時評詳しい分析を試みなければ・・・
−米軍基地移設をめぐる沖縄名護市の2つの選挙結果ー

(インターナショナルbW8 98年4月 掲載)


 昨年12月21日の住民投票で、海上ヘリポート基地建設に反対する住民の意思表示が行われた沖縄県名護市の市長選挙は、去る2月8日に投・開票が行われ、「ヘリポート問題は決着済み」と主張して基地問題を選挙戦の争点からはずし、もっぱら政府による名護市を含む沖縄本島北部地域の振興策の推進を訴えた同市前助役の岸本候補が、住民投票で勝利した基地建設反対派が擁立した玉城候補を僅差で破って当選した。
 この結果をめぐって、「市民が必ずしも基地建設に反対しているわけではない」(鹿野道彦)などとして大田県政への批判的な見解を表明したのは、鹿野が幹事長を努める民生党と新党友愛そして改革クラブあたりで、日米安保堅持のために沖縄米軍基地の縮小・撤去を県内移設にすり替えて乗り切ろうとする自民党はもとより、県内移設に反対などしたこともない自由党などの保守勢力も「基地移転が円滑に進むとは限らない」(野田自由党幹事長)などと、一様に慎重な態度を崩さなかった。他方、玉城候補を支持した民主党、社民党、共産党などは、それぞれ「建設反対の住民の意志は確認されている」(民主党)、「基地建設を争点化せず、地域振興策を打ち出した選挙戦術によるもの」(社民党)、「相手は『基地は争点ではない』と逃げ回った」(共産党)として、改めて基地建設への反対の意向に変化がないことを表明した。
 たしかに岸本陣営の選挙戦術は巧妙だったし、告示日に玉城候補の応援に駆けつけ、選挙戦たけなわの6日には公式に基地建設に反対を表明した大田知事の反対派支援が、逆に岸本陣営の「基地問題は決着済み」という選挙戦術を説得力あるものにしたとの見方もできる。だが、住民投票条例請求署名運動から数えれば半年もの間名護市を二分しかつ対照的な結果となった2つの選挙は、基地と振興策に揺れる沖縄の実態に迫る貴重な史料であり、それなりの分析が欠かせない。
 2つの選挙は、文字通り38,000余りの名護市の有権者を二分してきた。住民投票での基地建設反対は16,639票(条件付反対を含む)、賛成は14,267票(同賛成を含む)で、その差は2,375票、市長選での反対派の得票は15,103票で1,232票減、賛成派の推す岸本は16,253票で1,986票増、その差は僅か1,150票である。投票率も前者が82・45%後者が82・35%とほぼ同率だが、投票総数は住民投票30,906票、市長選31,356票と、投票率が0・1ポイント下がって投票総数は450票増えている。新成人など有権者が600人程増え、その8割方が岸本支持票という計算だ。あるいは6〜7千を占める棄権層が、住民投票と市長選では違うのかもしれない。新聞や雑誌、反対派の支援を熱心に訴えてきた機関紙なども調べたが、こんな瑣末なことは問題じゃないらしい。
 わたしには能力もないし、資料集めも大変なので深追いするのはやめたけど(でも解っている人は教えて下さ〜い)、2つの選挙を具体的に比較しようとしたのは、いわゆる基地被害と振興策のはざまで「苦悩する」沖縄の実情に迫りたかったからだ。どんな地域や職業の人々(階層)が岸本支持に廻り、どんな人々が棄権したかを、具体的な数字(投票数)と人間集団(社会的基盤)の関係として読みとらなければ、本土の沖縄連帯運動は政府の振興策と基地の取引策に反対や抗議はできても、「苦悩」を共有して対抗策を練り上げることはできないと思うからだ。
 ところが、名護市の住民投票と市長選の分析は、わたしの不勉強のせいもあるが、どれもが基地と安保と振興策を焦点に、ひどく政治化された反対派・賛成派の区分と分析のうえに、つけ足しのような「沖縄の苦悩」が語られる。だが必要なのは、沖縄民衆の意識の実態に迫るフィールドワークであり、その意味で今回のような選挙の詳細な分析は、欠くことのできないものに思える。

    (M)


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