政府・運輸省、JRに反撃する控訴審闘争の強化で
解決交渉の決断を政府にせまる社会的な国鉄支援戦線の形成へ


運輸省の「交渉条件」

 6月中旬、国労本部は各地方本部に向けて、運輸省が国労に示した「国労とJR各社の話し合い開始について」と題するメモと、これにこたえる形で国労本部がまとめた「国労とJR各社の話し合いの開始について」と題するメモを電送した。
 その内容は、運輸省が考える交渉の前提条件を「国労が了承することが必要がある」として、@JR各社に(不当労働行為の)法的責任はなく、不採用問題とは別の人道的観点からの解決策(新規採用)を話し合う、A政労使間ではなく(労使)当事者間で話し合う、B国労は適当な時期に国鉄改革関連の訴訟を取り下げる、CJRが話し合う相手は、各社に対応するエリア本部とする、の4項目が提示されたものであり、国労本部作成のメモも、「法的責任の有無はともかく」とか「解決策の合意が成立した場合」に訴訟を取り下げるとか、一部に曖昧な表現はあるもののほぼ同様の内容である。
 運輸省が提示した条件は、JR各社の不当労働行為責任をあらかじめ免罪し、政府・運輸省の行政責任を不問に付し、全国単一組織としての国労の機能をJR各社ごとへと分断し、はては労働委員会制度を否定した5・28判決への反撃でもある控訴の取り下げを要求するという、ほとんど一方的な武装解除の要求に他ならない。と同時に国労本部が、右派・チャレンジグループの圧力や揺さぶりに引き回された結果とはいえ、こうした要求を受け入れてまで「解決」を急ごうとしたことは、8月下旬に予定されている国労の定期大会を前に、闘争団が提出した解決要求の実現を真摯に追求する交渉団の形成や、闘争団を先頭とする現場からの大衆闘争の組織化といった主体的課題を改めて浮き彫りにした。
 闘争団と国労の現場組合員は、ただちに本部の真意を質すべく行動を起こしたが、こうした動きに慌てた運輸省がこのメモの存在そのものを全面的に否定したことによって、この運輸省の条件提示を口実に、全国大会前にも争議の幕引を強行し、JR連合と手を携えてJR各社との企業内労資協調に向かいたいという右派・チャレンジグループの思惑は、あえなく挫折することになった。
 しかしこの事件は、国労の3月臨時大会での改革法の承認と、5月の参院7会派による野中官房長官への要請、そしてこれを受けた官房長官の「解決に向けた努力」の表明によってはじまった解決にむけた政労資交渉という局面が、なお激しいつばぜり合いをともなう厳しい攻防の局面であること、つまり国鉄闘争10年余の成果を清算する全面屈服を容認するのでなければ、少なくとも右派・チャレンジグループが吹聴するような、単純な「早期解決への道」ではありえないことをも明らかにしたのである。

運輸省メモの背景

 運輸省が、このメモの存在を否定したところで、不当労働行為責任の免罪や控訴の取り下げといった要求が、JR各社から運輸省に強硬に伝えられていることはすでに周知の事実である。というのも国鉄改革法は、旧国鉄を法律上は消滅させることで不当労働行為責任を負うべき主体は存在しなくなったと強弁する道具であり、それは政府が、つまり当時の中曽根自民党政府と運輸省が作成し推進したのだから、その責任を問われるべきはJR各社ではないと不満を表明するのは、当然といえば当然だからである。
 しかも政府・運輸省は、このJR各社の強硬な主張に反論すべき言葉をもたない一方で、東京地裁で敗訴した中労委が、準備書面の段階から、その存亡をかけて全面的な反論を展開している5・28判決をめぐる控訴審闘争が、連合をふくむ主要な労働組合全国組織の重大な関心の的になりはじめていることを見過ごすこともできない。連合労組官僚の利害にも関わる労働委員会制度を事実上否定した5・28判決をめぐる控訴審の攻防は、国労を社会的に孤立させる包囲網の重要な一環である連合の動揺、つまり国鉄闘争に対する不協和音として波及しかねないからである。その意味で不当労働行為責任の棚上げと5・28判決に対する控訴取り下げの要求が、運輸省の本音であることに疑いの余地はない。
 こうしたジレンマはもちろん自民党も同様であり、たとえ政府官房長官が、参院7会派に対する「解決努力」の表明にそって、採用差別事件の解決を運輸官僚に命じたところでただちに解消するわけではない。その意味で現状は、解決交渉にむけた突破口は切り開かれたものの、当事者能力をもつ政府・運輸省と国労という二つの主体の再編をすらはらんだ、ある種の膠着状態にあると言える。
 そしてこの膠着状態から最大限の利益を引き出そうと画策しているのが、国労に対する国家的不当労働行為を支持し、だからまた国労との解決交渉に最も強く反対しているJR東日本の労資、すなわち住田・花崎体制のJR東日本とJR総連なのである。
 彼らは、5・28判決での中労委・国労側の敗訴以降、右派・チャレンジグループを中心に台頭した国労内部の敗北主義的傾向と、これに振り回される国労本部の無方針状態を見るにおよんで、国労の内部的混乱による組織分裂や瓦解に期待をかけ、解決交渉の引き延ばしに全力を傾けているという。解決交渉の進展がなければ、国労はほどなく内部的混乱のために組織的に瓦解するであろうというのがその願望である。
 だがこうした彼らの願望は、闘争団を先頭にした国家的不当労働行為との対峙によって培われた国労組合員の、とくに現場労働者の強靭さの過少評価によって裏切られることになるだけでなく、国労自身の闘争体制の再構築に必要な時間的猶予を、解決交渉の引き延ばしによって与えるという皮肉な結果をもたらすことになるだろう。

