第1研究会第1期7回:レーニンの帝国主義論(1916年)再考       

2000.7  文責:すなが けんぞう


【レジュメ】

【1】 帝国主義とは(その定義)−帝国主義の純経済的概念―

  @生産と資本の集積:これが最高の段階に達して、経済生活で決定的な役割を演じている独占体をつくりだすまでになったこと。

……独占は、自由競争を排除せず、自由競争のうえに、これとならんで存在し、そのことによって、幾多のとくに鋭くて激しい矛盾、軋轢、紛争を生み出す。独占は、資本主義からより高度の制度への過渡である。……(p307)

  A銀行資本が産業資本と融合し、この「金融資本」を基礎として金融寡頭制が作り出された事。

……株式会社の事業を切りまわすには、株式の40%を所有していれば充分である。なぜなら分散している小株主のある部分は、事実上株主総会へ参加する等々の可能性を何も持っていないから。株式所有の「民主化」は、金融寡頭支配の力を教化する手段の1つ……(p262)
     ……資本の所有と資本の生産への投下と分離、貨幣資本と産業資本あるいは生産的資本との分離、貨幣資本からの収益だけで生活する金利生活者と、企業家および資本の運用に直接たずさわるすべての人々との分離―これは資本主義一般に固有のこと。帝国主義とは、あるいは金融し本の支配とは、このような分離が著しい規模に達する、資本主義の最高段階である。他の全ての形態の資本にたいする金融し本の優越は、金利生活者と金融寡頭制の支配を意味し、金融上の「力」を持つ少数の国家がその他の全ての国家から傑出することを意味する。……(p274)

  B商品輸出とは区別される資本輸出がとくに重要な意義を獲得していること。

……もし資本が、現在いたるところで工業よりおそろしく遅れている農業を発展させることができるなら、またもし資本主義が、めざましい技術的進歩にもかかわらず、いたるところでなかば飢えた、乞食のような状態に取り残されている住民大衆の生活水準をひきあげることができるなら、もちろん資本の過剰などは問題になりえない。だがそのときには、資本主義は資本主義でなくなるだろう。なぜなら、発展の不均等性も、大衆のなかば飢餓的な生活水準も、ともにこの生産様式の根本的な不可避的な条件であり、前提であるからである。資本主義が依然として資本主義である限り、過剰の資本は、その国の大衆の生活水準を引き上げる事はにはもちいられないで―なぜならそうすれば資本家の利潤はさがることになるから―国外へ、後進諸国へ資本を輸出する事によって利潤をたかめることにもちいられる。……(p277)

……資本輸出の必然性は、少数の国家では資本主義が「爛熟し」資本にとっては(農業の未発達と大衆の貧困という条件のもとで)「有利な」投下の場所がないということによってつくりだされる。……(p278)

……資本主義のもっとも本質的な経済的な基礎の1つである資本輸出は、金利生活者の層の生産からの完全な遊離をますますつよめ、いくつかの海外の諸国や植民地の労働の搾取によって生活している国全体に、寄生性という刻印をおす。……(p319)

  C資本家の国際的独占団体が形成されて、世界を分割していること。

  D資本主義的最強国による地球の領土的分割が完了していること。

……資本家たちが世界を分割するのは、彼らの特別の悪意からではなくて、利潤を獲得するためには、集積の到達した段階のおかげで、いやおうなしにこの道に立たざるをえないからである。そのさい、資本家は世界を「資本に応じて」「力に応じて」分割する。ところが、その力は経済的および政治的発展につれて変化する。……(p292)

……資本主義と言う基盤のうえでは、一方における生産力の発展および資本の蓄積と、他方における植民地および金融資本の「勢力範囲」の分割とのあいだの不均衡を除去するのに、いったい戦争以外にどのような手段があるのだろうか?。……(p318)

  E労働運動における2つの基本的傾向と帝国主義との関係

……金利生活者国家は、寄生的な、腐朽しつつある資本主義の国家であり、そしてこの事情は、一般にはその国のあらゆる社会政治的条件に、とくに労働運動における2つの主要な潮流に反映しないではおかない。……(p322)

……帝国主義は、世界の分割と、中国にかぎらぬ他国の搾取とを意味し、ひとにぎりのもっとも富裕な国々が独占的高利潤をえることを意味するが、その帝国主義は、プロレタリアートの上層部を買収する可能性をつくりだし、そのことによって日和見主義を培養し、形成し強固にしている……(p324)

……帝国主義は労働者の間でも特権を持つ部類を分離させ、これをプロレタリアートの広範な大衆からひきはなす傾向をもっている。……(p327)

……今日の状態は、日和見主義と労働運動の一般的な根本的利益との和解できない状態を強めずにはおかないような、経済的および政治的諸条件にある。……(p329)

