●社民党の連立政権参加

現場の声を反映すれば、社民党の存在感は増す

−改憲派後退のいま、沖縄・安保政策のリアリズムへ−

(インターナショナル第190号:2009年9月号掲載)


▼左派の気分と社民党の苦悩

 「民主党と自民党が入れ替わっただけ」「小さな声がかき消される二大政党制―これを“民意の勝利”と言えるのか」「環境も農業もあいまいな民主党―結局、日本は何も変わらない?」
 これは『週刊金曜日』9月4日号の特集「新政権で日本はどうなる」での同誌編集委員発言に付けられた見出しの一部であるが、この表現には、政権交代に懐疑的な日本の“左派的”な人々の外在的な気分がよく表されているように思われる。
 だが、こうした“気分”は果たしてリアリズムを持っているのだろうか。その渦中にいたのが連立協議で揺れ動いた社民党である。

 社民党は9月2日の全国代表者会議で、民主党政権への連立参加を決めた。
 1994年の村山内閣の成立で、当時の社会党の基本政策である安保・自衛隊・原発などの路線転換を迫られ、その後の社会党の崩壊・少数政党としての再出発を余儀なくされた社民党にとって、今回の連立政権参加の選択は、厳しい決断を迫られるものであったに違いない。
 事実、9月2日の社民党全国代表者会議は、憲法や沖縄基地、原発などの問題をめぐる民主党との立場の違いを強調する意見が相次ぎ、政権参加は閣外協力にとどめるべきだという“悲痛な叫び”が繰り返された。
 だがその一方では、「政権に参加して1歩でも社民党の政策を実現させることが政党の役割だ。反対の立場を表明していれば事足りる運動体との違いでもある」との意見も強く出された。そのような内部対立を抱えた上での連立政権参加である。
 ここで、社民党が連立政権参加に踏み切る要因の1つとなった「衆議院選挙に当たっての共通政策」を見てみよう。
 民主党、社民党、国民新党の3党が8月14日に合意した共通政策では、その前文で自民党を「そもそも小泉内閣が主導した市場原理・競争至上主義の経済政策は、国民生活、地域経済を破壊し、雇用不安を増大させ、社会保障・教育のセーフティネットを瓦解させた」と批判し、@消費税率の据え置き、A郵政事業の抜本的見直し、B子育て、仕事と家庭の両立への支援、C年金・医療・介護など社会保障制度の充実、D雇用対策の強化―労働者派遣法の抜本改正―などを対案として提示した。さらに前文の末尾には、「もとより3党は、唯一の被爆国として日本国憲法の『平和主義』をはじめ『国民主権』『基本的人権の尊重』の三原則の遵守を確認する」を掲げていた。
 その後の連立協議で社民党は、@沖縄の米軍基地の見直し、A自衛隊のインド洋からの即時撤退、Bソマリア沖の海賊対策に自衛隊を派遣しない―の3点を求めた。この立場は社民党の従来路線からすれば当然の要求であるが、問題なのは野党として政権与党の自民党を批判するこれまでの立場とは異なる連立協議の場で、同様のスタンスの主張がなされた点である。

