グループ研究会 『アメリカ資本主義の今』第回研究会レジュメ

2013.7.27
文責:いしだ


現代アメリカの新しい労働組織とネットワーク

 

 

使用テキスト:遠藤公嗣 筒井美紀 山崎憲 共著『仕事と暮らしを取り戻す』(岩波書店)

 

日本の読者へ

 

 「本書が取り上げている組織は従来と異なる方法をとっています。これらの組織は職場から切り離された労働者を対象にしています。」

 

はじめに

 

 アメリカの貧困者は1990年代1.230万人、2000年代4.620万人

 第一章は、雇われて働く労働者すなわち雇用労働者の権利を守る労働者組織

 第二章は、労働者が雇われないで働き続ける組織。

 第三章は、労働者のスキルを身につけ仕事を探すための組織。

 第四章は、「ネットワーク」組織。

 

創意と工夫はなぜ必要か

 

1930年代のニューディール時代に形成されたアメリカの雇用社会システムが社会の変化によって現在では機能不全となったから。

ニューディール時代の雇用社会システムは、中心は力つよい労働組合が存在することであり、その労働組合が経営者と交渉して、労働組合員の労働条件と生活条件の改善を経営者に要求し実現すこと。=「ニューディール型労使関係システム」

労働組合の活動を奨励したのが1935年制定の「全国労働関係法」(ワグナー法)

雇い、雇われるということを軸に社会の安定を図る。

アメリカ経済の全般的繁栄と労働組合の要求実現が循環関係を形成するシステムであって、1960年代まで存続していた。成果は労働組合のない企業にも波及。

しかし1970年代以降は変調をきたし、1990年代には機能不全が明らかとなった。

その原因は、他国の工業化が進んでアメリカ国内の製造業が負けて衰退した、製造業に代わってサービス業が発展したこと。

企業の生き残り模索

完全雇用から国家競争力強化へ移行 

―→ 労働者保護法が薄められる。社会保険の事業主負担の軽減 

―→ 労働強化。長時間労働。

 ―→労働者の性別割合の変化。サービス業は自営業的な働き方、細切れ期間の雇用。これらの労働者が貧困大国アメリカの中心を占める。

 

第一章 権利をまもる

 

 新しい労働者組織の代表的なものとして「ワーカーセンター」

 特徴@中南米やアジアや中近東など、外国からアメリカへ移住してきた労働者をメンバーの中心にすること。

   Aコミュニティを基盤とする組織であること

   Bメンバーの権利擁護を主目的とし、生活支援を副目的とすること

   C経費のおもな財源は、民間財団と政府からの寄付金や補助金であること

   D法人格はNPO

   E多くの人々の認識では、労働組合とみなされてないこと

 活動@メンバーへの英語教育の提供

   A移民法、労働法、差別禁止法、労働災害補償など、メンバーへの労働者の権利擁護に関する法令教育の提供

   Bメンバーに対する経営者の各種法令違反を指摘して、その遵守を経営者に要求するキャンペーン

   C賃金未払や不当解雇などの法的救済について、メンバーの弁護士による法律扶助の提

    供

   D法律上でなく事実上の団体交渉の実行――多様な差別禁止諸法の活用で事実上の団交は可能。

 

 コミュニティの違いにより、地域ワーカーセンターと職業ワーカーセンターに分類

地域ワーカーセンター

英語教育に力を入れている――労働法などの権利教育

未払い賃金等に弁護士が代理人として交渉

職業ワーカーセンター

活動分野は労働組合に近い。

家事労働者、タクシー労働者、レストラン労働者

家事労働者とタクシー運転手はワグナー法の保護を受ける労働組合を結成できない。

家事労働者の職業ワーカーセンター

ほとんど移民労働者

メンバーへの教育プログラムの提供 小児科学、小児心理、コミュニケーション

雇用労働条件の明確化。

「家事労働者の権利章典」ニューヨーク州の家事労働者の最低限の労働条件を設定

タクシー労働者の職業ワーカーセンター

タクシー営業免許と車両を業者から借り受けた自営業者

1998年ストライキ

2004年、ニューヨーク市の担当部局と交渉して運転手の取り分を増加させた。

2007年にAFL―UIOニューヨーク市中央労働協会に加盟

2011年、全国タクシー労働者連合結成。AFL―UIOの加盟団体

レストラン労働者の職業ワーカーセンター

「職場の正義キャンペーン」――労働者にチップをちゃんと渡す

労働者の最低賃金を引き上げる。最賃の特別規定が適用

オーナーと労働者と市行政機関の三者間の協力を推進。

労働者の処遇についてのオーナーの法的義務の解説小冊子発行

「カラーズ」――労働者の訓練。修了者に就職あっせん

労働執行機関と連携――雇用主に警告。労働者に安心

労働組合と連携。労働者に有利な雇用契約

立法政策 ―→「賃金不払い防止法」州法草案作成

労働組合との連携

アメリカの新しい労働運動のオルガナイザーの女性化

ワーカーセンターは@若い学生インターンが多い、Aインターンにもスタッフにも女性が多い。女性比率は70%〜80%

日本で、カラバオの会はこのような活動をしていた。

 