  F帝国主義の資本主義一般にたいしてもつ歴史的地位。

……帝国主義はその経済的本質からすれば、独占資本主義である。帝国主義の歴史的地位は、すでにこのことによって規定されている。なぜなら自由競争を地盤として、しかもほかならぬ自由競争のなかから成長してくる独占は、資本主義制度からより高度な社会制度への過渡だからである。……(p345)

……独占資本主義の主要な現れの4つの種類

(1) 独占は、きわめて高度の発達段階にある生産の集積から生じた。
(2) 独占は、もっとも重要な原料資源の奪取の強化をもたらした。もっとも重要な原料資源の独占的占有は、大資本の勢力をおそろしく増大させ、カルテル化された産業とカルテル化されない産業との矛盾を劇化させた。
(3) 独占は銀行から生じた。銀行はひかえめな仲介的な企業から金融資本の独占者に転化した。
(4) 独占は植民政策から生じた。金融資本は植民政策の数多くの古い動機に、原料資源のための、資本輸出のための、勢力範囲のための、経済的領土一般のための、闘争をつけくわえた。

独占資本主義が資本主義のあらゆる矛盾をどれほど激化させたかは周知のところ。
独占・寡頭制・自由への志向にかわる支配への志向・ごく少数のもっとも富裕なあるいはもっとも強大な民族による、ますます多数の弱小民族に搾取。―これらすべてのことが帝国主義を寄生的なあるいは腐朽的しつつある資本主義として特徴づけさせる。……(p347)

……帝国主義の経済的な本質について以上に述べたすべてのことから、帝国主義は、過渡的な資本主義として、もっと正確にいえば、死滅しつつある資本主義として特徴付けられねばならない。       ……(p349)

 【2】レーニンの帝国主義論の歴史的位置

@ 1916年。つまり恐慌の勃発と帝国主義戦争の勃発をうけて、この事態が資本主義の現在から不可避的におきたものであることを明らかにする。

A また、帝国主義戦争にたいして、ヨーロッパ各国の社会民主主義やの多くがそれに賛成していった事態がどこから生じたのかを明らかにし、社会民主主義が帝国主義を擁護する日和見主義へと転化した必然性を明らかにする。

B 以上の作業により、以下のことを明らかにする。
(1) 独占の成立が資本主義のあらゆる矛盾を激化したこと。
(2) そのことにより大衆のいっそうの貧窮化と植民地支配の強化がなされたこと。
(3) 世界が資本主義的に分割され尽くし、各国の資本主義的発展の不均等性により、植民地再分割の戦争は不可避的であること。
(4) 資本主義が資本主義である以上この方向からの後戻りはありえず、「資本主義を死滅させる」ことなくしては、資本主義の矛盾の極度の爆発は人類史に破滅をもたらす事。

C したがって「資本主義を死滅させる」勢力=「共産主義勢力」の登場が不可避であることを明らかにしている。

D レーニンの帝国主義論は第一次帝国主義戦争の勃発の意味とそこから社会主義革命の不可避性を明らかにした点において、そしてまた社会主義革命がロシア一国にとどまり、ヨーロッパにおいては資本主義の復活がなされた以上、第二次帝国主義戦争の不可避性を明らかにする点において、その歴史的意味はある。

E しかし、なにゆえ社会主義革命がロシア一国にとどまりヨーロッパ主要国においては資本主義が復活したのかは、ここからは明らかにはならない。レーニンの帝国主義論の枠内で考えれば、「客観的情勢は社会主義にむけて成熟していたのに革命の主体的条件が成熟していなかった」と考えるしかない。

F 1920年代前半のレーニン指導下のコミンテルンの活動や、それ以後のトロツキーの左翼反対派・第4インターナショナルをめざす活動も、この認識の延長線上にあった。

G したがってトロツキーが第二次帝国主義戦争の勃発を前にして「帝国主義戦争を内乱へ!!」という第一次帝国主義戦争時のスローガンをもう一度掲げたのは必然である。

H そして事態はまたしても資本主義の復活、それも驚異的な発展と帝国主義諸国の国際協調という、レーニンの帝国主義論の枠内からでは予想外の事態になったのである。

I 2度にわたる社会主義勢力の敗北という事態を評価するためにはレーニンの帝国主義論の前提となる認識(帝国主義の定義の下線部分=「大衆の窮乏化」「各国・および1国内の産業の発展の不均等性」「植民地支配の不可避性」)を1920年代以降、とりわけ1950年代位後のアメリカ帝国主義のありかたとそれが世界帝国主義の延命と発展に寄与したありかたの実際にそって再検討する事が必要である。


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