【時評】金融犯罪に対するダブル・スタンダード

粉飾187億円のNCCと粉飾56億円のライブドア

(インターナショナル第170号:2007年1・2月合併号掲載)


 昨年12月25日、日興コーディアルグループ(以下NCC)の臨時取締役会は、不正決算の責任をとって金子会長と有村社長が辞任し、後任の社長には、桑島氏が就任する人事を決定した。その後NCCには5億円の課徴金という行政処分が課されたが、辞任した2人の経営幹部の刑事責任を追求する動きは、いまのところない。
 取引の詳細は省くが、証券取引等監視委員会が指摘したNCCの粉飾決算と不正取引とは、以下のようなものである。
 @NCCは、100%子会社の「日興プリンシバル・インベストメンツ」(以下NPI)が100%の株を保有して事実上支配下にある「日興プリンシバル・インベストメンツ・ホールディングス」(以下NPIH)を連結決算に含めず、本来は内部取引で相殺されるNPIの評価益のみを決算に取り込んだ。A04年9月22日に「他社株式償還特約付社債」(いわゆるEB債)発行を決議したが、これを8月9日にさかのぼらせて評価益を水増した。
 これによって連結経常利益を約187.5億円、同当初利益を約116.7億円かさ上げし、この虚偽の財務諸表を開示して500億円の社債を公募した(05年11月)のは、証券取引法171条第1項の規定に該当するとして課徴金の金額を決めている。
 さらにNCCが委託した特別調査委員会の調査報告書では、@本来は貸借対照表に算入される評価益を、EB債を使うことで損益計算書に計上した。A株式公開買付(TOB)価格を設定してBE債の交換価格が上回るように操作したと指摘された。
 要するにNCCは、TOBを前提にしてBE債を「仕組んだ」インサイダー取引か、BE債評価益を「膨らませる」為にTOBで株価を操作をするかをしたのだ。この手口は、あの「ライブドア」と同じである。
 しかもNCCは、有価証券の引き受けに当たって「企業を審査する立場」にある証券会社であり、「証券市場の健全化」には、ライブドアとは比較にならない社会的責任を負っているはずだ。とすれば今回の粉飾決算と不正取引は、金額が大きいといういう以上に「はるかに悪質」でもある。
 ホリエモンは「小悪党」だと弁護したい訳ではないが、ベンチャー企業のオーナーは逮捕しても、大手証券会社の「巨悪」の刑事責は追及せずに幕引を行うとすれば、それは金融行政と検察庁のダブル・スタンダード以外の何ものでもない。【Q】


時評topへ hptopへ