第二章 雇われずに働く

 

非典型的労働者が病気になれない。保険に入れない

NPO「フリーランサーズ・ユニオン」

会員になって保険を買う

新相互扶助主義、「『私』ではなく『私たち』という意識に基づく相互依存の文化」

「社会問題の団体的解決」を作り上げる市場志向のモデル

「支払保護法」制定運動

これらのすべてを日本では全日土建等はすでに行っている。比べて真新しいものはない。

フリーランサーズはユニオンを結成して団体交渉を行っている。

 

第三章 スキルを身につけ仕事を探す

 

背景

1972年のオイルショックでアメリカ北部諸州は「ラスト(錆びついた)・ベルト」

市の財政破たん。工場の閉鎖や海外移転

―→大企業経営者中心に市の財政精査、大規模な支出削減

―→市の経済再生は大企業中心で進んだ。再開発が進んだ地域とそうでない地域との格差拡大。

―→3つのコミュニティ開発法人を立ち上げて中小企業の地域住民の雇用・訓練プロジェクトを展開

1986年、WIRENetWestside Industrial Retention Extension)「西地区における産業の維持と拡大に関するネットワーク」設立。

企業を地域で存続させ発展させるというアイディア。「地域で雇用を」

新規雇用者を企業のために見つける

低賃金層をターゲットに、労働者に職業訓練を実施し、身に着けたスキルを必要としている企業を探して結びつける。

そのための3つの指摘

労働組合は若者に手を差し伸べる対象にならない。

中小企業は政治、行政からは捕るに足りないプレーヤー

低賃金者と低賃金層のマッチング――2つの社会的弱者を結びつける。

「われわれ自身は、訓練を提供しているわけではなく、企業を集めて組織するというやり方をしているんだ。企業さんたちは、どんな訓練を欲しているのか、どんな労働者が必要か、我々に説明する。で、我々自身はコミュニティ・カレッジなどに働きかける。」

「この国の教育はひどいからねえ」

「教育は個別性が高い」

地域の中小企業が「互いに結び付けられれば、大きな価値が生じる」はずの「こうした企業を、我々が連携している技術高校のプログラムに関与させたいんだ。それでびっくりするくらいの専門性、知識、関係――ほら例のソーシャル・キャピタル(社会関係資本)ってやつだよ――になる」

具体的事業

風力発電装置

部品は輸入していた

 

アメリカのNPOは95%が5年以内につぶれる。

 

職業の相談・斡旋・訓練をワンストップで

1930年から職業斡旋系と職業訓練系の担当役所は別々

1998年の労働力投資法で実質上統一。

各州に公的職業訓練マネーが按分

SCMW(南部中央ミシガン・ワークス)の例。

職業紹介は代理機関が行う。

AFL―CIO系の職業訓練NPOも

労働力投資法は、少なくともその意図の上では社会正義を達成しようと試みている。

差別禁止規定と普遍的アウトリーチの義務規定 ←→ 日本

 

第4章 支え合う社会を復活させる

 

アメリカには社会正義と民主主義を守るという姿があった。

長い間、それをリードする1つの代表が労働組合。

しかし社会的影響力が低下

それに代わって1990年代から飛躍を続けているカギは組織が織りなすネットワーク

「権利擁護」「職業訓練・職業紹介」「社会保障と相互扶助」

活動基盤を地域コミュニティにおいている

さまざまな人の参加。人事交流――長期的視野に立つ人材育成。

一方の労働組合――人々の生活と離れてしまった。

ポール・オスターマンとマイケル・J・ピオリらの指摘するニューディール型雇用システムが継続する前提。

@労働条件が国際競争の影響を受けない

 A男性が稼ぎ頭であること

  B大半の労働者が長期にわたって安定的に大企業に雇用されること

  C経営者、管理職、非管理職の階層が明確なこと。

  D企業が賃金上昇や雇用保険、健康保険や年金などの社会保障を負担すること。

その前提が壊れた

労働組合の選択

経営側のパートナー

非典型労働者を取り込んでいく

もう一つ、労働運動以外の世界を取り込んでいく――社会運動ユニオニズム、オープンソースユニオン

しかしいずれも労働組合と企業の関係を基盤にしている

新しい労働組織――コミュニティ・オーガナイジング・モデル

アリンスキー 『市民運動の組織論』(1945年刊)

