【時評】金融再編への期待 人員削減効果
大手三行の統合で国鉄民営化の解雇手法


 第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が2000年の秋をめどに共同で金融持ち株会社を設立し、事業統合をすすめる合意に達したという記者会見が行われたのは、8月20日であった。3行の資産総額の合計は141兆円にものぼり、現在最大の資産をもつドイツ銀行グループの99兆円を抜いて、世界最大の金融グループが誕生することになる。
 東京株式市場では、この大手3行の事業統合を機に、国際金融市場の自由化の波に乗り遅れた日本金融資本の再編が加速されることを期待した株価の上昇がみられが、金融アナリストたちの間ではその評価が別れ、世界最大の金融グループの誕生という「大事件」のわりには、全般的に見ればその評価はそれほど高いものではない。もちろん現在の金融資本の競争は資本収益率をめぐるものであって、資産規模の大小はかつてほど重要な意味をもたない。事実邦銀トップの東京三菱銀行との比較でも、収益の中心となるコア業務純益額は、資産が半分(70兆円)の東京三菱が5千億円なのに対して、3行合計でも6千8百億円に過ぎないし、有価証券含み損益という資産内容の評価でも、東京三菱の1兆1千億に対して僅かに4千8百億と半分未満である。これが低い評価の根拠である。
 一方この事業統合を高く評価する根拠は、店舗や人員の削減による経費削減つまりリストラ効果と、単独では賄い切れない巨額の投資、とくに今や競争力の要となったシステム投資が、年度ベースで1千5百億円と、都銀平均の3倍にも加速される点である。しかしもちろん高い評価は、市場が期待するリストラや投資が順調に進めば、つまり派閥争いによる内部混乱や3行がメインバンックとして抱えている問題企業で、破産などによる新たな資産劣化が発生して含み損益の悪化などがなければとうい仮定が前提である。
 「成功したら、そりゃすごい」と、ライバル銀行の幹部をして、懐疑と脅威の感慨を込めて言わしめる所以である。
 ところでこの事業統合に伴う人員削減は、20日の記者会見では6千人と発表され、しかも早期退職などは募集せずに「外部委託が進んでいるので関連企業への転籍などで対応できる」と説明された。しかしこんなリップサービスを信用する奴は、少なくとも金融アナリストの中にはいない。そんな悠長なリストラでは効果は限定されるし、何よりもリストラ効果を期待する投機資金は、たちまち株を売り払って逃げだすからである。
 案の定というべきか、「全行員を一旦解雇し、設立する新会社に新規採用する」という国鉄の分割民営化の時と同じ手法を用いた大量首切りの構想が、翌日には明かになった。たしかにこの手法を用いれば、これまでの給与体系に縛られることなく賃金は半減できるし、昇進などを決める人事政策も白紙の状態から勝手に決めることができる。しかもそうした処遇が不満な輩は、新会社に採用しなければいいだけだ。資本にとってこれほどの妙手はない。しかも邦銀トップクラスの統合過程でこれが実行されれば、銀行業界全体が追随するのも疑いない。
 だがこうして、国鉄の分割民営化に伴う不当労働行為を正当化した昨年5月の東京地裁の不当判決が、ひとり国労の、しかも過去の問題ではなく、労働者の未来にかかわる重要な意味を持つ判決だったことが改めて明かになる。国鉄闘争への共感が、不当なリストラに直面する労働者の間に広がる可能性が現れ始めた今、5・28判決の破棄を求める控訴審闘争の取り組みは、支援戦線を再構築する新たな基盤を組織する、攻勢的運動として展開されなければならないのである。   

(W)


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