8月続開臨大を中止させよう!
安全輸送脅かす民営化の破綻と闘争団の分裂画策する官僚主義


闘争団を分裂させる意図

 国労本部は、「4党合意」の承認をめぐって休会となった臨時全国大会の続開大会を、8月26日、同じ会場の社会文化会館で開催することを決定した。
 国労本部の宮坂書記長は、まだ続開日程が未定の段階で日本労働研究機構発行の「週刊労働ニュース」(7月24日号)のインタビューに答え、「臨大で『JRに法的責任がない』ことを認めることはどんな解決案でも受け入れなければならないということではない。そこに誤解が生じている」との見解を示していたが、続開臨大の決定に際しては、闘争団・家族との話し合いを行い、続開臨大までに闘争団の理解が得られるよう努力すると表明したという。
 7月1日の臨大で闘争団・家族の怒りに直面するまで、争議の当事者である闘争団・家族の理解を得るための話し合いの重要性にすら気がつかなかった、離籍専従(会社の籍が無くなった組合専従役員)ならではの鈍感さには呆れるばかりだが、「闘争団・家族との話し合い」や「理解を得る努力」といった宮坂書記長の表明には、なお4党合意の承認を続開臨大で強行しようという意図が、言わずもがなに示されている。
 なぜなら、宮坂書記長の「闘争団の理解を得る努力」は、必ずしも闘争団・家族の理解と納得を前提に続開臨大を開くことを意味しないだけでなく、むしろ4党合意の承認をめぐって、14年におよぶ闘争過程ではじめて表面化した闘争団全国連絡会の意見の対立を拡大し固定化しようとする、争議主体解体の意図が隠されているからである。
 証拠がある。具体的に言えば4党合意推進派である右派・チャレンジグループの国労幹部たちが、臨大での闘争団・家族の行動を口実に、闘争団による物資販売への非協力や支援カンパの差し止めといった脅しを公然と口にし、闘争団が自活のために運営する事業体から出資金を引き上げるという卑劣な脅しで圧力を加えた幹部さえいる事実である。それは闘争団の自活体制に打撃を与えるために、組合員の金品を自分の私有物であるかのように使って闘争団を脅迫するという、二重に卑劣な行為である。と同時にそれは、4党合意による「解決」が、闘争団の切り捨てによる争議の収拾であることを、この幹部たちが自己暴露したということでもある。
 この右派・チャレンジグループに支えられて本部書記長の職にある宮坂が、彼ら卑劣な幹部たちとは違って闘争団・家族の「良き理解者」であることはあり得ない。したがって宮坂が、闘争団の理解を得るための努力や話し合いで意図しているのは、こうした幹部たちの闘争団に対する脅しや圧力を国労本部として追認し、4党合意に反対する闘争団を切り崩すでこと以外ではありえない。国鉄闘争の過程ではじめて表面化した闘争団全国連絡会内部の意見対立を拡大し、それを闘争団の公然たる分裂にまで推し進め、闘争団の過半数を4党合意の承認に合意させてしまいさえすれば、「形式的に組合が4党合意を認めても、過半数の闘争団が闘い続けるようなら本当に解決したといえるのか」(『エコノミスト』7/18)という、運輸省幹部の要求にも応えることができる。これが、チャレンジグループと宮坂の、そして革同右派と上村の本音であることは疑いない。
 自らは闘争団と組合員に、本部に絶対服従する「総団結」を強要する一方で、争議主体である闘争団の分裂を画策する国労幹部の姿勢は、文字通りの意味で労働組合官僚主義そのものである。