▼欧州社民型政策と改憲派の後退

 こうした紆余曲折があったものの、米軍基地問題については「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起」し、「米軍再編や在日米軍基地の在り方についても見直しの方向で臨む」と明記することで合意が成立。9月9日の3党首会談での合意調印で、連立政権は事実上スタートした。
 ここで、連立合意の基本となった「共通政策」の内容をもう少し詳しく検討してみることにしよう。同政策の特徴は、第1に前文で市場原理・競争至上主義批判を明言したことであり、第2に子育て支援をはじめとする社会福祉の領域で、国家による個人への直接支援を掲げたことである。自民党による従来の福祉政策は、企業や関連団体に予算をつける間接型だったのに対して、「共通政策」はヨーロッパの社会民主主義と同様に、個人へのダイレクトな支援であることが大きな違いとなっている。
 今回の総選挙で有権者は、小泉政権による新自由主義のもとで破壊しつくされた雇用、子育て、教育、医療、年金など、社会福祉の領域において従来の日本の経験にはない個人への直接支援というヨーロッパ社民型政策を、自覚的であるかどうかは別として支持した。これは今後の日本社会を考えていく上で、注目すべき変化であるといえよう。
 第3に「共通政策」は、前文末尾で「日本国憲法の『平和主義』をはじめ『国民主権』『基本的人権の尊重』の三原則の遵守」を掲げたが、これに関しては2つの注目すべきデータがある。
 その1つは、朝日新聞と東大が共同で行った新議員に対する意識調査である(新議員480人中451人が回答。朝日9月1日)。それによると、改憲賛成は全体で前回05年の87%から今回59%へ減少、民主党では46%と過半数を割った。この結果を「朝日」の見出しは「改憲派、3分の2切る」と報じた。
 もう1つのデータは、「しんぶん赤旗」が9月2日付で報じた「改憲派議員集団が大量落選」である。同紙の記事では、自民党の「自主憲法期成議員同盟」を源流とする超党派(自民、公明、民主、国民新)の改憲派議員集団「新憲法制定議員同盟」(会長・中曽根康弘。鳩山由紀夫は同同盟顧問)所属の衆議院議員が、選挙前の139人から53人に激減したと報じている。
 この2つのデータは、05年の総選挙結果である自民300議席をテコに、安倍政権でピークに達した改憲圧力が明らかに減少したことを示している。安倍に代表される従来型右翼潮流は退潮に転じたといってよいが、ここには良し悪しは別にして、ブッシュからオバマに替わったアメリカ外交の変化が影響を与えているといえるだろう。
 このように「共通政策」に組み込まれた3つの特徴は、いずれも福祉社会の充実と平和主義にもとづく憲法擁護の道筋を示しているが、それはあくまでも可能性であって、民主党が明確な路線転換を表明した結果ではない。むしろ民主党の内部には、自民党以上に強固な新自由主義者や軍備強化派が存在していることは、周知の事実である。
 したがって民主党内部のそのような否定的現実に依拠して、『週刊金曜日』のタイトルのように「民主党と自民党が入れ替わっただけ」「日本は何も変わらない」という外在的立場を取るのか、それとも「政権に参加して1歩でも社民党の政策を実現させることが政党の役割だ。反対の立場を表明していれば事足りる運動体との違いでもある」という、社民党全国代表者会議に出された見解を是とするのかが、鋭く問われることになる。

▼社民党は現場の声を反映できるか

 ここでもう一度振り返ってみなければならないのは、「共通政策」に示されたヨーロッパ型社民への接近を感じさせる民主党の路線には、その要求実現に向けた現実的な大衆運動の圧力が作用していない点である。
 たとえば派遣切りに象徴される雇用不安を打破する労働者派遣法の抜本改正にしても、民主党最大の支持団体である連合JC系労組の本音は、彼らが所属する企業経営者と同様に「製造業派遣禁止」には消極的である。一方、新しい社会運動の可能性を示している派遣村などの反貧困運動は、マスコミで注目を集めたとはいえ少数派の運動であり、政権与党としての民主党の労働政策を左右する力を持っているわけではない。
 連立政権に参加する社民党は、こうした関係に注目すべきである。反貧困運動などの大衆運動と連携を深めた社民党が、現場の声を体現して政権内部で派遣法改正を実現させようとするならば、基本政策があいまいな民主党の内部に新たな同調者を作り出すことになるだろう。
 それは、沖縄や安保・外交政策についても同様である。憲法問題に見られる民主党内部の平和主義的要素の拡大に注目し、鳩山政権の外交に一歩でも影響力を行使すること、たとえば今回の連立合意に盛り込まれた内容はその第1歩であるが、そのような合意内容を駆使しつつ、沖縄の運動や憲法擁護の運動と連携して社民党の安保・外交政策をリアリズムのあるものに練り上げ、民主党内部の平和主義的部分との関係を強化していくことから、新たな可能性が広がっていくのではないだろうか。
 いずれにしても、外在的な立場から批判だけを繰り返してきた戦後左翼的あり方は、重大な分岐点を迎えたといえる。自民党が長期にわたって体現してきた政財官の癒着構造に替わる新たな政治・社会像を提起しつつ、それを連立政権の中で体現していくことが社民党には求められていると思うのである。
 そのような政権交代を空虚なものとみなし、その次の局面に展望を求めるという外在的立場では、今後を切り拓くことができない。そうした時代に入ったと考えるべきではないだろうか。

(9/9:あらい・たかよし)


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