【時評】       残飯大国日本の輸入牛肉狂奏曲

(インターナショナル第141号:2004年1月号掲載)


●アメリカ牛のBSE感染は安い牛丼の「危機」なのか?

 昨年末の12月24日、日本政府はBSE(牛海綿状脳症)感染牛が見つかったアメリカ産牛肉の輸入を急遽停止した。
 被害が予想される食料の輸入停止は当然の措置だが、今回はその当然の措置が「庶民の昼飯の危機」という「事件に化けた」のには驚かされた。
 1月になって、牛丼チェーン店を国際展開する「吉野屋」が米国産牛肉の輸入停止がつづけば牛丼販売の停止に追い込まれると発表すると、アメリカ産牛肉のBSE感染問題はにわかに「安い牛丼」の危機として連日報道され、サラリーマンの「昼食代の大問題」に転化してしまったからだ。

 庶民の味方づらをした即物的な、そのくせ横並びの報道に走る日本のTV報道の低俗さには、本当にうんざりさせられる。
 日本で初めて狂牛病が見つかったとき、農水省や厚労省の安全対策の不備を「消費者の立場から」あれほど厳しく批判したんだったら、自分の会社の業績悪化を懸念してアメリカ産牛肉の早期輸入再開を催促するかのような吉野屋の言い分は、「安全な牛丼をお客様に提供する」ことを最も優先すべき外食産業「優良企業」の、モラルの荒廃と非難される筋合いのもではないか。
 しかも現に日本もそうだったように、BSEが未発見のアメリカもいずれ感染は免れないという予測は世界的には常識だったのだから、アメリカ産牛肉に99%も依存する安売りという吉野屋のビジネスモデルは、グローバル時代経営の鉄則とも言うべきリスクヘッジ(危険の分散と回避)を無視した大失態でさえある。現にグローバル外食産業を代表するマクドナルドは、文字通り世界中から牛肉を調達してるではないか。

 「牛丼危機」はグローバル時代の食料調達のリスクとデメリットを象徴する事件であり、これが問題の核心だ。と同時に食料自給率が4割しかない日本という国の危うい現実を暴き出すが、この危うい現実は食料輸入大国・日本が、実は世界一の「残飯大国」でもあることに端的に現れている。
 深山隆明氏(リンク総研主任研究員)によれば、「供給熱量(食料需給表)から摂取熱量(国民栄養調査)を差し引いた数値」は「少し乱暴だが・・・廃棄される熱量」つまり残飯の量「を大枠で示して」おり、これで2000年度の国民一人当たりのギャップを計算すると供給熱量2642・1kcに対して摂取熱量は1948kcでその差は694・1kc(26・3%)、つまり4分の1強が残飯として棄てられているという(週刊エコノミスト:03/11/18号)。
 この廃棄率はアメリカがピークだった95年の27%に匹敵するが、以降アメリカでは廃棄率が低下して現在は日本をやや下回る水準になっているので、日本は文字通り世界一の残飯大国になったと言うのだ。
 食料の60%を外国からの輸入にたより、他方で26%を残飯として棄てる日本国民の食生活は、異常を通り越して不気味さを感じてしまうのはわたしだけだろうか。
 アメリカ産牛肉の安さにばかり目を奪われて「庶民の味方」=安い牛丼の危機をあおる前に、世界の食料援助総量(740万t)の80%もの残飯を棄てる(96年度)現代日本の食生活が肥満や成人病を蔓延させている現実や、世界で2億人とも言われる飢餓線上の人々の存在が国際テロの温床となっている現実を直視することも、庶民にとっては切実な問題であるはずだ。(Q)


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