★イラクの邦人誘拐事件と小泉政権の政治責任★

自国民の安全を無視した派兵強行のツケ

2004年4月11日

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▼人質殺害は、小泉を利するだけだ

 カタールのTV局アルジャジーラは4月8日、3人の日本人が「サラヤ・ムジャヒディン(聖戦士旅団)」を名乗るグループに誘拐され、犯行グループが「3日以内に自衛隊を撤退させなければ、3人の人質を殺す」と脅迫していると報じた。
 人質になった3人の日本人は、イラクの戦争被害を報じてきたフリーのライター兼カメラマンの郡山さん、戦後のイラクで戦災孤児への援助をしてきた高遠さん、そして米軍が使用した劣化ウラン弾被害を訴えるNGO代表の今井さんであり、いづれもアメリカ軍のイラク侵攻を支持した日本政府とは無関係にイラク民衆の戦争被害を憂い、その支援にもあたってきた人々である。
 9日の朝刊各紙はこの事件を大々的に報じ、犯行グループを「卑劣な行為」と非難すると同時に「脅迫に屈してはならない」との社説を掲げた。もちろんこの誘拐・人質事件は卑劣であり、人質の殺害は、むしろ安全の確保という口実で日本政府が自衛隊派兵を正当化する格好の材料を与え、だからまた自衛隊派兵に異論を唱えながら独自にイラクの復興支援に当たってきたボランティアやNGOの活動が、危険を口実に日本政府によって阻害される可能性のほうが強い。その意味でわたしは犯行グループに対して、人質に危害を加えるな!むしろ現地に必要な援助のメッセージを託し、自発的に人質を解放すべきだと強く訴えるし、イラク現地に人脈と情報網をもつすべての非政府系組織が、こうしたメッセージを犯行グループに伝えるべく全力をあげるよう要請したい。
 だがその上でわたしは、マスコミ各社がまったく触れていない小泉政権の政治責任を明確にする必要があると思う。なぜなら今回の事件は、「非戦闘地域に自衛隊を派遣する」という小泉政権の決断こそが引き起こしたと言えるからである。

▼小泉政権、2つの政治責任

 小泉政権の第1の政治責任は、自衛隊つまり軍隊をイラクに派遣すれば、日本人ボランティアやNGOが標的にされる危険がむしろ増大するという批判と警告を無視、もしくは軽視したことである。
 日本の民間ボランティアやNGOによるイラク支援活動は、91年の湾岸戦争いらいの歴史をもつものもあり、ブッシュ政権の自衛隊派遣要請に応えるという外交上の政治判断が入り込まなければ、イラクの「人道復興支援」にとって最も効果的な活動と位置付けられていい蓄積をもっていたし、現実にもこうした活動に関わってきた人々の多くは、自衛隊派遣に対して批判と警告を発してきた。今回人質となった高遠さんも「自衛隊派遣で、日本人に対するイラク人の態度が厳しくなった」(産経新聞:9日朝刊)と語っているように、彼らの警告にはリアリティーがあったのである。
 だが小泉政権はこうした批判と警告に耳を傾けることなく派兵を強行し、民間ボランティアやNGOが歴史的に蓄積してきたイラク民衆との信頼関係を傷つけ、人質事件の背景となったイラク民衆の「日本への反感」をむしろ強化し、イラク国内で活動する日本人を新たな危険に直面させたと言うべきである。それは小泉が、自国民の安全確保という政治責任を果たすことを怠ったと非難されて当然ではないだろうか。
 第2のそしてより重大な政治責任は、この「自国民の安全確保」という問題に直接関係して、小泉政権は今もなおイラク国内の実情に反する情報を垂れ流しつづけて自国民を欺き、結果としてではあれ、日本人がイラク国内の危険な情勢に関する正確な判断を阻害していることである。
 実際に小泉政権は、イラク全土が事実上の戦争状態であることを絶対に認めようとはしてこなかった。それは「非戦闘地域」に限定された自衛隊の派遣を正当化するための強弁だったのだが、この強弁が結果として、イラク国内で活動する日本人やその家族に誤った情勢認識を持たせた可能性がある。つまり派兵を正当化する小泉の強弁は、自国民の安全確保を犠牲にする行為だったと言ういがいないない。
 現実にイラクの実情に合った情報は、政府が派遣を要請した企業の社員などに企業社会的集団を通じて伝達されるインフォーマル情報を除けば、個人として自律的に活動しようとする人々にはまったく伝えられはしなかった。なぜならこうした人々に危険な情報を伝え警告を発すべき外務省や領事館は、自衛隊派遣を正当化する限り、イラク全域が危険な戦争状態であるとは口が裂けて言えないからである。
 当然のことだがこうした事態は、民間ボランティアやNGOと政府の関係に相互不信を生み出す。正確が危険情報を与えない外務省や現地領事館には、民間ボランティアやNGOが手にした現地の重要な情報もまた伝わらなくなる。
 こうして小泉政権は中東外交にとって有効な民間情報に自ら耳を閉ざし、日本外交のアドバンテージ(優位性)を掘り崩し、日本人全体を危険に、しかも直接的な身体的脅威ばかりか、石油資源の確保といった問題まで含めて、重大な危険に直面させつつあると言っても過言ではない。

▼読売新聞のたくらみ=問題のすり替え

 ところで9日朝刊の社説で、人質になった3人を「軽率な行動」と非難したのは読売新聞であった。「イラク戦争の直前から、外務省は渡航情報の中で危険度の最も高い「退避勧告」を出していた」のに、彼らがイラクに入国したのは「テロリストの本質を甘く見た軽率なものではなかったか」と言うのである。
 だがそれは、自衛隊の派遣が民間人の危険を増すという批判と警告が事前にあったことを考えれば主客転倒の主張だし、危険情報ということで言えば「イラクは安全だ」と言いつづけ自国民を欺いたのは小泉政権自身である。読売の社説は、問題をすり替える悪意に満ちた主張と言うほかはない。さらに付け加えれば、危険度が最も高い場合に取られる措置は「渡航制限」と「領事館などへの避難収容」であって、「退避勧告」は自発的な退避を促すものに過ぎない。
 だがこうして、今回の人質事件に対する危険な世論操作の兆候が明らかになる。
 小泉政権の対米追随外交と自衛隊のイラク派兵が唯一の選択肢に祭り上げられ、民間ボランティアやNGOの活動は、そうした国家意志とは無縁で迷惑な活動であるかのように世論を誘導しようとする問題のすり替えである。それはアフガン支援活動からNGOを排斥しようと〃こわもての議員〃を利用して脅しをかけ、ついには田中元外相を更迭に追い込んだ伏魔殿の官僚が何よりも歓迎しそうな事態であろう。
 アメリカによるイラク侵攻と、復興支援と称する自衛隊の派兵に反対するわたしたちは、この「すり替え」に身構えなければならないと思う。

(4月11日:きうち・たかし)


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