国鉄闘争支援戦線の再構築をめざし
労基法5党修正案の成立を阻止しよう!

(インターナショナルbX2 98年9月号掲載


5党共同修正案の衆院可決

 9月4日、「労働基準法の一部を改正する法律案」は自民、民主、平和・改革、自由、社民の5党共同修正で衆議院を通過、現在は参議院の労働社会政策委員会で審議が行われている。5党共同修正の内容は、先の通常国会の終盤に労働省が示した「幻の修正案」とほとんど変わらない内容だ。それは
 1:裁量労働制については対象労働者の同意と、拒否を理由とする不利益扱いの禁止を労使委員会で決議する。施行を1年延期する。
 2:時間外労働については、上限基準を年間360時間とする(罰則なし)。激変緩和処置として、家族的責任のある女子の上限は一定期間、年間150時間とする。
 3:深夜労働については、国は就業環境の整備など関係者の努力を促すよう努めるというものである。
 これに対して連合対案は、
 1:裁量労働制については政府案から削除、
 2:時間外労働の上限は年間360時間以下(罰則あり)、家族的責任のある女子の上限は年間150時間、
 3:深夜労働の上限は4週53時間以内で8回以内(罰則あり)
であったから、5党共同修正の内容は連合対案と比較しても大幅に後退している。
 通常国会で紛糾した労基法改悪が臨時国会では一転して5党共同修正でまとまった理由は何か。それは労働省と連合中央との癒着である。裁量労働制に賛成する電機連合を抱える連合中央は、労働省と自民党に足元を見られて妥協を図り、民主党と社民党を巻き込んで5党共同修正を成立させたのである。
 ただしこの5党共同修正はスムーズに成立したわけではない。本会議の採決時、社民党の中に「造反」が生まれたのである。秋葉忠利議員は議案に賛成起立しなかったし、中川智子・深田肇の両議員は採決時に退席した。また辻元清美・保坂展人の両議員は出張を理由に本会議を欠席した。一方、連合内ではゼンセン、金属機械、全国一般の3単産が現在でも反対を強く主張している。
 舞台は参議院に移ったが、闘いの余地は残っている。それは5党共同修正の枠組みを突き崩すことであり、通常国会時と違って大衆運動を全く組織しない連合内の亀裂を拡大させることである。

新たな主役たちの登場

 4ネット(変えよう均等法ネットワーク、女性のワーキングライフを考えるパート研究会、派遣労働ネットワーク、有期雇用労働者ネットワーク)は衆院労働委員会が労基法改悪を決めた9月3日、東京ウイメンズプラザ・ホールに300人を集め、「女性の労働権の確立を求めて−女性国会議員との対話集会」を開いた。集会には民主党、共産党、社民党の女性国会議員が出席したが、その中で民主党の小宮山洋子さんは「皆さんの気持ちは分かるが、すでに巨大労組が賛成している」と暗に連合を批判し、さらに「国会でできることには限界があるが、院外で大きな行動が起こればそれを修正案に反映させることは可能だ」と語った。また社民党の大脇雅子さんも「共同修正案に私は態度を保留している」との態度表明を行った。
 この集会は女性参加者の層の幅広さ(朝日新聞の集会案内を見て参加した女性が多く見られた)とアンケート回収率の高さ、労基法改悪が及ぼす被害の切実さ(会場発言とアンケート内容)で際立っており、今後の新たな運動を予感させるものであったが、これ以上の評価はひとまず置く。
 ここで問題にしたいのは、民主党、社民党の女性参議院議員の発言が場合によっては五党共同修正の枠をはみ出る可能性を示唆している点である。社会的に波及力のある大衆運動を形成できれば、もう一歩、政府・労働省を追い詰めることが可能であり、連合を大衆運動の場に引きずり出すこともありうるのである。
 こうした情勢を受けて「労働基準法・労働者派遣法改悪NO!共同アピール運動」は、9月16日から18日まで国会前で55時間のハンガーストライキに突入する。「国会は中小労働者の声を聞け!」を合言葉に開始するハンストと同じく共同アピール運動が主催する16日の日比谷野音集会が社会的な注目を集めるなら、異なった情勢を作り出すことを可能にするかもしれない。
 そして何よりも強調しなければならないのは、日経連の「新時代の『日本的経営』」そのものである今回の労基法改悪に対して、その被害を一身に受けるパート、派遣、有期雇用下の女性労働者と中小労働者が自らの労働権をかけ、闘いの一方の主役として登場しつつある点である。ここに姿を見せつつあるのは、連合にも全労連にも組織できない不安定雇用下の労働者たちであり、従来の巨大労組や組織労働者が歯牙にもかけなかった層の労働者たちにほかならない。
 だが、不安定雇用の促進と失業の時代の到来下にあって、それは今後の階級闘争を先取りした労働者たちの抵抗と闘いの姿なのである。新しい労働運動は確実にこの中から生まれてくるだろう。

