●改悪労基法の成立に抗して
戦後労働法制の再編を見すえ派遣法改悪阻止の全国戦線を
政治再編はらむ連合内の分岐と、国鉄闘争支援戦線再構築の意味

(インターナショナル93号 98年10月号掲載)


改悪労基法の成立

 9月25日の参院本会議は、自民、民主、平和・改革、自由、社民の5党共同修正による労基法改悪法案を賛成多数で可決、連合対案からも大きく後退した労働基準法の改悪が強行され、最大の焦点であった裁量労働制の特殊技能職以外の労働者への適用は、1年延期されはするが2000年4月から合法化(施行)されることになった。
 9月4日の衆院での改悪法案可決以降、4ネット(変えよう均等法ネット、女性のワーキングライフを考えるパート研究会、派遣労働者ネット、有期雇用労働者権利ネット)を中心とした「労働基準法・労働者派遣法改悪NO!共同アピール運動」は、16日から労基法改悪反対の明快な意思表示と衆院での法案可決に抗議するハンガーストライキをはじめ、国会傍聴や議員要請行動などを最後まで闘いぬいたいが、連合の路線転換を背景にした民主党を中心とする5党共同修正の陣形を突き崩すには至らなかった。
 だがこの参院での改悪労基法案の成立をめぐる最後の攻防は、ナショナルセンターの枠を越える労働者の共同行動の発展の可能性をはらむ大衆的基盤がなお潜在的にではあれ残されたことと合わせて、連合、全労連、全労協というそれぞれのナショナルセンターと全国共闘組織を基盤とする政治勢力、つまり民主党と社民党そして共産党と新社会党を貫いた新たな再編を通じて、広範な労働者大衆の現実的要求を体現する新たな労働者的政治勢力の形成が、客観的には要求されはじめていることを明かにしたと言う意味でも、意義ある闘いであった。

5党共同修正と連合の内情

 連合が、Vワーク(日本電機)やSOIRIT(富士通)【本紙90号参照】といった、事実上裁量労働制適用職種の拡大を先取り的に実施している電機連合の要求にそって、曲なりにも今年5月までは堅持してきた「対案」からも大きく後退したことは前号でも指摘したとおりだが、当初から労基法改悪に反対を唱えてきたゼンセン同盟や金属機械そして連合全国一般などは、とりわけ裁量労働制の適用職種の拡大について、ついに最後まで絶対反対の姿勢を崩すことはなかった。こうした連合内の抵抗の強さは、労働省案に対抗して「連合対案」を掲げ、連合自らが組織した学者・文化人らによる「連合要求実現応援団」の会議で、「対案と共同修正案の質的落差が大きすぎ、遺憾の極み」などという、かなり厳しい批判が続出したことにも端的に示された。
 つまり5党共同修正による改悪労基法の成立は、民主党を軸とする大連合による修正・可決という見せかけの政治的成功にもかかわらず、労基法の改悪をめぐる連合内の流動と分岐という事態は、JC派配下の巨大企業内労組と中小民間産別組織を両極とする対立を内包した小康状態に入ったに過ぎないのであり、その意味で連合の内的流動は、国会審議の過程で動揺とジクザグを繰り返すという醜態をさらすことになった鷲尾・笹森執行部への不信の拡大、言い換えればJC派とゼンセンなど中小民間産別組織の両者が相互に連合中央への不信をつのらせ、次の局面では、産別自決と称する独自行動を強める可能性を拡大する結果を招いたと言っても過言ではないだろう。それは労戦の右翼的再編を主導したJC派イニシアチブにとって、日本の労働組合多数派を牛耳るための連合というテコの権威が、大きく傷つき失墜しはじめたことを意味するのである。
 そしてもちろんこうした連合内の流動は、鷲尾・笹森執行部が、連合の制度政策要求を補完する政治勢力として期待をかける民主党に、そして基本政策を喪失したまま連合の旧総評系官公労に依存して延命する社民党にも反映されざるをえない。

