【時評】

ファルージャの傭兵殺害とアメリカ軍の「外注化」

−永遠の対テロ戦争がイラクで破綻する日−

(インターナショナルbP45号:2004年5月号掲載)


 4月に激化したイラク中部の都市ファルージャに対するアメリカ軍の包囲攻撃が、日本人人質事件の契機となったことはほぼ疑いない。米軍の攻撃に抵抗する民兵組織がファルージャの惨劇を世界に訴えようと外国人を誘拐にして連合軍参加諸国を脅迫する宣伝戦だったと見られる。またそのファルージャ包囲は3月31日、アメリカ民間人が殺され遺体がさらしものにされた事件の捜索と称する米軍の無差別逮捕や家宅捜索が行われ、抗議する住民に犯人引き渡しを要求して拒否されると(だいたい住民に「犯人を出せ」ってのは無理難題と言うものだが)無差別攻撃を始め、それが武装抵抗闘争の激化を呼び起こしたことも周知のことである。
 しかも殺されたアメリカ民間人は、「ブラックウオーター・セキュリティー・コンサルティング」という米軍の「下請け警備会社」に雇われた特殊部隊の経歴をもつ退役軍人で、「民間人」と言うより「傭兵」だったこともよく知られた事実である。

 彼らは「非正規戦闘要員」と呼ばれる兵士であり、アメリカ国防総省は現在こうした傭兵を2万人も雇っていると言われる。それはもちろん兵員不足を補うためだが、1985年に国防総省がはじめた「LOGCAP」と呼ばれる米軍の外注化プロジェクトに始まる「軍の民営化」の一環でもある。
 LOGCAPは、91年の湾岸戦争では兵站、輸送、機械整備などを民間業者に大量発注するに至るが、この傾向はネオ・コンが台頭して米軍の機動的展開、簡単に言えば世界中の米軍基地を整理・縮小し、必要な地域には本国から軍隊を短時間で大量に輸送・展開し、戦闘が終結すれば直ちに引き上げて次の戦争に備えるという、永遠に対テロ戦争を続けられる体制をつくるという構想によって一層加速されたと言われる。
 だが米軍が戦争で破壊した地域の後始末を国連などに押しつけることができなければ、この構想は成立しない。アフガンではTATO軍への押しつけに成功したが、イラクでは完全な失敗だったと言える。
 傭兵の大量雇用はその失敗の穴埋めとも言えるが、米軍の規律の外にある非正規戦闘要員の増加は、違法・不当な住民の殺戮や不要な衝突を広げる危険となるだけでなく、すでに崩壊の始まったイラク占領統治に対するイラク民衆の反感を増幅し、困難を増しつつある民間業者による兵站や輸送業務の機能低下を促進せずにはおかないだろう。
 「民営化された米軍」がイラクに止まれる時間は長くはない。

(Q)


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