第一期アメリカ型資本主義の歴史的展開と総括」 の再開について


 

なぜ今、アメリカ資本主義の研究なのか

 

 20世紀初頭の2つの世界大戦を経て確立されたアメリカの覇権=パクス・アメリカーナが、深刻な危機に直面していることは今や誰の目にも明らかである。20世紀後半の一時代を築いた「アメリカ型資本主義」の没落は、誰も否定できない現実となった。

しかし半面で、その没落に取って代わるべき新たな社会の構想は、資本主義的再生であれ社会主義的変革であれ、ほとんど提唱されていない現実もある。なによりも社会主義的対案は、1991年のソ連邦崩壊によって被った打撃から今なお立ち直れていない。

だが思い返してみれば、資本主義の矛盾と没落に抗する社会主義的対案は、なによりも資本主義そのものの運動から生じる矛盾と混乱とを解明し、その矛盾を止揚しようと生起する多様な運動と社会的要素の中に次代を担う人間共同体の可能性を見つけ出そうとする、先人たちの研究と理論的探求を通じて形づくられてきたのではなかったか。

そしてあえて言えば戦後左翼運動とりわけ戦後日本の左翼運動は、「帝国主義の時代は資本主義最後の段階であり、社会主義の夜明けの時代である」と言う20世紀初頭のレーニン的時代認識を教条にして、半世紀におよぶ資本主義的繁栄を達成した「アメリカ型資本主義」の歴史的構造やその運動を、そしてそこから生じる矛盾や混乱を理解しようとする研究や努力をほとんど放棄してきたと言って過言ではない。

 というよりも資本主義を解明する研究や理論的探求はすでに尽くされ、残るのは革命的変革を達成する実践的理論と先駆的行動だけだとする慢心が、今日の左翼運動の混迷と沈滞とをもたらしたと言い換えてもいい。

 もちろん、私たちもこうした慢心と無縁だった訳ではない。戦後第4インターナショナル(以下:FI)の歴史が、それを物語っている。

アメリカの覇権を確立することになった20世紀初頭の2つの世界大戦は、トロツキーの理論に従えば「資本主義の死の苦悶」の産物であり、それは前述のレーニン的時代認識にも合致していた。ところがその第2次大戦が終わった1945年当時、FIはなお一握りのセクトでしかなかった。しかもその後の、いわゆる「戦後革命期」を通じて大衆的に強化されたのは、各国共産党や世界労連といったスターリニストの隊列と、中国革命やユーゴ革命に代表される「中間主義者」の隊列であった。

 この現実とFI創設の理論とのギャップを克服しようとしたのが、パブロ主義(1951年の第3回世界大会テーゼ)だった。だがその限界と誤謬とは1953年の「スターリンの死と平和共存の流れの台頭、6月の東ドイツの反官僚反乱とソ連軍による武力弾圧、そして8月のフランスにおけるゼネストの敗北とヨーロッパの戦後危機の終焉」という「新しい現実」によって破綻し、ヨーロッパと日本で高度経済成長がはじまった1960年代には、「『労働者は資本主義の下では不断に窮乏化せざるをない』という理論も、『植民地は資本主義の下では常に搾取され発展することはない』という理論も事実をもって覆され」【注1】たことで破産を宣告された。

 この事態は、レーニンの時代認識とトロツキーの展望を抜本的に見直す必要を改めて戦後トロツキスト運動に迫るものだった。もし戦後に革命的高揚がなかったとするなら、スターリニズムの発展はそれによって理解しうるかもしれない。だが、そうだとすれば資本主義の最後の段階という現代のレーニン主義的把握が問いなおされねばなるまい。」【注2】ということである。

 だが現実の戦後FIの運動は、パブロ主義の核心であった特異なロジック=「資本主義の歴史的衰退と革命的高揚の局面でスターリニスト党が強化されるという現実を、反帝国主義的大衆闘争が『とりあえず利用できる既成の党』に流入しこれを押し上げた結果であり、この現実を例外ではなく『唯一の正しいコース』として受け入れることで戦後第四インターナショナルの闘いが始まる」【注3】というロジックを継承することで、「『アメリカ型資本主義』の歴史的構造やその運動を、そしてそこから生じる矛盾や混乱を理解しようとする研究や努力」に着手する好機を取り逃がしたからである。

