時評男性は増え女性が減るとき
−最悪の男性失業率と不安定雇用女性労働者の増大ー

(インターナショナル88 98年4月 掲載)


 総務庁が2月末に発表した労働力調査によると、今年1月の男性の完全失業率が3・7%と、調査を始めた1953年以来、最も高率を記録した96年5月の3・6%を上回り、調査史上最悪となった。同じ月の男女の平均失業率は3・5%で、これも昨年末から4カ月連続で最悪記録と並んだが、女性の完全失業率は3・2%と0・3ポイント低下、ただし臨時雇用やパートなど、いわゆる不安定雇用形態の増加が特徴である。ちなみに、1月30日に発表された同じ総務庁の労働力調査結果によれば、昨年1年間の男女の平均完全失業率は3・4%と、96年の最悪記録に並んだ。男女別では男性3・4%と過去最悪記録の96年に並び、女性は0・1ポイント上昇して3・4%と過去最悪を記録している。
 失業率の増加は、日本経済の長期不況の反映ではあるが、1月のそれは、ある種の質的変化とでもいうべき特徴が現れている。それは《男性の常用雇用(正社員)》が減少する一方で、臨時雇いやパートなどの《女性の不安定雇用》が増加し、男性の失業率が男女平均失業率を大きく上回ったことである。
 その意味するところは第1に、改めて日経連の「新時代の日本的経営」を持ち出すまでもなく、臨時雇用やパート労働、有期雇用、派遣労働などを大規模に導入して常用雇用労働者を削減し、企業内福利の経費を含めた人件費総額を圧縮しようとする動きの兆候を示すものであろう。しかもそれは民間企業にとどまらず、行財政改革の謳い文句で正規職員(常用雇用)定数を削減し、他方では全く同じ仕事を有期雇用やパートの労働者で補うという形で、自治体や公立の諸施設にも広く浸透しはじめている。
 こうした男女の失業率と雇用形態の変化は、常用雇用男性労働者の失業率の増加に反比例して不安定雇用層を拡大するだろうが、いま強行されようとしている労基法の改悪は、こうした雇用構造の再編、つまり不安定雇用のさらなる拡大を促進する派遣法や均等法などの改悪とセットで推進されている。
 そして第2は、多くの場合男性である世帯主の完全失業率が、過去最悪の2・6%を記録したことに象徴されるのだが、戦後日本の経済成長の過程で、「平均的家族」の典型とされてきた家庭の性別役割分担、つまり「男は会社勤めで生活費を稼ぎ、女は家で家事全般を賄う」という中流幻想が、その経済的土台をも喪失しつつあることである。もっとも、専業主婦という家内労働の担い手がひとつの層として成立しえたのは、70年代後半のほんの数年にすぎなかったとつい最近とある人に教えられたが、それは敗戦直後、当時は新しい響きをもった「主婦」という呼びかけとともに、大量の兵士つまり復員男性の復職のために職場から家へと女性たちが追い返されながら、生活を立てるために内職やら臨時雇いとして働きつづけて20年以上も経った一時期であり、その後の15年以上もまた女性たちの多くは、住宅ローンや高い教育費の支払いのためにあるいは金ピカ時代の家族の見栄のためにと、主婦と呼ばれながら不安定雇用労働者として社会的労働に参加しつづけていたことを意味している。
 にもかかわらず、男性世帯主の失業が増加する反面、女性の不安定雇用労働者の就業率が増加するという事態は、女性の労働が《世帯主》の補助的収入としてしか評価されない現実を社会的な不公正として鋭く暴き出し、社会的文化的に形成される男女の性差(ジェンダー)と女性差別を、労働問題の最も重要なテーマのひとつとして突き出すことになるだろう。それは同時に、日本的経営の長時間労働と「企業忠誠心」を強要する労務管理が、家内労働全般を専業的な他人に押しつけなければ成り立たないという現実と、これに太刀打ちできなかった戦後日本労働運動の歴史的限界に、新たな光を当てるだろう。

(F)


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