【新刊紹介】江藤正修編

【資料集】『戦後左翼はなぜ解体したのか』

(インターナショナル第162号:2006年1・2月合併号掲載)


 以下に掲載するのは、本紙前号で紹介した『戦後左翼はなぜ解体したのか』の【資料集】(130頁:同時代社刊:定価1200円+税)の序文である。
 【資料集】発行の経緯と内容をまとめたものだが、本編である『戦後左翼はなぜ解体したのか』と併せて紹介をする。(編集部)

▼はじめに―論争よ、起これ

江藤正修

▼本書発刊の経過

 資料集『戦後左翼はなぜ解体したのか』を発行するに至った経過と、この小冊子の発行目的、発言者の紹介を行いたい。
 当初、ここに掲載したインタビューは、すでに発行されている『戦後左翼はなぜ解体したのか』の一部として収録する予定であった。そこには、『戦後左翼はなぜ解体したのか』で明らかにした歴史的総括を、その歴史的現場に立ち会った第一人者へのインタビューを通じて、さらに多面的にしたいという編集意図が存在した。
 同時に、戦後左翼に関わって出版されている内容の多くが、回顧的叙述以上のものではないことに対する危機感が存在し、同書が総括論争開始の一助になってほしいという願いもこめられていた。
 しかし、ページ数が大幅に増大する点と、戦後六〇年という歴史的時代状況に合わせて早期に発行したいという意向が出版社側から示された結果、二分冊に分けて発行することになった。
 本書のインタビューは、『戦後左翼はなぜ解体したのか』の問題提起を共通基盤としながらも、二つの性格に分けられる。一つは新左翼労働運動の流れにそった発言であり、もう一つは党的運動に重点を置いた発言である。両者は分かち難く結合しているのだが、あえて区分をすれば、そのように表現することができるであろう。
 新左翼労働運動は、一九六〇年の安保闘争を前後する時期の既成労働運動潮流内の反対派的位置を出発点としながら、一九六〇年代後半の反戦青年委員会運動を跳躍点としつつ、独自的運動領域を形成しようとした。反戦青年委員会運動の解体後、全労活(全国労働組合活動家会議)、『労働情報』と続く系譜は、そうした流れの一環を形成している。
 この領域については、高見圭司さんと樋口篤三さんのインタビューを掲載することができた。
 また、もう一つの領域を含む総括的発言として、小寺山康雄さん、山田邦夫さん・清野和彦さん、小島昌光さんに登場していただいた。

▼六〇年安保闘争の限界と全国反戦の結成

高見さんの一九六〇年代の活動は、日本社会党青少年局青年対策部長(青対部長)として展開された。彼は社会党の青年組織であった日本社会主義青年同盟(社青同)の創設者の一人であり、当時、最も広範に青年労働者を組織していた平和友好祭運動を中心で担った。
 こうした経歴を持つ高見さんは、六〇年代中盤のベトナム戦争の激化に対して、六〇年安保闘争の“平和と民主主義”的限界を超えた反戦運動を組織したいと考えて、青年による新たな反戦運動組織の結成を呼びかけた。それが、“自立・創意・統一”という斬新な運動理念と、全ての政治勢力に呼びかけるという柔軟さを持った反戦青年委員会という組織である。反戦青年委員会は結局、社会党内部からの敵対と新左翼党派の内ゲバ、軍事主義などによって、七〇年代初頭に解体したが、そこで掲げられた理念は、今日においても輝きを失っていない。
 結成当初から反戦青年委員会の中心を担ってきた高見さんからは、社会党内部の反戦をめぐる対立に触れつつ社会党総括にも踏み込む問題提起をしていただいた。ここでの発言は初めて語られる内容を含んでおり、いわば“反戦青年委員会秘話”と言ってもよい。

▼『労働情報』を語る−その成功と直面した壁

 樋口さんからは、主として『労働情報』発刊の経緯と同誌が直面した限界について語っていただいた。樋口さんは敗戦直後から共産党に入党し、戦後左翼運動を第一線で担い続けてきた現役革命家である。その彼にとって『労働情報』は、長い闘いの過程における一部分である。
 しかし、樋口さんが『労働情報』編集人として活動した一九七七年から一九八六年の時期は、一九七五年のスト権ストの敗北を契機にして、総評労働運動が解体に追い込まれる時代と重なっている。彼は『労働情報』編集人として、労働戦線の右翼的再編や国鉄分割民営化攻撃に対して最前線でキャンペーンを展開した。
 「樋口編集人」時代から二〇年が経過したが、樋口さんはこれまで公的に『労働情報』について語ろうとはしなかった。そこには様々な配慮が存在したと思われるが、今回初めて『労働情報』の「成功と限界」についての彼の見解を明らかにした。『労働情報』の成功については本文を読んでいただくとして、限界についての叙述は無念さに溢れていて現在も生々しい。
 「無念さ」は、国労への集中攻撃から総評解体に至る国鉄の分割民営化、労戦再編に対して、有効な「戦略的対案と構想力」を提起できないまま、敗北したことから生じる。しかも樋口さんは当時、一万人の『労働情報』読者=活動家を擁した一方の旗頭だったのであり、彼が述べる「あり得たかもしれない選択肢」は、そのまま「あり得たかもしれない戦後革新の再生」を孕むだけに、徹底した総括討論を行ってみる必要があるのではないだろうか。

