不況対策にされた公共事業の不幸
「悪玉」土木産業が負った 所得再分配機能

(インターナショナル121号)掲載


 「プロジェクトX」という、NHK・TVのシリーズ番組がある。古き良き経済成長時代のノスタルジーの感もあるが、富士山頂の気象レーダー建設や黒部ダム建設など当時の難工事に挑む労働者たちの姿には、やはり感動を覚える。しかしそれと同時に、むだな公共事業や不良債権など、日本の政治と経済の諸悪の根源のように非難されている日本の土木建築産業は、世界でもトップクラスの技術を蓄積してもきたことを、多少の自省の念とともに痛感させられた。
 もちろんこの産業の担い手たる業界には、社会的に批判されるべき特権的権益への固執等々の問題はあるが、国鉄の赤字が政治による強引な利権がらみの路線建設にあったと同様に、土建偏重の公共事業もまた利権がらみの政治の問題である。つまり土建産業が「悪者」にされる背景には、旧国鉄が「親方日の丸」と非難されたのと同じカラクリがあると考えた方がよさそうだ。
 そのカラクリとは、本来は社会保障としてあるべき所得格差を是正する再分配機能を、国有鉄道法や官公需法を悪用して事業体に負わせ、そこに政治利権を忍び込ませた戦後保守政治の手法だと思う。社会的インフラが未熟な頃は、この特異な所得再分配機能は経済的好循環のポンプ役をはたしたが、公共事業が不況対策にされたことで、それは財政と環境そして産業自身にとっても、むしろマイナス面が多くなったと思う。
 土建産業で言えば、官公需法による地元企業優遇が工事の丸投げ、しかも受注事業の施工技術をもたない地元ボスの会社が、高い技術水準をもつ「外の」中堅会社に丸ごと下請けに出すという非常識が、地元出身議員が声高に叫ぶ不況対策を口実に平然とまかり通りはじめたからだ。
 小泉政権の不良債権処理と公共事業削減に直面した大手・中堅経営陣が、このシステムを非難しはじめるのはその意味で正当ではある。だがそれは、現場労働者の技術と知恵が運行システムの不備を補うにまかせ、それが労働現場の自治を強化するのを黙認するしかなかった旧国鉄官僚たちが、これを棚に上げて国労を悪玉にして居直ったのと同様、自らもこのシステムに依存してきた反省とその責任を取る用意がなければ、地元中小企業の犠牲で大手・中堅が延命しようとするたちの悪い居直りでしかない。
 土木建築産業の労働現場に蓄積された技術や知恵が正しく評価され、社会的に有用な公共事業が再生されるには、社会保障と公的事業をリンクさせて政治利権をつくりだす戦後保守政治の手法を、社会的犯罪として厳しく裁くことが不可欠なのだ。                                                               (Q)


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