国労組合員採用差別事件の行政訴訟
東京地裁が不当判決
政府・労働省、JRは解決交渉に応じよ!

(インターナショナル90 98年6月号掲載)


 5月28日、東京地裁民事11部と19部は、国鉄の分割民営化にともなう不当労働行為=国労組合員の採用差別事件について、JRに改めて国労組合員の採用を命じた中央労働委員会命令を取り消すという、まったく不当な判決を相い次いで言い渡した。われわれはこの不当な判決に対して、沸き上がる怒りを抑え切れない。
 東京地裁による不当な判決は、国鉄の分割民営化とJRへの国鉄職員の採用をめぐって、国労組合員であることを理由にした採用差別という不当労働行為が行われたことを事実上認定し、かつ民事11部の判決では旧国鉄及び国鉄清算事業団の、民事19部のそれではJR各社にも不当労働行為の責任があるとしながら、その救済を命じた中労委命令は全面的に否定するというものであった。
 とくに民事11部の判決は、労働組合法7条に定められた組合所属を理由とする不利益扱いの禁止規定を無視し、さらには不当労働行為などの救済機関としてある労働委員会の存在意義をも無視して、ただただ国鉄改革法23条をより所に、国鉄とJRが別の法人であることだけを理由にして、JRに国労組合員の採用を命じた中労委命令を取り消すというものであった。つまり25兆円もの長期債務以外は経営陣の大半を含めて事業をそっくり引き継ぎ、事業内容すら全く変更のない事業体であっても、法律上の別法人にさえなってしまえば、労組法7条が禁止する不当労働行為の責任は新法人は問われないというもので、それは争議の解決に一貫して反対しつづけ、その後も国労組合員への不当労働行為を繰り返してきたJR東日本やJR総連の主張を全面的に擁護するものであり、同時に不当労働行為などの救済制度である労働委員会制度を根底から否定するだけでなく、労基法改悪策動として顕在化している労働法制の全面的改悪の先取り、とりわけ組織暴力対策法の制定と連動する労組法改悪策動の先取りとも言える悪辣なものである。
 「労働事件に関しては東京地裁最悪」と言われてきた民事11部の〃面目躍如〃とでも言うべきであろうか。
 もうひとつの民事19部の判決は、国鉄改革法23条と言えども、労組法7条の禁止規定を無効にすることはできないとの判断を明快に示し、司法判断としては初めてJR各社の不当労働行為責任を認めながら、労働委員会命令は採用手続きのやり直しにとどまるべきで、採用命令は行き過ぎであるとして11部と同様に中労委命令を取り消すという、実に歯切れの悪い、むしろ詭弁とでも呼ぶべき論法をもちいた判決であった。

解決を迫る闘いへ

 たしかに東京地裁は、共に中労委命令の取り消しという判決を下した。だが同時に判決理由の中では、分割民営化にともなう不当労働行為の存在を事実上認定し、その責任はJRが(19部判決)、そうではなくとも国鉄清算事業団すなわち政府・運輸省が(11部判決)負うべきであるとの判断も示した。さらにつけ加えれば、国労は今回取り消された中労委命令を拒否し、各地の地労委命令に従って1047名の元職復帰を要求して闘いつづけてきたのである。今回の判決は交渉による争議解決の出発点を、おそらくは金銭和解の水準に後退させようとする以外のなにものでもないが、それはまた解決内容を決する力の試し合いが、文字どおりの意味で正念場を向かえることを意味している。
 そうであれば階級的労働者は、高橋国労委員長の当日のコメントに示された「控訴等強い姿勢でのぞむ」態度を支持し、「政・労・使による話し合いによる解決を決断するよう強く求める」闘いを、闘争団をはじめとするすべての国労組合員とともに全力を挙げて継続し、その勝利の日まで闘い抜く決意を新たにするだけである。                                                    (6月6日)

【資 料】

東京地裁の判決に対する国労などの三者「声明」 (全文)

 本日、東京地方裁判所民事11部(萩尾保繁裁判長)と民事19部(高世三郎裁判長)は、国鉄の分割民営化の際に国労組合員がJRに採用されなかったことを不当労働行為であるとしてJR北海道、JR九州、JR東日本、JR西日本、JR東海、JR貨物などに対して公正な採用手続きの実施や採用などを命じた中央労働委員会命令の取り消しを求める行政訴訟(原告・JR各社、被告・中央労働委員会、被告補助参加人・国鉄労働組合)において、判決を言い渡した。19部の判決はJRの不当労働行為を認めたが、11部はこれを否定する判決を言い渡した。
 19部の判決は、改革法のもとにおいても、国鉄が名簿の作成において国労組合員を排除し、そのことを設立委員が認識し又は認識可能であったならば設立委員ひいてはJRが責任を負うべきものとし、「改革法23条によりJRが責任を負う余地はない」とするJRの主張に対しては、「改革法をもってしても労働組合法7条の規定の適用を排除することは許されない」としてこれを排斥した。(しかし、判決では、救済方法としては「採用手続きのやり直し」を命ずるべきであるとして命令を取り消した。)
 これに対し、11部の判決は、国鉄改革法全体の構造と国会審議の経過などを無視し、改革法23条を極めて形式的に解釈して、国鉄が作成した「名簿」に不当労働行為が存したとしても、その責任は国鉄(清算事業団)が負うべきものであり、JRには責任がないとしたものである。しかしこのような判断は、これまでの判例や労働委員会命令及び学説の流れを無視した極めて不当な判断であり、厳然として存在した史上空前ともいえる不当労働行為を免罪し、不当労働行為救済制度を否定するものである。我々は、このような不当な判決に強く抗議する。
 民事19部は、行政訴訟における司法判断としては初めてJRの不当労働行為責任を認め、他方、民事11部は不当労働行為の責任は国鉄(清算事業団)が負うべきものとした。11部の判決の不当性は別として、本日の2つの判決は、本件不当労働行為は、JRと清算事業団すなわち政府の責任において解決するべきことを司法の名において示したということができる。
 政府の責任については、本年4月14日の参議院本会議において、橋本首相自ら、「本件につきましては、来月末に裁判所の判決が予定されていると聞いております。政府としては、これが問題解決の契機になり得ると考えられることから、関係者の今後の対応を見守りながら、引き続き努力していきたいと考えている」と述べているところである。
 国労組合員について組合所属を理由とする差別的採用の不当労働行為が存在したことは多くの地労委、中労委命令によって明確に判断されている。その国労組合員が職場を奪われてから11年、清算事業団から解雇されてから8年が経過し、本人と家族の苦しみは一刻も放置できない状況であり、本件紛争が早期抜本的な解決が求められていることは疑いのないところである。
 我々は、政府とJRが、責任をもって本件紛争の解決に取り組むよう強く要求するとともに、早期抜本的な解決へ向けてさらに奮闘する決意である。            

                                                                     1998年5月28日

                                           国  鉄  労 働 組 合

                                           国  労  弁  護  団

                                           国鉄闘争中央支援共闘会議


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