自己決定を貫くために

 国労闘争団が、自らの納得できる解決に到達するための当面する最大の障害が、この労働組合官僚主義である。
 もちろん労働組合官僚主義は、いまの国労に突然現れた現象ではない。それは労働組合が社会制度として合法化される度合いに応じて、つまり資本主義がその経済的発展を土台に労働者の諸組織を体制内に包摂する度合いに応じて、代議制議会という代行制度と手を携えて発展してきた。日本の戦後労働運動の現実に即して言えば、総評・社会党ブロックと呼ばれたシステムの中で発展してきた現象であり、それは連合傘下の組合のみならず、なお多くの労働組合の中に広く見られる現象にほかならない。
 その意味で、国労幹部に請われるままに運輸省の〃使い走り〃を引き受け、争議の実態も闘争団の実情も知らずに政党間の取引を代行しようとした社民党議員と、「政治の場での解決」と言えば、こうした代行主義者たちの議会内の根回しに依存することしか考えつかない国労幹部たちの官僚主義が結びついた4党合意とは、総評・社会党ブロック以来の伝統的な手法でもあった。
 だがそうであれば、メダルの表裏である代行主義と官僚主義による争議主体の解体策動を越えて、労働者の人権回復のために不当労働行為責任を追及する闘争を継続しようとする階級的労働者は、総評・社会党ブロックという労働組合官僚主義と代行主義の結合を正当化した理論、つまり向坂教授が「職場における長期抵抗」と「社会主義政党としての日本社会党」として定式化した協会派理論の限界を自覚する必要に迫られるだろう。なぜならこの労働組合官僚主義は、かつてチャレンジグループが登場したとき、その企業社会に舞い戻る労働組合運動の展望を真正面から批判するのではなく、むしろ労働組合官僚主義と同様の方法で彼らの策動を押さえ込んだことに示されたように、国労左派の中にも残ってもいる、長期にわたって蓄積された主体的弱点でもあるからである。
 そしてこうした限界を克服するための客観的基盤は、「国鉄一家」と呼ばれた狭い企業社会から切り捨てられたことで、逆に自ら地域や全国の支援勢力と結びつき、そうした新たなより広い基盤に依拠することで長期争議を闘い抜いてきた、国労闘争団の経験を通じた変化の中に秘められている。

安全脅かす民営化の破綻

 この国労闘争団の自立的闘争と、その経験を媒介にした「国鉄一家」からの意識転換は、実は代行主義と労働組合官僚主義にとっての最大の誤算であったし、政府・運輸省とJR各社にとっては、争議解決後の国労による労働攻勢という不安をかきたてる、真の理由にほかならない。
 ではチャレンジグループと革同右派の低水準の「政治決着」に代わる、解決局面を勝利的に闘いうる国鉄闘争の現実的な展望はあるのだろうか。
 もちろんある。それは端的に言えば、国鉄分割民営化の破綻が、あの長期債務の決着問題以上に民衆に身近な、鉄道輸送の安全性という誰の目にも明らかな問題として、早ければ2〜3年のうちにも暴露される深刻な事態にJRが直面している現実である。
 月刊『世界』6月号に、日本のコンクリート建造物の権威である小林一輔・千葉工大学教授の「山陽新幹線の惨状はなぜ生じたか」と題する論文が掲載された。それは山陽新幹線で続発したコンクリート崩落事故の調査にもとづいて「塩化物腐食、アルカリ骨材反応、施工不良という三つの要因による複合劣化が進行している構造物は世界でも例がない」(同書)と断じた衝撃的なものである。山陽新幹線の極めて危険な状態については省略するが、要するに山陽新幹線は、建設費にも匹敵する膨大な資金を要する抜本的な改修工事をしなければ、恐るべき大事故の発生が不可避だという切迫した警告である。
 問題の第1は、営利目的の民間会社となっているJRが、巨額の費用を負担して改修工事をするのは可能なのかの問題がある。だから第2は、全国に広がる公共交通網に求められる安全性と利便性の確保は、分割された民営会社システムによって可能なのかという問題がある。そして第3は、この山陽新幹線の問題が、三島会社とJR貨物の構造的赤字による経営難と、これと連動して進行する全国鉄道網の荒廃や安全性の低下と共通する、国鉄の分割民営化政策の破綻を象徴していることである。
 だが運輸省とJRはこの事実を隠しつづける一方で、運輸政策審議会では分割民営化政策を事実上見直し、ドイツ国営鉄道の民営化で採用された上下分離方式(路線整備は公的負担、運行は民間会社)への転換を検討しはじめ、全国一社制に戻すことで構造赤字の主要な原因でもある地方の生活路線の補完も検討しているという。なんのことはない、国労が分割民営化政策を批判し対案として提示してきたことが、いまや運輸省でも検討の対象にせざるを得なくなったのである。しかも時間は限られ、ことは高速鉄道事故という多数の人命にかかわる重大事である。そして当然のことだが、この人命の中には必ず乗務員としての労働者、つまりJRの各労働組合員が含まれるのである。
 分割民営化の破綻は、いまや多数の人命を犠牲にする瀬戸際にまで深刻化している。しかしだからこそ運輸省とJRは、多数のJR利用者と国労・全動労が連帯し、公共交通の安全輸送の要求を掲げ、その確保のために労働者の人権侵害の是正を求める、そうした国鉄闘争の新たな発展を恐れる理由がある。そして企業社会から切り捨てられ、地域と全国で多くの支援戦線との連帯を生み出してきた国労闘争団の闘いは、こうした新たな国鉄闘争の要にほかならない。運輸省とJRが、国労闘争団の解体に血道を上げるのは、まさにそのためである。

 

