に圧力を加える決起という性格が刻印されている。つまり警察機動隊の出動まで要請して4党合意の大会容認をしたのに、その後はこれに抗議をつづける闘争団や反対派の切り捨てを本部が先延ばしにして、JR連合との組織合同を進めるという規定路線が一向に進展しないことに苛立つ右派が、本部をたきつける目的で分裂を組織したのである。だから彼らは、国労を脱退するでもなく「当面は二重加盟で」などと平然と語っているのだ。
 高嶋・寺内執行部は、鉄建公団訴訟原告団と分裂組合を抱き合わせにして統制処分を正当化しようというのだろうが、右翼分裂組合の登場という事態は、4党合意の承認を強引に大会決定した直後から、少なくとも中央執行委員クラスの幹部なら当然予測できたことである。なぜなら、4党合意に対する闘争団員の激しい反発と抵抗を見れば、ひとり80万円とも言われた「解決金」と数名の「人道的新規採用」で闘争団を納得させるのは到底不可能であり、かと言って露骨な闘争団の切り捨てで「左派」の面目を失うことも、JR連合との組織合同交渉での国労の優位を脅かすが、こんな都合のいい思惑の両立は、よほど強権的な執行部でも至難の技なのは明らかだったからである。
 そして4党合意の承認から1年という時間の経過は、これを支持した右派が苛立ちを募らせるに十分過ぎるものであり、分裂組合の登場は当然と言えば当然の成り行きだった。しかし高嶋・寺内執行部は、新井前中執を中心とした長野、秋田、盛岡など各地本で蠢動する分裂策動を、手をこまねいて傍観するしかなかったのである。
 その意味で分裂組合結成の過半の責任は高嶋・寺内執行部自身にあるのであり、これと鉄建公団訴訟原告団への査問の抱き合わせは、闘争団の切り捨てという誰の目に明らかな事実を覆い隠そうとする、見え透いたごまかしと言うほかはない。

組合員の精神的退廃

 15年におよぶ長期争議を収拾し、企業内労組主流派に返り咲こうと国労多数派が選択した4党合意は、右翼分裂組合の登場という新たな組織的危機に発展した。
 改めていうまでもなく、4党合意の狙いは争議主体たる国労闘争団を屈服させ解体することにあった。だがスズメの涙の解決金とアリバイ的な新規採用をエサに国労幹部を籠絡しても、国労闘争団を解体できないことは新たなILOへの申し立てと鉄建公団訴訟の提訴によって明らかになった。
 だから政府・国交省と自民党が、4党合意にもとづく解決案を提示しなければならない理由は、ますますなくなってしまったのだ。そして他方の国労に残された現実が、4党合意をめぐる混乱で生じた組織的荒廃と組合員の精神的退廃であり、現状に苛立った右翼分裂組合の登場だったのである。
 ところでこの右翼分裂が、国労を急速に引き裂くと考えるのは早計である。以前にも指摘したように、「JR内労資関係も、屈服したJR総連が相手であれば当面はどうにかなる」(本紙123号)からこそ、JR当局はJR連合と国労を合併させ、JR総連追い落としを急ぐ必要がなくなったのであり、国労右派による分裂組合の結成もこの状況を大きく変える訳ではないからである。しかもある種の盟約者集団にすぎない少数分裂組合に、「やむをえぬ選択」として4党合意を受け入れた国労組合員が急速に引きつけられる可能性は、はなはだ少ないからである。
 にもかかわらず、分裂組合の登場は組合員の精神的退廃に拍車をかけるだろう。争議の大義を投げ捨ててでも守ろうとした国労組織が、展望を見失って分裂したことで「やむをえぬ選択」は無意味なものとなった。だがその選択をしてしまった多くの組合員は、この事態を直視して自らを真剣に顧みない限り精神的な退廃を免れることができない。なぜなら、国労組織の荒廃と分裂という直視したくな現実から目をそらし、自らの敗北を認めたくもないとすれば、本部と分裂組合そして闘争団の動きに「無感覚になる」以外になくなるからである。
 こうして、「・・・・国労本部の高嶋・寺内執行部は、出る当てのない『解決案』を待ちつづけ、その間に国労組織は壊疽に犯されるように立ち枯れが進行する」(本紙123号:01年12月)事態が加速される。それは、高嶋・寺内執行部の組織的基盤が急速に掘り崩されることを意味するだけである。
 この国労組織の危機を突破する道は、2つしかありえない。ひとつは国労を自ら一方的に解散してJR連合の軍門に下る、いま右翼分裂組合が実行しはじめた道であり、もうひとつは4党合意の破産を確認して争議の主体的立て直しを図る、闘う闘争団と闘争団共闘会議準備会が追求しつづけてきた道のいずれかである。

国労闘争団共闘会議

 この「もうひとつの道」を追求してきた闘う闘争団と国労闘争団共闘会議準備会は2月19日、東京の労働スクエアーで「活路を開く新たな闘いを全国へ! がんばれ闘争団 ともにGO! 2・19集会」を開催した。集会では、1月28日に東京地裁に提訴した鉄建公団訴訟の意義を確認するとともに、準備会として活動してきた国労闘争団共闘会議を、全国における本格的な組織化をつうじてより大きな国鉄闘争の共闘組織へと発展させようとの呼びかけが行われた。
 この呼びかけとともに、集会では「人らしく生きよう/国労冬物語」の全国上映運動からのアピールも行われた。「人らしく・・」の上映運動は昨年、東京での一般公開で、これまでは国鉄闘争とはまったく無縁であった若い観客たちに感動的に受け入れられ、闘争団の側でもこうした新しい若い人々との連帯の必要性が認識されはじめた経緯がある。これを受けて昨年末、闘う闘争団は旧来的な労組動員に頼らず、若い人々が集まれるような上映運動を全国的に展開するよう呼びかけてきたのである。
 こうした、国鉄闘争の新たな広がりの可能性は、「リストラの原点」と言われる国鉄闘争が、小泉政府の登場によって急増した首切りや倒産というリストラの社会的な広がりによって、若い世代の共感を得られる情勢のはじまりを示すものであり、それがまた国労闘争団共闘会議の、全国における本格的な組織化の客観的基盤でもある。

 もちろん、4党合意にもとづく解決にしがみつく国労本部が、鉄建公団訴訟原告団の除名処分を目論んで査問委員会を設置するなど、争議継続に対する妨害との厳しい対決という困難が、なお国鉄闘争を取り巻いてもいるのも現実である。
 だが労働者大衆自身が、直面する難局を打開しようと自ら行動することは、今後も増大するであろう倒産や失業に立ち向かう情勢の下でも最も肝心なことであり、鉄建公団訴訟を自立的にはじめた闘争団と共闘会議の闘いは、そうした戦闘的伝統を継承する懸け橋となる闘いなのである。

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