民主党・社民党での〃反乱〃

 労基法改悪法案の衆院本会議での可決に際して、一部の社民党議員の〃反乱〃があったことは前号でも報告したとおりだが、こうした社民党と民主党の動揺は、女性議員を中心にしてもちろん参院でも現れた。大脇雅子、福島瑞穂の両社民党議員は法案に賛成をしなかったし、民主党女性議員の中にも採決への不参加などが現れた。さらに「共同アピール運動」のハンガーストライキは、同様に労基法改悪に反対して国会前での座り込みを闘っていた全労連と実質的な共闘関係をもつことになったのは当然の成り行きだとしても、一部の社民党議員あるいは民主党議員による激励や水の差し入れを呼び起こすなど、連合の内的流動の政治勢力への反映、この場合は民主党と社民党への反映を垣間見せることにもなった。
 もちろんこれらのエピソードは、客観的な可能性を示すものにすぎず、連合の結成によって固定化されたナショナルセンターの分立という労働者階級の分裂状況を克服し、不況と倒産による大量失業時代に対応する新たな労働運動の登場と、これを基盤とする政治勢力の展望を切り開いたとまで言える状況ではない。闘いは文字通り萌芽的であり、いま始まったばかりでもある。ひとつの典型は、本紙前号で紹介した「女性の労働権を求めて−女性国会議員との対話集会」での、民主党女性議員たちの〃揺れ動く対応〃とでも呼ぶべき発言の数々であろう。JC派労組幹部の修正案支持と、現場の厳しい現実の中から修正案を鋭く批判する働く女性たちの生の声の間で揺れ動く女性議員たちは、ある意味では初めて、女性差別問題の重要な要因としての労働の問題、つまり女性労働者が自立的に生きるための男女平等の働く権利をいかに社会的に保障するかという課題に、ようやく気がついたばかりなのである。
 しかしそうであればこそ、労基法の改悪をめぐるほぼ1年に及ぶ、中小民間の若い労働者を先頭にした闘いの高揚は、総評の解体以降、長期にわたる防衛戦を強いられてきた階級的労働者にとって、ひとつの重要な突破口の方向性と可能性を指し示めすことになったとも言えるのである。連合内の流動化と、その政治的反映としての民主・社民両党の動揺のもつ意味を正確に理解し、「真に大衆的な労働組合」の再生と、これを基盤とする労働者的政治勢力形成の展望を練り上げるために、階級的労働者による次なる闘いと課題が問われることになる。

社会問題としての派遣法改悪

 次の、当面する最大の課題は、言うまでもなく派遣法改悪反対の闘いである。10月6日に閣議決定されて今国会に上程された派遣法の改悪法案は、11月にも召集されることになる次期国会で本格的な審議が行われることになるが、労基法改悪反対闘争との決定的な主体的条件の違いは、この法案に対する連合中央の態度である。
 労基法改悪に対する連合中央の対応は、昨年の大会で採択された「労働省案反対」の大会決議の制約もあって、電機連合など、資本による裁量労働制の先取り導入を積極的に支持してきたJC派労組の本格的な巻き返しが始まるまでは「労働省案の白紙撤回」が公式見解とされ、それが労基法改悪反対闘争の大衆的動員を保障することにもなった。しかし派遣法の改悪については、生産ラインに派遣労働者を組み込まないという、JC派を中心にした「歯止め」にしか興味を示していない現実がある。もちろんその生産ラインの実態は、裁量労働制がすでに実施されていたのと同様に、季節工や臨時工など様々な名目で事実上の派遣労働者が数多く組み込まれているのであって、その意味では連合中央が要求している歯止めは、「現在の連合配下の労働組合員は」派遣労働者に置き換えないという、民間基幹産業の正規職員という特権的労働者の地位の防衛以上のものではないことも明白である。
 こうして派遣法改悪反対の闘いは、労基法改悪反対闘争を通じて台頭しはじめた民間中小労組および産別労組が、労働現場における労働者間の差別の拡大と解雇権の濫用という人権侵害に反対する社会的課題として、ナショナルセンターの垣根を越える広範な労働者共同行動をいかに組織するかという、大きな課題を抱える闘いとならざるをえない。だが同時にこうした条件は、他方では企業の枠を越える横断的労働組合の形成により広範な基盤を提供する可能性でもある。
 突然の解雇、つまり一方的な派遣契約の中途解約と派遣会社によるその容認や、強制的な派遣会社への移籍、つまりいつでも解雇できる労働条件への変更などの広がりの中で、派遣労働者による労働相談件数はうなぎ登りの増加傾向を示しているが、そうした圧倒的な、これまでは未組織として放置されてきた労働者たちが、当てにならない企業内労組を見限ってより産別的な、あるいは一般型労組へとその救済策を見いだすことになるからである。そしてこうした差別を助長する解雇権の濫用や労働条件の切り下げに対する抵抗と抗議が社会問題として顕在化する度合いに応じて、連合内の大衆的基盤の相違に根差した分岐が再度現れ、それがまた連合の組織票と資金に依存する民主党と社民党の国会議員たちの中に、深刻な分岐と流動を引き起こすことになるだろう。
 かくして、派遣法改悪反対闘争をその先頭で担うことになる階級的労働者の課題は、労働者の差別化と使い捨てを助長する法改悪を社会問題として突き出し、とりわけ派遣労働者の圧倒的多数を占める女性労働者とともに、さらには改悪労基法によって解雇の危機に直面することになる有期雇用労働者とともに、解雇制限法制定の要求をも視野にいれつつ、全国的な大衆的反対闘争の組織化のために全力を挙げることであり、その地域的な運動の基盤は、今年4月の労基法改悪NO!全国キャラバンを通じて各地に形成されてもきたと言えるのである。

