★まだ青い鳥を追い求めるのか?−小泉人気の凋落★

200471日:5日加筆

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 参議院選挙まであと10日。今朝の日経の選挙情勢の記事の中に興味深い一節があった。「前回は小泉首相が行く所、どこでも携帯電話で写真を撮る音が鳴り響くほどの小泉人気だったが、今回は場所によっては反応はまばら」と。記事は小泉人気の凋落と年金問題をめぐる支持者の厳しい姿勢に、自民党の危機感は募っているというもの。

 小泉人気は凋落したのだろうか。だとしたらその原因は?。
 原因は、年金問題でも、日朝国交正常化の問題でも、自衛隊のイラク派兵・多国籍軍参加でも、ましてや憲法改正でもないと思う。これらは国論を二分はするが、小泉支持を直接凋落させるほどの不人気を生んではいない。それほどには、問題を評価する基準が明らかになってもいないからである。
 では問題は何か。それは小泉という政治家に対する信頼の問題だと思う。
 「年金国会」の中での小泉の態度で一番気になったのは、(私の家族の入院が続いて正確には追っていないのだが)彼の厚生年金不正加入の問題が明らかになった時だ。国会議員当選前から支持者の不動産会社の社長の肝いりで実態のない社員として登録され、年間数百万の「給与」を当選後ももらいつづけるとともに、厚生年金に不正に加入していたと言う問題だ。これが明らかになったときに小泉が国会で放った言葉。「人生いろいろ、国会議員もいろいろ・・・」。これはあまりに人を食った発言である。たしかに政治資金規正法も当時はなかったから、架空の会社員としての「給与」の問題も法律違反ではないかもしれない。しかし厚生年金の不正加入の問題は残るし、「クリーン」なはずの小泉が、小なりと言えども「不正」に手を染めていたという事実には変わりはない。しかも弁解どころか、居直る態度は問題である。
 しかもこのとき印象に残っているのは、小泉後援会の人々の発言。それは小泉が最初に衆議院議員に立候補して落選したあと、無給で彼の後援会を支え、次の総選挙で初当選を勝ち取った原動力になった人々の発言だ。曰く。「純ちゃんも、いっしょに苦労していたと思ったのに。裏切られた。」と。

 そう。自身の年金を巡る問題での小泉の対応がどこに問題があったかと言えば、小泉という「クリーンな」政治家に対する信頼が音をたてて崩れるほど、彼の口先でごまかしていこうとする対応。これに問題があったと思う。
 思うに政治は「信義」の問題である。政策もさることながら、「この人になら任せられる」という信頼と、それに応えるという政治家の対応。汚れていない政治家・彼なら何かを変えてくれるという彼の唯一の魅力が、年金を巡る一連の対応で、完全に崩れたのではなかっただろうか。
 小泉は嘘をついてきた。それも身近な同士をも裏切ると言う嘘をついてきた。政界を変える、自民党を変える、日本を変えると言ってきたことで、彼は「国民がひさしぶりに政権党の中に見出した青い鳥」(経済学者の野口悠紀雄さんの弁)であった。しかし一連の「嘘」で疑惑をごまかした時、彼に託された「日本を変えてくれる」という期待=青い鳥願望は、音をたてて崩れたのではないか。彼の偶像が虚像であったことがわかった瞬間に、彼の言う改革が砂上の楼閣であったことが、夢を抱いてきた人々にも感覚的に了解できるだろう。