関東四地本の座り込み闘争

 5月25日から1カ月にわたって、国労の東京、千葉、高崎、水戸の関東四地本は、「組合員ひとり一回参加」を呼びかけて、運輸省前や国会前で、闘争団の要求を実現する解決交渉の早期実現を要求する座り込み行動を展開した。この座り込み行動への組合員の参加は四地本でほぼ9割に達し、もちろん一人で数回の参加という積極的な動きを含めて、国労本務組合員を主体とした大衆行動としては久々の高揚を示したのである。
 この関東四地本の大衆行動の成功裏の展開と、他方の右派・チャレンジグループの敗北主義的画策の挫折、そしてこれに振り回される国労本部というギャップは、採用差別事件の解決にむけた政労資交渉という局面を、いわば「戦闘を継続しつつ行う和平交渉」として認識しうるか否かのギャップにほかならず、闘争団という闘争主体が築き上げた長期闘争体制に込められた強靭さについての、国労本部の認識不足にもとづくものであろう。
 それはまた5・28判決での敗北にもかかわらず、87年の分割民営化当時は一顧だにされなかった国労の要求、すなわち採用差別事件の「解決」が、どのような名目にしろ、解決が必要な社会的問題であることを政府・運輸省も認めざるをえなくなっているという現実を、いかに評価できるかのギャップでもある。国家的不当労働行為との10年余におよぶの対峙は、ついに国労解体という国家意志を挫きはじめたのであり、この相互関係の変化こそが、JR連合やJR東海・西日本をして、国労のだきこみを画策させるに至った国鉄闘争の現在の到達点なのである。
 関東四地本の座り込み行動の成功裏の展開と、前述した右派・チャレンジグループの思惑の挫折は、みごとなまでの明暗をともなってこの核心的問題を突き出したのである。こうして国労本部は、8月1日から10日までの首都圏行動を、全国各地本からの代表動員を含めて実施することを決定し、ようやく反撃の体制をとることになった。

控訴審闘争の意義

 政労資による解決交渉の局面は、文字通りはじまったばかりである。しかもその実情は、政府・運輸省が、JR各社とりわけ国労との交渉に強く反対する東日本とJR総連の抵抗にあって、解決交渉そのものの準備にすら着手できないでいる状況にあると言って過言ではないだろう。われわれも繰り返し指摘してきたように、分割民営化の破産を象徴する三島会社とJR貨物の構造的赤字問題を解消する「国鉄改革」の抜本的見直し、東日本経営陣とJR総連の癒着体制の清算、そして採用差別事件をめぐる国労との解決交渉は、なおワンセットの問題として政府・運輸省に突きつけられつづけている。
 つまり運輸省が次々と新しいハードルを持ち出し、正規の交渉開始時期を曖昧にして事前折衝で時間稼ぎをしているのは、何らかの政治決着に向けた国労への圧力ではなく、手詰まり状況にある行政官僚としてのジレンマを、交渉相手である国労に悟られまいとする常套手段と理解する方が正確だろう。しかしまたそうであればこそ運輸省は、「国労の混迷と組織的瓦解」という東日本とJR総連の願望に、彼らと同様の期待を寄せて国労への揺さぶりに手を貸すことになる。
 したがって闘争団の要求を真剣に実現しようとする階級的労働者は、こうした運輸省の淡い期待を打ち砕く大衆的闘い、とりわけ彼らがことあるごとに要求することで、その影響を最も恐れていることを自己暴露している国鉄改革法をめぐる控訴審闘争を通じて、中労委による全面的な反証をも積極的に活用しつつ、5・28判決の破棄を求める社会的運動を組織することが求められよう。労働委員会制度を事実上否定する東京地裁の5・28判決は、ひとり国労の問題なのではなく、労基法、職安法、派遣法の改悪、そして労働組合をも対象とする組織犯罪対策法制の柱となる盗聴法案の国会提出など、一連の国家社会再編の動きと連動するものであり、だからこれに反撃する中労委・国労の控訴審闘争は、国鉄闘争を支援する新たな社会的戦線の形成に大きく寄与する可能性をもつのである。
 関東四地本の座り込みに象徴される国労自身の大衆運動や、改革法をめぐる控訴審闘争への取り組みの強化、そしてこの控訴審闘争を通じた新たな国鉄支援戦線による社会的包囲網の形成こそが、政府・自民党に解決交渉に向けた政治的決断を強いることができるのであり、その政治決断を運輸官僚に履行させることによって、解決のための政労資交渉は、はじめて解決内容の話し合いにはいることができるのである。

 (きうち・たかし)


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