政府・JRに解決せまる大衆行動の展開
国際運輸労連の国労支援と国鉄闘争のもつ国際的性格
ILO勧告の背景と、解決局面の構図


ILO勧告の履行をせまる!

 2月16日、東京の千代田公会堂で「政府はILO勧告を履行せよ!!リストラ・首切りNO!国鉄闘争勝利総決起集会」が国労東京地本の主催で開催された。同地本は、24日には政府・運輸省に、当日も労働省に要請行動を行うなど、昨年11月のILO理事会が採択した中間勧告の履行をせまる大衆行動を展開するなかでこの日の決起集会を開催した。
 また2月26日には、同じく東京の星陵会館で、学者・文化人などが呼びかけた「ILO勧告アピール運動」が主催した「ILOを日本の常識に/1047人の復職を求める2・26集会」の企画として、「世界は団結権侵害を許さなかった」と題するシンポジウムが開かれた。このシンポジウムは、中野麻美弁護士をコーディネイターに、早大教授の中山和久さん、国労常任弁護団の海渡雄一さん、国労筑豊闘争団の奈木野照代さんをパネリストに、ILO勧告の意義を明らかにし、その実現のための闘いを考えるものとして行われた。

 ILOの中間勧告の履行を政府にせまる同様の大衆行動は、さる1月28日に開催された国労第117回拡大中央委員会が、「ILO勧告の履行を求めるアピール運動と請願署名運動など早期解決を図る取り組みと2000年春闘と結合した大衆行動を中央・地方で展開する」(2月4日「国鉄新聞」)との闘争方針を確認したのを受けて、各地でもようやく本格的な取り組みがはじまっている。
 ところでILO理事会本会議が、結社の自由委員会の報告にもとづいて、国鉄分割民営化の過程で同98号条約に違反する不当労働行為があったことを事実上認定し、「当該労働者に公正な補償を保障する、当事者が満足できる解決に早急に達するように」(同勧告)日本政府に求める勧告を採択したのは、昨年の11月18日である。この中間勧告を受けた闘争方針を決める中央委員会が、それから2カ月も過ぎてから開催されたことは、闘争主体である国労の、とりわけ解決局面で求められるハードな対政府・対JR交渉の中軸をになうべき国労本部の主体的問題を、あらためて認識させるものではある。

年度末解決に全力?

 その国労の第117回拡大中央委は、前述した大衆行動の展開とともに、政府の責任での解決をせまることを基本に「年度末解決にむけて全力をあげる」ことも確認した。
 しかし中央委員と特別中央委員のうち20名が行った発言には、「この間の経緯を見ていると本部の交渉の仕方はうまくない」「国労要求を出すことなしに解決の道はなく、早急な提出を要請する」「3月決着という提起はあり得ない。(ILO)理事会が行われる3月に向けて、我々が求めている解決交渉の場を作らせる道筋をつけることに全力をあげることが必要である」(前掲「国鉄新聞」)等々、厳しい本部への注文が含まれていた。
 たしかに本部の宮坂書記長が、中央委の集約発言で強調した「年度末解決」は、中央委員ばかりか国労組合員にとって、あるいは国鉄闘争を支援してきた多くの労働者にとっても違和感のあるものであった。
 というのも、中央委でも「いつ解散総選挙があってもおかしくない」とか「事は政治である」との指摘があったとおり、解決交渉の場を設置するイニシアチブをとるべき政府・自民党には、総選挙の準備以上に優先して国鉄闘争を収拾しなければならない積極的な理由があるとは考えられないからである。とすれば、運輸省は年度末決着のために積極的に動くはずはないし、そうした条件の下では、国労内の右派をそそのかし、国労とJR連合による「反JR総連・革マル派」ブロックから新組合をすら構想しているJR連合も、だからこれと連携している東日本を除く各JR会社も、解決交渉にむけたイニシアチブをとることはないと断言できるからである。
 しかし国労の右派・チャレンジグループは、政府保有のJR株式をすべて売却し、JRを「完全民営化」するために必要なJR法改正案が今国会に提出されるだけでなく成立することを無条件の前提にして、政府・運輸省がJR各社に交渉を強いる手段が失われるとでも考えたか、運輸省の官僚や社民党の政治家に吹き込まれでもしたのだろう。いずれにしろJRの完全民営化とセットにして政治決着を図らなければ争議収拾が不可能になるとの焦燥にかられ、「年度末解決」に固執することになったと思われる。
 だが「事は政治である」。旧国鉄の長期債務処理に際しても、政府・自民党や運輸官僚がどれほどいい加減な対応で切り抜けたかを思い起こせば、JRの完全民営化がすんなりと実現する確かな見通しがあったわけでもないし、仮に完全民営化が実現したとしても、解決交渉が不可能になると断定すべき理由もありはしない。それはむしろ右派・チャレンジグループが、今日の国鉄闘争をJR会社内部の力関係や相互関係、あるいは政府・自民党との旧来的な力関係だけで理解し、ただその構造に依拠して解決を図ろうとする、古き大国労時代と少しも変わらない発想しかもてない旧態依然たる体質であることを暴露しているだけであろう。
 そしてこの古い体質と時代おくれの発想こそが、政府・自民党そして運輸省に足元を見られ、その一挙手一投足に翻弄される「下手な交渉」の背後にある本質的な要因と言っても過言ではない。
 だが今日の国鉄闘争は、右派・チャレンジグループが好むと好まざるとにかかわらず、古い企業内労働組合的な思惑を大きくこえる、その意味で旧来型の政党間の代行主義的な裏取引や、官僚による利害調整に依存する戦術では対応できない、実に今日的な社会性と国際性を与えられているのであり、いまでは一民間企業にすぎないJR会社の思惑で、あるいは運輸省という一省庁の利害だけでことが決まる状況ではなくなっているのだ。
 案の定というべきか、JRの完全民営化法案の今国会上程は、引き継ぎ債務の多さを理由とするJR東海の抵抗と、自民党の建設・運輸の族議員を中心としたJR経営への不信もあって見送られ、解決交渉の条件ではなく「年度末」の条件の方が失われた。こうして解決交渉をめぐる政府・運輸省との攻防は、仕切り直しとでもいうべき状況に立ち戻ることになったのである。

