バブルはじけて 労組が台頭
ニューエコノミーにインターネットで逆襲


 アメリカ経済の高成長をけん引してきたナスダック市場相場の急落が、国際経済のクラッシュの危機をはらみつつ金融資本の不安をかきたたている。IT革命だ、ニューエコノミーだと称賛されてきたネットバブルは、ほぼ10年で崩壊しはじめた。
 この株価バブルの崩壊によって、インターネット関連のアメリカ新興企業が次々と経営難に直面し、新規参入予定の企業も株式公開が遅れて資金調達のめどが立たなくなったりと、IT関連産業全般にわたって業績の悪化が急速に広がり、それとともに、ニューエコノミー神話が生み出した「労組は時代遅れの遺物」というイデオロギーもまた、急速に色あせはじめた。
 インターネットを使った国際的な書籍販売で急成長をとげ、IT革命の寵児のようにもてはやされてきたアマゾン・ドット・コム社の創業者であるビゾス会長は、「ストックオプションがあるから労働組合は必要ない」と公言してはばからない労組遺物論イデオロギーの信奉者だが、そのアマゾンの本社(アメリカ・シアトル)で、「ハイテク労働者ワシントン連合」(WASH・TECH)の指導のもと、労働組合結成の動きが公然化したのは、昨年11月のことである。
 ストックオプション(=SO)とは、あらかじめ定められた価格で一定数の株式を購入する権利のことで、これの自社株購入権を報酬の一部として社員に与えるのがSO制度という従業員持ち株制度である。自社株が値上がりした時にこの権利を行使して購入し、それを売却すれば労せずして株式差益が転がり込むという訳だ。もちろんオプション(選択権)だから、期待どおりの値上がりがあるまで行使しないこともできる。日本でも1997年、自己株式方式と新株引受権方式という2つのSO制度が導入された。
 この制度を使ってアマゾン社は、労働者に低賃金を押しつける一方、労働組合は時代遅れだと公言してきたのだ。自社株の値上がりがつづくあいだは、低賃金でも株式差益という「余禄」があると、労働者自身も期待できたからだ。ところがその株価が急落し、SOを行使しても差益が転がり込まなくなった。残った現実は、低賃金とSO報酬で埋め合わされるはずだった不払い労働である。
 こうしてアマゾン社の労働者の間で労働組合結成の動きがはじまり、イギリスのロンドン郊外にあるアマゾン社の配送センターでは、わずか数カ月で全体の10%近い労働者が印刷情報関連労組の組合員になった。さらに、アマゾン社が多国籍企業であることから、全世界で7000人とも言われる同社配送センター労働者を組織しようと、アメリカ国内とヨーロッパ各地のアマゾン労組を連携させる「ニューエコノミー労働者連合」(ANEW)というホームページが、ハイテク産業の労組づくりを支援するアメリカの非政府組織(NGO)の手で開設もされた。ニューエコノミー神話の崩壊をうけて、こんどは労働組合の側が、インターネットを使って労組遺物論への逆襲をはじめた格好だ。
 もちろん、ハイテク産業労働者の組織化は、大手の一部で着手されたにすぎない。ベンチャーと呼ばれる怪しげな企業も多い中小企業では、なお多くが未組織のままだ。だが、持ち株制度で労働者を小資本家に仕立上げ、階級関係を「利潤の分配」にすり替えたフォーディズムすら越えたと自認しようとしたニューエコノミーの挑戦は、たった10年しか維持できない幻想だったことが労働者の目には明らかになった。

(F)


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