社民党と全労協の大会

 休会となった臨大以降、新たな局面に対応するイニシアチブとして結成された「4党合意NO!働く者の人権は譲らない行動ネットワーク」準備会は、まず7月29日の社民党大会に向けて、4党合意の見直しを求める行動を展開した。議員会館前と社民党本部前での座り込みとハンストを行いながら、闘争団家族が土井党首に直接面会して要請を行うなど、「護憲と人権の党・社民党」が、人権蹂躙の4党合意を見直すべきだとの要請は、社民党大会の中でも幾人かの代議員から4党合意の見直しを求める意見が出され、土井党首も大会のあいさつで「出来る限りの誠意をつくしたい」と述べるなど、社民党内にも一定の共感をつくりだした。
 さらに全国各地でも、緊急製作されたビデオ「7・1臨大ドキュメント−闘争団・家族の熱い一日」を上映し、「JRに法的責任がないことを認める」4党合意を批判し、闘争団の意志を無視した「解決」に反対する集会が次々と開催されるなど、国労闘争団を包み込み、続開臨大の強行を阻止しようとする闘いが精力的に展開された。
 そうした状況の中で、7月26日には全労連の定期大会が開幕したが、旧全動労を含む建設交通労働者の組合である建交労や特殊法人労連の代議員を中心に4党合意を批判する意見がだされ、建交労の代議員は「労働委員会命令とILO勧告にもとづく立場で闘い抜く」と表明、坂内事務局長も中間答弁で、国鉄闘争についての「全労連の方針はいささかも変わっていない」と強調したが、4党合意反対は、「国労に対して出されたもので、全労連が態度表明するのはふさわしくない」と、ついに明確にはしなかったという。
 そして7月31日、いよいよ全労協の大会が開かれ、国鉄闘争をめぐる緊迫した論議が行われた。冒頭、国労本部書記長の宮坂代議員が4党合意と臨大について発言したのに対して、発言に立ったすべての代議員が4党合意に反対を表明し、他の国労代議員からも「臨大には具体的解決案を出すと言いながら何も示さず、採決を強行しようとしたから混乱した。8月26日の臨大は中止すべき」との発言があった。さらに数人の代議員からは、「全労協としてどんな見解をもつのか明確にすべき」との発言があり、大会2日目の朝から常任幹事会が開かれ、(1)大会の内容と全労協の要請を国労本部に伝える、(2)JRに法的責任があることは明確である、(3)闘争団と充分に協議し合意を形成して、(臨大を)開催してほしい、(4)団結と統一を守り抜く大会にしてほしいの4点を集約した。
 さらに2日目の議論でも、闘争団との合意がなければ臨大は中止になるのかとか、国労本部への申し入れと共に社民党への申し入れもするべきだとの意見があり、子島事務局長は、(1)社民党への申し入れは検討する、(2)闘争団との合意形成を前提として(国労本部には)申し入れをすると集約、「8月臨大がどなるかは表現が難しいが、その意味するところを酌みとってほしい」と述べて、ようやく了承された。子島事務局長の最後の答弁は、単産単組の自決の原則があるので、全労協としては「臨大を中止しろ」とは表明できないが、国労本部への申し入れではその意向を伝えることを含意しているであろう。

 7月1日の臨時大会で、争議当事者であり不当労働行為の直接の被害者である闘争団・家族の自己決定権を押し出した懸命の闘いを通じて、4党合意反対、当事者の納得のいく解決を、闘争団の意志を無視した続開臨大を中止せよの闘いは、全国各地で、あるいは総評解体に抗して闘い続けてきた多くの労働組合の中に、新たな共感を広げ始めた。
 4党合意の承認を推進する国労本部多数派とチャレンジグループ、革同右派は、あたりまえの労働組合と運動の戦線では完全に孤立することになった。
 にもかかわらず、運輸省、JR各社そしてJR総連は、闘争団の切り捨てを条件とした「労使正常化」や「JR労組の統合」で国労本部に圧力を加え、4党合意の承認を臨大で強行するよう要求しつづけるだろ。なぜなら山陽新幹線問題にしろILO最終勧告にしろ、次の局面で窮地に陥るのは彼ら自身だからである。その意味で「今しか解決のチャンスはない」のは彼らにとっての有利な解決であり、焦りはむしろ敵の側にある。
 8月臨大を中止させ、4党合意を白紙に戻し、国労59回大会の「鉄道交通政策提言」の先進性を再認識し、各労働委員会命令とILO中間勧告の立場で不当労働行為責任を追及し、政府・運輸省に解決交渉の設置を断固として要求する新執行部を定期大会で選出することが、勝利の可能性を確実なものにするのである。

(きうち・たかし)


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