▼総括作業の重要さを提起

 三人目の小寺山康雄さんの出自は、統一社会主義同盟(統社同)である。彼によれば「自らを構革派(構造改革派)と規定したのは統一社会主義同盟」だけである。その小寺山さんは、寺岡衛著の『戦後左翼はなぜ解体したのか』を真正面から取り上げ、誠実にコメントをしている。
 したがって、小寺山インタビューの妙味は、構革派としての小寺山さんがトロツキストである寺岡総括のどこに共感し、どこに疑問を投げかけているかにある。従来の“常識”での二人の政治的立場は、差異を認めることがあっても、決して交わることがなかったはずだからである。そこには、旧来のトロツキズムと旧来のグラムシ認識に、それぞれが疑問を投げかけ、新しい時代認識を獲得していこうとする共通項が存在するように私には思える。

▼創成期の福島トロツキスト運動

 四番目は「創成期の福島トロツキスト運動」についての証言である。山田邦夫、清野和彦のお二人は、一九五六年に福島大学教育学部(勤評闘争時は学芸学部)に入学した。「福島の古本屋で探してみたが、トロツキーの本はまったくなかった」という地方都市で、なぜトロツキストは誕生したのか。その最大のテコとなったのは、ソ連共産党二〇回大会でのフルシチョフ秘密報告と勤評闘争の双方から生じた共産党への疑問であったと彼らは語る。
五〇年代全学連の象徴である砂川基地拡張阻止闘争にも六〇年安保闘争にも、お二人は参加していない。むしろ六〇年の六月から八月にかけて、教育学部系自治会が毎年夏に東北規模で開く“教育ゼミ”の組織化に駆け回っていたという。そこには、安保ブンドが体現した先駆性理論、すなわち危機を敏感に察知し、社会に警鐘を乱打するため機動隊と激突するという六〇年安保闘争に象徴される学生運動とは別の世界が存在しており、興味深いインタビューとなった。

▼寺岡総括を叩き台に、討論よ起これ!

 最後の小島昌光インタビュー、「寺岡総括を叩き台に、討論よ起これ!」で語られる領域は多岐にわたる。それを整理すれば、七〇年代の第四インターナショナル日本支部の源流をなす二つの構成要素、日本革命的共産主義者同盟(JR)と国際主義共産党(ICP)の中で、ICPに所属していた小島さんが、JRである寺岡さんの六〇年代トロツキスト運動総括を辛口で論評している点である。
 しかもそこには、五〇年代から六〇年代の第四インターを構成したトロツキストたち、西京司、岡谷進、太田竜、塩川喜信、今村稔、今野求、寺岡衛、酒井与七、小島昌光などの、それぞれの政治的立場の違いや対立を述べながらも、彼らの人間像が浮かび上がってくるという、小島さんならではの芸当が存在する。
 小島インタビューのもう一つの特徴は、東大駒場でのブンド結成の隠された姿と、五八年当時に黒田寛一が指導していたJR書記局のエピソードが、リアルに語られている点である。ここでもブンドの島、姫岡や、後に革マル派を作った黒田の姿を通して、小島さんの政治的評価が語られている。
 しかし、私が最も心打たれたのは、小島さんが最後に述べた次のくだりである。彼は寺岡総括の意義を認めつつ、「(第四インター日本支部が分裂して)だいぶたったけれども、……ようやくこのような総括が出てきた。それは、そのような時代に我々がたどり着いたからではないか」。そして、「討論を開始しよう」と提起する。

 以上、長々とインタビューの発言趣旨を紹介してきたが、そこに共通するのは、党派やグループの違いを超えて、今こそ共同して総括討論を開始しようという意志である。戦後左翼の解体が誰の目にも明らかになったという状況と、日本で顕著になりつつある政治的、経済的、社会的矛盾が、いよいよ抜き差しならない段階に突入したという実感が、そこには共通して存在しているように思われる。
 この小冊子が、そのために多少とも役立てば、この上ない喜びというほかない。
 最後になるが、この資料集に掲載したインタビューの聞き手は、全て江藤である。お忙しい中を長時間、時間を割いてくださった方々に心から感謝申し上げる。また、私自身の総括の深化という点でも、実に貴重な体験であった。

【資料集】『戦後左翼はなぜ解体したのか』

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 A同時代社                         TEL:03-3261-3149/FAX:03-3261-3237まで

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