ILO勧告の国際的背景

 だがもちろん、1月拡大中央委での「国労要求を出すことなしに解決の道はない」という中央委員の正論に従えば、解決局面はまだ本格的な攻防すら始まってはいない。だからまたILO勧告のもつ意義、とりわけ経済のグローバル化というきわめて今日的状況下で、国鉄闘争が客観的には獲得している社会的で国際的な性格を明確にし、政府・運輸省そしてJR各社を、新たな社会的で国際的な国鉄闘争支援戦線によって逆包囲するなら、現状の力関係を大きく変えて勝利的展望を切り開くことも可能となるのである。
 では国鉄闘争に社会的で国際的な意義を与えた背景とはいかなるものだろうか。
 昨年12月、アメリカのシアトルで開催されたWTO閣僚会議が、環境保護団体やアメリカ労働総同盟−産別会議(AFL-CIO)を中心とした2万人もの労働者に包囲されたことは記憶に新しい。このとき国際自由労連(ICFTU)は現地シアトルで執行委員会を開催し、「中核的労働基準」の遵守を国際貿易のルールに反映させることを求めた声明を発表、閣僚会議の決裂で実現はしなかったが、EU、日本など7ケ国・地域が共同提案した「WTOとILOによる共同フォーラムの設置」案を、より実効性のある機構として強化するよう各国政府に要請することを確認した
【本紙105号参照】
 それは、グローバリズムの進展がもたらした国際的規模での労働基本権の侵害に対する国際自由労連(ICFTU)の、強い危機感を示すものである。なぜならグローバリズムの進展が、具体的には北米自由貿易圏(NAFT)やユーロ導入を契機に資本の自由な移動が本格化しはじめたEUで、労働基本権の侵害が顕在化しているからである。
 「フランスやドイツなど労働基準の引き下げが困難な地域から、そうした労働基準が比較的弱いスペインなどに生産拠点を移転するなどの資本移動が活発化しはじめており、フランスの自動車メーカー・ルノーのベルギー工場の閉鎖は、こうした生産拠点のEU域内移転を象徴するものであった」
【前掲本紙105号】ことが示すように、事態は資本の国境を越えた移動に伴う工場閉鎖や大量解雇という産業の空洞化にとどまらず、第二次大戦後に営々と築き上げられてきた労働基準が、各地域や各国の「競争力格差」を利用して一方的に切り下げられる状況が蔓延しはじめ、NAFTでは、中南米の低賃金がアメリカに「逆輸入」される事態すらはじまっている。
 ICFTUがJRの「採用差別事件」に強い危機感をいだき、また国際運輸労連(ITF)が勧告についてILOに強く働きかけたのは、国鉄の分割民営化で強行された所属労働組合による選別採用といった手法が容認されるなら、現在EUやアメリカで頻発しはじめている工場閉鎖や解雇攻撃が正当化されるだけでなく、欧米労働組合運動の大前提である、労働組合員を解雇して非組合員を採用することを禁じるなどの諸法制をもなし崩し的に解体する、そうした突破口となる危険があるのは明らかだからである。しかも一昨年5月には、ILO条約の批准にともなう日本の国内制度として設置された労働委員会制度を否認する判決が東京地裁でだされた事実は、ICFTUのみならずILOにとっても、同条約を骨抜きにする黙過しがた行為だったのである。
 こうしてJRの採用差別事件は、いまやILOとITF・ICFTUをも巻き込んだ「国際的事件」となっただけでなく、労働委員会制度を否定したに等しい東京地裁の不当判決との闘い、つまり中労委による救済命令の取り消しをめぐる控訴審闘争も、ILOの強い危機感を背景にして、これまで無関心を装ってきた日本最大のナショナルセンター連合にとっても、その社会的で国際的な影響を無視できないような性格をもちはじめたと言えるのである。