国鉄闘争の「新たな援軍」

 最後に国鉄闘争に触れておきたい。8月21〜22日に開かれた国労全国大会は、国労の完全武装解除に道を開く「補強案」を継続審議にして終了した。企業内的利害に基づく国鉄闘争の収束はひとまず回避されたが、問題は先送りされただけに過ぎない。武装解除の原因をとなった自社さ3党間協議の座長会議=三人委員会は現在も生きており、国労が社会的闘いから撤退して企業内的解決を図ろうとすれば、再び同様の動きが出てくることは確実である。
 国鉄闘争の困難さは、5・28の東京地裁判決が象徴するように国家的不当労働行為との闘いという根本的性格に根差している。したがって再び社会的運動を形成し、政府・運輸省・JRを包囲する陣形を形成する以外に、それを突破する道は開けない。そのポイントになるのが、闘いの国際化と労働法制改悪に反対する闘いとの結合である。
 すでに闘争団は闘いの再構築のために生活基盤の強化に取りくみ出している。その上に立って、検討が始まっているというILOへの提訴やITF(国際運輸労連)との連携など、闘いの国際化による政府・運輸省、JRに対する国際的包囲網の形成に一日でも早く乗り出すことである。
 リバプールの港湾労働者の争議が国際的な支援の下で闘われ、争議解決後にその闘いはオーストラリア港湾労働者に引き継がれて、一定の勝利をもたらしたように今日、規制緩和に抗する闘いは国際的な闘いに発展させない限り、勝利を得ることは難しい。6月13日にリバプールの港湾労働者を迎えて行われた国際シンポジウムで、出席者の一人である和田茂さん(ITFアジア太平洋地域部長)は「国労はITFの支援を受ける資格が十分にある」と語ったが、この発言を国労は積極的に活用すべきである。
 また、5・28判決は「結社の自由と団結権保護」を決めたILO87号条約、「団結権・団体交渉権」を保証するILO98号条約、「雇用差別禁止」を決めたILO111号条約に明確に違反した判決であり、したがってILOへの提訴は日本政府を国際的に包囲するうえで極めて有効な戦術と言えよう。このような戦術を駆使することで国際的な陣形を形成しつつ、もう一度国内の支援戦線の再整備と拡大強化を図るべきである。
 その際に考慮すべきなのが、「労基法・派遣法改悪NO!」の闘いである。規制緩和攻撃の先駆けであった国鉄分割・民営化と闘い抜いた国労の11年間は、そのような攻撃に立ち向かう労働組合が日本では皆無であった分だけ、孤立した闘いを余儀なくされた。国労はそれに対して、旧総評労働運動の左派的基盤に依拠した支援戦線を構築する中で孤立の打破を図ってきたが、それ以外に方法は存在しなかったのである。だがその支援戦線も11年が過ぎる中で高齢化が進んでいる。国鉄闘争には現在、従来の支援戦線に加えて今日の資本主義の矛盾とリアルに向き合って闘っている新たなエネルギーとの結合が、切実に求められているのである。
 そして今、労働法制の規制緩和と闘う新しい労働者群が登場しつつある。4ネットを中心にした「労基法・派遣法改悪NO!共同アピール」運動がそれである。国労が11年前に遭遇した分割・民営化は、国鉄労働者の労働権の剥奪を武器にした国労解体攻撃であった。今日の労基法改悪による女性労働者、中小労働者の労働権剥奪に対抗する闘いと国鉄闘争は、その本質において共通しているのである。国労が労基法・派遣法改悪NO!の運動と本格的に連携するとき、これまでとは異なった質の新たな支援戦線を形成することができるだろう。
 しかも労基法・派遣法改悪NO!の運動は、今日の日本資本主義の矛盾と正面から向き合っている分だけ、敵に与える打撃は大きい。国鉄闘争の勝利に結び付く解決局面は、このような闘いを通じて再び国労と闘争団の前に姿を現すことになるだろう。

(9月12日)

【資料】55ハンストの呼びかけ(全文)

 私たちは、政府労働省及び使用者団体主導のもとにすすめられる労働基準法の改悪に対して、昨秋来、「労働者の声を聞け!」「労基法改悪NO!」と広範な闘いをつくり上げてきました。それは、所属労働組合、団体の枠を越えた北海道から沖縄までを貫く全国的な声となって響きわたったのでした。そして、先の通常国会では、衆院労働委員会において継続審議となったのでした。
 この結果について、私たちは、国会でより慎重な審議が行われるのではないかとの淡い期待を持ったのでした。ところがそれは打ち砕かれてしまいました。しかも急遽再開された衆院労働委員会では、あたかも労働者の要望によって今回の労基法の改定があるかのような質疑、答弁が、甘利労働大臣をはじめとして行われたのでした。しかしこれは、現場実態には目を背け、使用者団体の主張に基づく架空の労働者の「ニーズ」を労働省官僚が空想の中で作り上げたものです。事実、これまでの交渉でも、労働省は、どこの、どのような労働者が改訂を求めているのかについて何ら具体的な労働者を上げることが出来ませんでした。
 衆議院での可決採択以降、新聞各紙をはじめ報道は、「裁量労働制拡大・・・・」と大きく報じました。これを受けて早くも中小経営者の中には、無原則な適用の動きさえ出てきているのが現実です。(私たちは労働省と違い具体例を示すことができます。)参議院の審議中であるにも関わらず、すでに規定事実であるかのように事が進められています。
 私たちは、今後予想される労働者派遣法の改悪法案の上程の動きに対抗する意味も併せ含めて、ここにあらためて、真に労働者の声に耳を傾け、職場の実態に目を向けるよう強く国会に、政府−労働省に求めます。
 そしてそのために、私たちは、私たち労働者の声と実態を社会的に訴えるハンガーストライキに立ち上がることを宣言します。全国の仲間のみなさんの参加を訴えます。
労基法改悪NO!労働者の声を国会へ!

1998年9月8日
労働基準法・労働者派遣法改悪NO!
共同アピール運動55ハンスト実行委員会


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