「単に工場経営者と抗争するだけではなく、政治、経済、社会問題、その他、労働者の生活にかかわるあらゆる要素や局面の問題を取り扱う」

住宅問題、食品問題、賃金や衛生の問題、児童福祉、都市行政など人間生活に係るあらゆることがら。

労働組合の限界「産業あるいは資本の安定化とその安全の確保に、組合のエネルギーと能力の大部分を振り向けることが労働組合の義務となっている」

「アメリカのラディカルは、労働組合組織と言うゆりかごの中にふかふかと眠りながら、おちつかず、寝返りを打っている」

ラディカルとは「抜本的改革者」

「労働組合というゆりかごから目覚めた者に期待」

社会運動ユニオニズムとコミュニティ・オーガナイジング・モデルが影響を与えた新しい労働組織

@企業内重視

A企業内を基盤として企業外を視野に入れる

B企業外を基盤として企業内を視野に入れる

C企業外重視

D中間支援組織

歴史を繙けば、教会と労働問題は近いところにいた。

 

まとめ

 

これがアメリカの労働運動の主流ではない。

労働とは。生活との関係についてそれぞれ捉え方が違う。

社会的に排除された者たちを救済する手法

スタッフ・オルガナイザー中心の組織

アメリカのNPOは95%が5年以内につぶれる現実。

その中で成功させている例は、財政、人材の獲得に成功。

政府からの財源で民営、それがNPO

ボランティア、カンパ

メンバーの生活、社会保障の底上げを実現

新しい組織、新しい運動! ?  結論は出ていない

 

アングロサクソンの運動 ←→ 大陸における失業者運動

政府の位置

社会正義の国民性

キリスト教の影響というよりは公民化運動の流れ

差別の捉え方――社会的に定着させられているの捉え方

カンパがステータス――ブルジョアの仲間入り

ボランティアと家事労働の無報酬の関係は

個人的には感動するものはない

 

《参考資料》『労働組合でない労働者権利擁護組織の発展:「ワーカーセンター」「メイク・ザ・ロード・ニューヨーク」「フリーランサーズ・ユニオン」の例』(社会政策学会第124回大会・2014年5月27日 駒澤大学での遠藤公嗣氏の発表論文の最終項目

9 日本との比較と示唆

 

 ニューディール時代に形成されたアメリカの雇用社会システムに匹敵するのが、日本的雇用慣行である。そして、日本的雇用慣行から「社会的排除」されている労働者もまた日本に存在する。そして、日本のこうした労働者の権利擁護の組織として、日本の条件の下で発展しているのが「個人加盟ユニオン」と「労働NPO」である。

 もちろん、日米の組織の間に、いくつか違いがある。

 

@ ワーカーセンターは労働組合ではないが、個人加盟ユニオンは労働組合である。そのため、個人加盟ユニオンは法律上の団体交渉・争議行為をおこなうことができる。日本の労働組合法は、アメリカの全国労働関係法よりも、はるかに労働組合に寛大で、労働者に有利である。〈日本が有利〉

 

A役員と職員について、アメリカの労働者組織では、若者とくに若い女性の参加が顕著であるが、日本の労働者組織では、若者も女性も参加は少ない。その理由は、

 

1: アメリカにはインターン制度など、若い社会活動家を育てる仕組みがある。それを財政面で支えるのは、財団などからの寄付金である。財団は多様であり、権利主張の労働者組織に寄付金を交付する財団は、多数ではないが少数でもない。日本には、これらはほとんどなく、それは若い社会活動家の少なさの一因となっている。<財団からの寄付がほとんど期待できない日本が不利だが、労働組合のスト積立金が活用できれば・・・・?>

 

2: ジェンダー意識について、差が大きい。アメリカでは、とくに若い女性のジェンダー意識が男女平等化していて、彼女らが権利擁護の活動へ参加することはふつうである。専業主婦志向(=企業社会志向である、に注意)を強める日本の若い女性は、彼女らの足下にも及ぶことができない。<日本の近頃の若い者は・・・>

 

3: 社会観が違う。アメリカの社会運動家?は、社会を三元論(国家/社会・市民社会・ビジネス界)で理解するらしく、市民社会はビジネス界から別個の社会である。労働者組織は市民社会の組織であるし、宗教もまた市民社会のものである。おそらく、この社会観によって、ビジネス界で形成された財団が、市民社会の組織である労働者組織を支援することが、ありえる事態になると思う。日本の社会観は、社会運動家はもちろん、行政司法も社会科学も二元論(国家/行政・市民社会)であって、市民社会がビジネス界からの区別がない。

日本人女性(男性でも可)の誰かが、ワーカーセンターで最初のインターンをつとめるか。窓口は開かれている(New Laborを遠藤は紹介可能である)。院生ならば、参与観察による博士論文の執筆を考えるべきである。

 

・個人加盟の労働組合は、企業内組合が放棄した権利擁護・獲得闘争をしているのであり、企業内組合の無能化を棚上げした個人加盟の労働組合の評価はない。

・「労働NPO」を無防備に評価していると労働組合法が破壊される危険性がある。


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