【時評】

神話が崩壊した 日本の高い技術

(インターナショナル第177号:2007年11・12月号掲載)


●紐つき援助とベトナムの橋梁事故

 少し旧聞にぞくするが、9月26日にベトナムのカントー市でおきた、日本のゼネコンが施工中の橋が崩落した事故が、両国関係に微妙な影響を与えている。
 事故の原因とみられる仮設支柱の崩壊について、施工管理業務を請け負っていたコンサルタントが、事前に仮設支柱を補強する必要性をゼネコンに対して指摘したメモのあることが、事故原因を調査してきたベトナム国家調査委員会の調べで明らかになった。なのにゼネコン側は、「調査委員会の要請」を理由に地元マスコミへの説明を拒み、不信が高まっているからだ。
 ベトナム政府は、「原因究明などで日本政府や企業は積極的に協力している」と日本側に配慮を見せてはいるが、親日的と言われるドン首相の面目が失われるとの見方もではじめているという。
 事故のおきた橋は、日本の途上国援助(ODA)で建設中だったが、コンサルタント業務は日本工営・長大のコンサルタント共同体が、施工も、大成建設を主幹事にした鹿島・新日鉄エンジニアリングの共同企業体と、ともに日本企業が受注する、タイドという「ひもつき援助」だったことも、地元の不信感の背景にあるのかもしれない。

 日本のODAは、かねてから「ひもつき」の多さを欧米各国から批判され、政府もタイドを減らしたことがある。だがその結果は日本企業の受注が激減し、これに経済界が強く反発することになった。結局は、ODAの一部でタイドを復活したのだが、そのときの大義名分は、「日本の高い技術を生かす」というものだった。
 カントー市の橋梁崩落事故で、この傲慢な大義名分は吹き飛ばされてしまったのだが、これには、現地の日本企業の駐在員の間からも、「税金を使いながら、他の産業が培った『日本ブランド』を台無しにしてくれた」と厳しい声があがっている。
 日本の土木建築技術が高い水準にあるだろうことは、国内の巨大建造物の林立や、本四架橋などの巨大橋梁が見本と言えるかもしれない。それでも「高い技術力」をタイド復活の名分にしたことには、途上国を見下すような日本の傲慢さがにじみ出る。

 前述の説明拒否もふくめて、事故後の対応にもそんな傲慢さが透けて見える。
 施工主幹事ゼネコンである大成建設は、事故から1カ月後の10月26日、担当役員2人を降格し全取締役の報酬一部返上を決めたが、これについても、日本企業の現地駐在員からは、「日本で同じ数の犠牲者(死者54人、負傷者80人)を出しても、同じ処分で済んだのか」と、疑問の声があがる。日本でこれだけの大惨事をおこしたら、担当役員は降格ですむはずはないし、刑事責任の追及をもとめる声もあがるだろう。
 BSE感染牛の発見で崩壊した「安全神話」もだが、ODAによって途上国におしつけられた「技術神話」の崩壊も、この国の国家官僚たちの傲慢さと、これと癒着して官僚たちのやりたい放題を許してきた自民党政治がまねいた人災なのだ。ところが、湾岸戦争で欧米諸国から吹きだした札束外交批判を「人的貢献」の必要にすりかえた国際貢献の議論が、ODAにまつわる傲慢さをおおいかくすことになったと思えてならない。
 結局そのツケが、「日本ブランド」を台無しにする、ベトナムの大惨事につながってしまったのだ。

【T】


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