国際運輸労連の連帯表明

 第117回拡大中央委員会で宮坂書記長が強い意欲を示した「年度末解決」は頓挫することになったが、しかし実はその同じ中央委で、今日の国鉄闘争がもつ国際的な意義と可能性を明らかにする、国際運輸労連(ITF)のコックロフト書記長による力強い連帯のあいさつが行われてもいた。
 改めて言うまでもなくITFは、国労と全動労によるILO提訴に共同提訴人として名を連ね、今回の中間勧告の内容についても、国労と全動労の側から強力にILOに働きかけてもきた国際産別組織である。そのITFを代表してコックロフト書記長は、「運輸大臣との会見で申し上げたが、通常のILOの結社の自由委員会の仕事は、・・・・非常に激しい形で労働組合権を侵害する国を対象にして扱う委員会である。日本のような非常に発展した工業国を対象にして扱うものではない。したがって、日本政府がILOの結社の自由委員会でこのような非難を受けるということは、大きな恥になることである。私どもはこの問題が最終的に解決されるまで、日本政府が恥と感じるようなプレッシャーをかけ続けていきたい」と述べるとともに、日本政府が促進する役割を担うべきだとILOが勧告した「交渉の目的は、・・・・現在困難に直面している人たちに正義をもたらすことである」(前掲「国鉄新聞」)として、そうした解決にいたるまでの全面的な支援を約束したのである。
 国労中央委でのITF書記長の明快な国鉄闘争への連帯表明は、ITFに加盟しているJR総連が「解決交渉」にさえ反対していることを承知のうえで、ITFは国労と全動労を支持することを鮮明にしたという意味で、重要な意味をもつものであった。
 しかし同時にコックロフト書記長は、ILOは裁判所ではなく、したがって勧告を日本政府に強制する力はないこと、だから日本政府が国際機関の中で恥をかく状況をつくることは今後もできるが、「最終的な解決は日本の国内で見つけ出さなければならない」と「一種の警告」を発し、ILO勧告を活用した国労の主体的な闘いこそが解決を実現できる点を強調したのである。

ILO勧告と国際通商交渉

 一昨年5月の東京地裁による不当判決に対する控訴審で、中労委がその存亡をかけた断固たる反論を展開し、これを支援するかのように日本の裁判所にもプレッシャーとなるようなILO勧告がだされ、ITFも書記長を国労の中央委に派遣して全面的な支援を表明するといった状況は、国鉄闘争をめぐる社会的・国際的な力関係が大きく変化したことを確認するに十分であろう。
 国鉄の分割民営化を目前にして、1986年10月に国労の第50回臨時大会(修善寺大会)が国家的不当労働行為との非妥協的対決を選択したとき、国労は、国鉄労働者悪玉論の一大キャンペーンが吹き荒れる厳しい社会的孤立の中にあったし、その後の総評の解体と連合の結成が、国際産別組織での国労の地位を大きく後退もさせた。さらにこうした国労の社会的・国際的孤立は、バブル景気の熱病にとらわれた社会的荒廃のなかで一層深刻なものにもなった。
 その国鉄闘争がいま、ILO中間勧告を契機にITFをはじめとする国際労働運動の支援を約束され、その分だけ連合も無関心ではいられない状況をつくりだしつつある。
 しかも前述したように、その背景にILO条約を前面に押し立てた国際労働運動とWTOに代表されるグローバリズムとの抜きさしならない攻防がある以上、事態はすでに運輸省、労働省の省庁利害や思惑をこえて、通産省や外務省あるいは農水省も巻き込んだ日本帝国主義の国家戦略にかかわる問題になりはじめているのである。なぜなら、昨年12月にアメリカのシアトルで開催されたWTO閣僚会議が、農産物貿易の自由化問題とともに、「通商貿易と中核的労働基準の遵守」をめぐって決裂に追い込まれた結果として、以降のWTOに関するあらゆる交渉では、この問題を避けて通ることはできなくなっているからである。
 だとすれば、先のILO中間勧告に直面した政府・自民党そして運輸省の最大の頭痛のタネは、国鉄分割民営化の過程で行われた不当労働行為を認定するILOの正式な勧告が採択された場合、それが国際通商交渉や外交関係におよぼす影響を懸念する通産省、外務省など他の国家官僚機構との不協和音や軋轢を増幅し、それが「当該労働者に公正な補償を保障する、当事者が満足できる解決」を促進しようとする国内的な圧力へと転化することであろう。
 それは階級的労働者と国鉄闘争にとっては、解決局面の新しい力関係の始まりを意味するだろう。

  (きうち・たかし)


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