 私たちがいま、改めてアメリカ資本主義の歴史的形成過程を振り返り、その内的運動の特徴を捉え直し、あるいは社会的矛盾を乗り越えた多様な運動を分析することで、この経済・社会システムの強靭さと共に否応なしに直面せざるを得ない矛盾や混乱を再把握しようとするのは、最初に述べたようにこの体制が「深刻な危機に直面し」、その没落が「誰も否定できない現実となった」からに他ならない。

 その限りで私たちは、FIを含む戦後左翼運動が「取り逃がした」好機を積極的に掴み取るために、アメリカ型資本主義の研究に取り組むと言ってもいい。

 だがなによりもこの研究は、いま現実にアメリカ資本主義の中枢にむけて展開されているオキュパイ(ウォール街占拠運動)に代表される《反アメリカ型資本主義運動》のはらむ歴史的・客観的可能性を歴史的に検証し、あるいはアメリカ型資本主義の内部から生み出されその覇権の基盤ともなってきた国際金融システムの内的構造を分析することでアメリカ型資本主義が直面する危機と矛盾を正確に特長づけ、その内部で生成されるであろう次代を担う人間共同体の萌芽や運動を予見しようとする努力に他ならない。

 今回はじめるグループの研究会は、その意味ではまったくの端緒に過ぎないが、先ずはアメリカ資本主義研究の《第1期》として、別紙の日程で始めたい。

 

注【1】研究ノート:第3期まとめ:038

【2】湯浅赳夫著『トロツキズムの史的展開』:P197-198

【3】研究ノート:1研第2期・中間まとめ@:018

 

2012年10月

政治グループMELT:世話人会

 

●研究会の日程(別紙)

 

【第1回】12月8日(土曜日を予定、以下同じ)
       
テーマ《アメリカ資本主義の今》  *レポーター・佐々木
       
*テキスト・仲正昌樹著『アメリカ現代思想』NHKブックス(¥1200
               
 ・古矢旬著『ブッシュからオバマへ』岩波書店(¥2100

【第2回】2月(予定)
       
テーマ《アメリカ民主主義と格差社会アメリカ》 *レポーター・江藤
       
*テキスト・渡辺靖著『アメリカン・デモクラシーの逆襲』岩波新書(790
               
 ・堤未果著『貧困大国アメリカ』(
T)(U)
:岩波新書(¥730:750

【第3回】4月(予定)
       
テーマ《アメリカ資本主義の勃興と覇権国家への道》 *レポーター・須長
       
*テキスト・紀平英作著『歴史としての「アメリカの世紀」』岩波書店(¥3800
               
 ・猿谷要著『検証・アメリカ500年の物語』平凡社ライブ(¥
1360


【第4回】6月(予定)
       
テーマ《世界金融危機と機軸通貨・ドルの行く末》 *レポーター・寺岡
       
*テキスト・水野和夫著『超マクロ展望・世界経済の真実』集英社新書(¥750
               
 ・浜矩子著『ドルの終焉』ビジネス社(¥
1570

 

【第五回】8月(予定)

    テーマ《現代のアメリカ》

    テキスト

●以下のリストが、現代アメリカをテーマとした第5回目の研究会用に、須長さんが提案してきたテキストです。

  1の「分裂するアメリカ」と、2「99%の反乱」くらいは読んで討論ができればと思いますが・・・・。

 

1:渡辺将人「分裂するアメリカ」幻冬社新書 840円+税

2:山形浩生ら訳「99%の反乱 ウォール街占拠運動のとらえ方」バジリコ 1200円+税

3:久保文明ら著「ティーパーティ運動の研究ーアメリカ保守主義の変容」NTT出版 2800円+税

4:遠藤公嗣著「仕事と暮らしを取り戻す 社会正義のアメリカ」岩波書店 1800円+税

  4がアメリカ社会の根源的変化を分析したものです。前に江藤さんが紹介していましたね。労働情報最新号が

  これを要約して報告しています。


 

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