【時評】

地球温暖化は止まらない

−地球温暖化「二酸化炭素犯人説」のウソ−

(インターナショナル第189号:2009年7・8月号掲載)


 「明日のエコではまにあわない」。NHKは2007年の年初以来、この言葉を一日に何度となく流し、今すぐエコ活動に取りくまないと地球環境は大規模に破壊されると、まるで脅すような口調でキャンペーンを繰り返している。
 このキャンペーンの眼目は、様々なところで生物の生育条件の激変に示される地球温暖化の原因は、人間活動にともなって大量に排出される二酸化炭素(CO2)であるという「科学的」認識に立ち、早急に人間活動に伴う二酸化炭素排出量を大幅に削減しろというものだ。そして、そのためには産業構造の大転換を行い、私たちの暮らしのありかたも大転換を行えという、国連の気候変動条約枠組み機構が提唱する「人類的規模」での大運動を促進するのを目標にしている。

 しかしこの、地球温暖化「二酸化炭素犯人説」は、ある政治的な思惑によって唱えられたものであり、まったくの嘘である。
 いま進行している地球温暖化の原因は、太陽活動の増減と、地球と太陽との位置関係の変化にともなって起こる周期的な気候変化である。この自然現象としての気候変動は、約1万2千年前に始まった「現在の間氷期」でもすでに何度も起きていることで、地球科学の世界で確認されている知見では、ヨーロッパ全体に産業革命が広がった19世紀中ごろに始まった今の温暖化は、あと数世紀つづいた後に、500年程度は「温暖安定期」がつづくと考えられている。
 しかもこの気候変化は軽微なもので、高緯度地帯でもせいぜい2度、地球全体で平均すればせいぜい1度内外の気温上昇にとどまり、しかも最初の数百年の間に高緯度地帯で2度上昇するが、温暖安定期間の500年程度はほとんど動かず、最後の数百年でまた2度程度下降するという、ゆるやかな変化なのだ。だからすでに19世紀中ごろ以降に約0・7度上昇した現在の地球の温度は、今世紀中でもこれと同程度にしか上昇しない(合計で1・5度程度)というのが、地球科学が到達した知見なのである。
 だからその前、西暦1300年ごろから1850年ごろの時期は地球が寒冷化した時期であり、その前の900年ごろから1300年ごろは温暖期、そして600年ごろから900年ごろは寒冷期で、西暦600年ごろから紀元前200年ごろの期間が温暖期だった。しかもこの1500年周期の間にも、幾つもの小寒冷期と小温暖期が繰り返されている。最近では1940年ごろから1970年ごろが小寒冷期で、1970年以後が小温暖期であり、これは1998年に最高温度に達し、以後は北半球で気温は停滞し、南半球ではすでに低下している。
 つまり現在は小寒冷期なのであり、これは2035年ごろまでつづき、それからまた40年ほどは緩やかに温暖化がつづくという。
 つまり二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化を進めたのではなく、逆に地球温暖化によって海水や石灰岩に含まれていた二酸化炭素が分離して空気中の二酸化炭素濃度が上がったというのが、地球科学的知見の共通認識なのだ。人間活動にともなう二酸化炭素排出量を増やそうが減らそうが、長期的には温暖化はつづき、直近の時期に小寒冷期がつづくのである。

 この1500年周期の気候変動の知見は、1983年に、グリーンランドの氷床の深い穴の中から取り出された、およそ1・5キロの「氷床コア」の分析によって見出されたものだが、そのことは、グリーランドの歴史自体が示してもいる。
 10世紀の終わりごろ、ヨーロッパ人がグリーンランドを「発見」したときは、緑に覆われた無人の大地が広がり、タラなどの漁場が広がる「緑の大地」だった。それが次第に進む寒冷化で北部から氷河が拡大し、西暦1400年ごろには全島を氷床が覆い、再び氷の無人の島となったのだ。この地に再び殖民が行われたのは、寒冷化が穏やかになった18世紀のこと。だから今日のグリーランドは、再び緑の大地に戻りつつある。
 こうしてみると、7月10日に閉幕したラクイラ・サミットで、主要8カ国(G8)が2050年までの先進国全体の温室効果ガス削減の長期目標として「産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える」「先進国全体の温室効果ガス排出量を50年までに80%減」を確認したことには、科学的根拠があったのだ。
 温室効果ガスを減らそうが増やそうが、今世紀中の温度上昇は1度に満たない。つまり産業革命期以後で2度以内の上昇に自然に留まる。サミットで確認された数値の背後に、数字の魔術を駆使した嘘があることがこれで確認される。(以上は、丸山茂徳著「『地球温暖化論』に騙されるな!」:2008年講談社刊、シンガー・エイヴァリー著「地球温暖化は止まらない」:2008年東洋経済新報社刊による)

 たしかに日本では、「地球温暖化二酸化炭素犯人説」は多数を占め、これに公然と反対を唱える人々は学者を含めて少ないが、アメリカやヨーロッパでは、これを公然と批判する科学者グループが存在し、アメリカ議会でもしばしばこれに依拠した地球温暖化対策論に対する反論が出されている。
 この科学者グループの調査によれば、1995年に国連の気候変動政府間パネル(略称IPCC)で、地球温暖化について明らかな人為的影響を発見したと発表したのは、IPCCに所属する科学者たちが、「地球温暖化に関する人為的影響はみつからない」とした合意を報告文書から削除し、替わりに「人為的影響が見つかった」という一文を入れた作為に基づくものだったという。しかも報告書を捏造したこの責任者は、IPCCの職員であると同時にアメリカ政府の職員でもあり、この捏造には、当時のアメリカ政府が関与していた疑いすらあるという。
 日本では、こうした「地球温暖化二酸化炭素犯人説」に反対する科学者たちの言動はほとんど報道されず、先に挙げた本なども、書評も含めて大きく報道されることはない。日本のマスメディアはここでも政府よりの姿勢をとり、国民を欺きつづけている。
 NHKが「明日のエコでは間に合わない」のキャンペーンを始めた時期は、構造改革路線で経済が疲弊したことで自民党への逆風が強まり、これを予感した安倍内閣がその挽回に動き始めた時期、つまり2007年夏の参議院選挙に勝ち、翌2008年夏に行われる洞爺湖サミットで温暖化議論の主導的役割をアピールしようとした時期に相応し、同時に、イラク戦争の泥沼化で支持基盤を失いつつあったアメリカのブッシュ政権が、地球温暖化対策を目玉に中間層をひきつけようと動き始めた時期にも相応しているのは、実に興味深い事実である。
 では「地球温暖化二酸化炭素犯人説」は、何のために唱えられたのか。
 それはこの説が、1980年代中ごろのヨーロッパで唱え始められ、先の政府間パネルの設立が1988年であるという事実に良く示されている。この時期は、戦後40年ほど続いた高度経済成長が市場の飽和で行き詰まり、未来に向けた模索が行われた時期だ。アメリカがとった方策が、国際基軸通貨ドルを背景に世界の余った金をアメリカに集める金融バブル経済だったのに対して、ヨーロッパがとった方策が、地球環境保全を旗印にした産業構造の転換と新しい市場の開拓だった。
 地球温暖化二酸化炭素犯人説という嘘は、戦後資本主義経済の行き詰まりにたいして、その構造的転換をスムースに行うための方便として考えられたのだ。

(K)


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