5・28判決と闘う全国戦線を

 労基法の改悪につづく派遣法の改悪は、新時代の日本的経営が提唱した「労働市場の流動化」を促進し、最終的には労組法の改悪と労働委員会制度の見直しを含む、戦後労働法制の全面的な改悪を実現しようとする日本帝国主義の国家・社会再編の不可分の一部である。したがって当面する派遣法改悪反対闘争は、同時にこうした戦後労働法制の全面的改悪に抗する戦線を準備する闘いと不可分であり、なかでも労働者救済機関としての労働委員会制度の無力化を狙う見直しに身構える戦線の構築は急務でもある。
 というのも、中労委による国労組合員の救済命令を取り消したあの5・28東京地裁判決へは、この労働委員会制度を真っ向から否定し、国家的不当労働行為を全面的に容認する内容をもっていたからである。しかもそれは、日本の国際化やグローバルスタンダードに適応する「規制緩和」を旗印にした社会再編を推し進めながら、労働者の権利に関する諸問題では徹頭徹尾国際基準を無視するという、国際労働運動にとっても見過ごせない、日系多国籍資本とその労働副官たる連合の対応という問題を含んでもいる。
 つまり8月の国労大会の議案に盛り込まれて採択もされた、5・28判決を不当とするILOへの提訴の闘いは、労基法と派遣法の改悪から労組法の改悪へと突き進もうとする政府・自民党に対して、労働者の国際的運動が歴史的に達成した最低限の国際基準を労働者自らがかかげ、それを日本の労働条件の最低基準として要求し、解雇権の濫用や人権侵害に対する労働者救済機関の強化を、文字通りの意味で労働者の国際的連帯によって実現しようとする闘いであり、それはまた連合JC派幹部たちの、旧態依然たる企業内組合主義に追随する民主・社民両党に対する牽制と圧力を組織することでもある。そして国鉄闘争の側からみれば、政府とJR各社に争議解決交渉の席につくよう要求する、新たな大衆的支援戦線の構築を意味するのである。
 この二つの課題の結合は、もちろん口で言うほど容易なことではない。だがわずか1年前には、労基法改悪法案に反対する労働者の共同行動があれほどの高揚を示すことすら想像できなかったことを思い起こすなら、しかも派遣法改悪について連合中央がほとんど興味すら示さず、その意味では全国的運動展開のために大きな役割を果たす全国組織を欠いた戦線の脆弱さを冷静に認識するなら、この課題への挑戦は、階級的労働者にとってやり甲斐のある、そして最も重要な課題といっても過言ではあるまい。

 戦後最悪といわれる長期の不況が、企業倒産件数と負債総額の、あるいは失業率の記録を次々と更新している。そして95年までは政府も官僚も決して認めようとはしなかったデフレスパイラルは、いまや眼前の危機として語られるに至っている。労資協調による雇用確保や生産性基準原理にもとづく利益配分を新しい労働運動とした連合は、総評春闘から継承した「永遠の経済成長」という基盤を喪失し、代わって労働者の権利と生活を、労働者自身の自治と連帯によって克服する運動が、まさに実践的に問われはじめている。
 労働者保護の諸規定を柱とした戦後労働法制の全面的改悪は、かつての中曽根民活が達成しえなかった社会再編を、最悪の経済的条件の下で、だが不可避なものとして推進しなければならなくなった日本帝国主義の危機の表現でもある。こうした社会再編に対する全国的で大衆的な労働者の抵抗闘争の登場とそれを基盤とする一般型労働組合の発展は、労働者に能力主義的競争を強制し、大衆的労働組合を特権的労働者の組織へと変容させることになった、連合時代の労働運動の終焉を告げる弔鐘となるに違いない。

  (10月15日/K)


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