 あの年金国会でもう1つ印象深いことがある。それは大量の国民年金保険料未払い議員の存在である。このことが明らかになった過程で、国会議員がいかに年金に無関心であり無頓着であるかと言うことが同時にあきらかになっている。いや中には未加入の者さえおり、いかに国会議員という「人種」が、金持ち階層に属しており、「庶民」とは隔絶した「雲上人」であったということを改めて実感させた。そしてこのことは参院選突入直前に発表された国会議員の年間収入と兼業の状況でも再度確認された。国会議員長者番付の上位にはたくさんの「未納議員」が並んでおり、彼らの多くは会社社長や顧問、そして大企業の顧問弁護士であったのである。
 年金を巡る問題であきらかになったことは、この制度が解体寸前であり、今回の改正はそれを繕ったにずぎないという制度的なことだけではなく、年金のあり方を決める国会議員の多数にとっては年金などなくても優雅な老後が暮らせるということであり、国会議員の多くが年金問題を真剣に議論する気もないし資格もないということである。「あの人達にに決めて欲しくない」という庶民の声が新聞で紹介されていたが、これは庶民の心の奥底の声であり、深刻な政治不信・政治家不信を生み出したことも確かである。

 総じて「小泉人気」という先行き不透明な時代の中で、「改革の青い鳥」を求める動きは大いなる失望で終わったのである。ということはその主力であった女性と大企業サラリーマンは今後どこへいくのであろうか。
 女性の小泉支持が激減したということは、自民党政権を支えてきた創価学会の女性たちが今回の選挙では自民党の集票マシーンとしては動かないと言うことであり、自民党の獲得議席数はかなり減る事は確実である。彼女たちは自党である公明党への支持獲得のみに邁進するであろう。またこの創価学会の女性たちの「小泉熱」が冷めた理由の1つには、小泉ひいては自民党が庶民の味方ではないことが年金を通じて明らかになったとともに、自衛隊派兵を巡る小泉・自民党の動きに、「平和への脅威」を嗅ぎとっていることも背景として見ておく必要がある。この学会の「冷め」は、自民党に妥協をし続ける公明党幹部への不信としてもこの人々の心の中に沈殿し、いつか大きなうねりとなって噴出するに違いないことを心に留めておくこととしよう。
 そして大企業サラリーマンは他の階層より現実的に問題を見る傾向が強い分だけ、民主党にも共産党にも社民党にも引きつけられることは少ない。これらの政党の政策は、きわめて現実妥協的だあるか、ただ単に大企業や金持ちを敵視するものでしかなく、実現可能性のある改革ビジョンをまったく示していないのだから。この層は徐々に自分たちで、問題を具体的に解決する方向を模索し始めるに違いない。しかしそれをくみ上げる政党も労働組合もないのが現状である。

 では一体参院選挙はどうなるのだろうか。
 風は自民党に逆風であり民主党に追い風であることは確かである。しかし問題はその風の強さと持続性。「青い鳥」を求めて小泉に投票してきた人々が夢から覚めて、民主党など野党に投票するかどうかである。夢から覚めたことが虚脱感になっているのか、怒りになっているかということでもある。

 しかしここでのもっとも大きな問題は、人々が「青い鳥」を求めることから覚めているのかという点にあろう。青い鳥願望は命がけの主体的な激しい闘争の末に何度も裏切られて夢を追いかけていた当の本人が成長して初めて抜け出せるものである。誰かに政治を託するだけだった人々が、小泉と言う青い鳥がただの鳥であったことに気づいてもなお、青い鳥を求めつづける可能性は高い。なぜなら自分自身が主体的に政治を変えようとする動きをしていないから。
 だとすれば小泉自民党への「怒り」の噴出は極めて弱く、虚脱感となって投票しないか、惰性で青い鳥を夢見、小泉にしがみつくか、民主党を次の青い鳥として願望するかであろう。
 対する民主党も日本を世界をどう変えると言うビジョンを出すのではなく、党首の「クリーンさ・真面目さ・直向さ」で彼を新しい「青い鳥」に仕立てようとしているかに見えるのは、青い鳥願望は政党も含めた現象だということであろうか。日本を世界をどうかえるかという実現可能性を具体的に備えたビジョンがなければ、「夢」から覚めた人々の心を「怒り」へと、戦いへと行動へと駈り立てることはできない。(04.7.05加筆)

(すなが)


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