【寄稿】浦和集会によせて

−日本でもはじまったイラク反戦運動のうねり−

普通の個人が自覚的に動き始めた

インターナショナル133号(2003年3月号)掲載


 昨年10月、「アメリカのイラク攻撃」の意図が明らかになってすぐ、「大規模な反戦集会」をめざして市民団体とNPO・NGOが準備し開催されたのが1月18日の日比谷集会であった。「1・18 WORLD PEACE NOW」には日比谷野音を満杯にする7000人が集まり、運営のぎこちなさはあったが、「はじまり」を予感させるには充分な集会であった。
 それでもニュースステーション久米宏が、「欧米では10万人規模、日本は何で少ないのか」と指摘する規模にはちがいない。「WORLD PEACE NOW」は、準備期間を考えて次回開催を3月8日に決定した。
 いくつかの団体・個人は、次回までの中間時点であり世界の反戦運動の統一行動日でもある2月15日、宮下公園での集会開催を決定して「300人のデモ」を申請した。
 その「2・15」の宣伝も兼ねて、2月2日に同じ宮下公園での集会・デモを二人のインターネット活動家が提案する。一週間の、ネットだけの宣伝で、50人の予想を超える160人が集まった。
 「この勢いなら、2・15は三桁は超えそう」が、当日の感想だった。

▼2・15は「信じられない」5000人

 当日の宮下公園は、立錐の余地もない。横の歩道や歩道橋も人でいっぱい。主催者も警察もどうしたらいいのかわからない。
 しかし渋谷一周のデモは、整然とかつにぎやかに行われ、多く人々の注目を集めた。
 デモの先頭がコースを回って宮下公園に戻って来ても、公園ではまだデモの出発がつづいていた。確実に、人々が自主的にうごき始めたことを実感する一日であった。

 この日、世界では1000万人の人々が「イラク反戦」のデモに参加した。そして日本のマスコミも、「イラク反戦運動」をようやく報道し始めた。
 日経新聞は「ネットが盛り上げた史上最大のデモ」。朝日新聞は「渋谷でもイラク攻撃に反対するパレードに5000人参加」。
 埼玉県の浦和でのイラク反戦集会は、こんな驚きと興奮の中で準備された。

▼「3・2イラク反戦in埼玉」に500人

 世界での、そして東京での感動を持ち帰った数人によって、「埼玉でもやろう!」ということになり、3月2日の行動がいろいろな団体・個人に呼びかけられた。準備期間は、10日余りしかないが。
 3月2日午後2時からの集会だが、私は知人たちとの打ち合わせもあって、1時前には浦和駅前に着いた。すでにいくつかのグループが、「イラク反戦」の宣伝をしている。100人以上のにぎやかな集まりに、「時間を間違えて遅刻してしまったのか」と一瞬とひやりとした。この日はそれに始まって、驚きと感動の連続だった。
 午後2時。リレートーク開始。
 朝、トルコの国会で「米軍の駐留提案・否決」のニュースが流れていた。司会からも、「トルコの国民、世界の人々と共に、アメリカのイラク攻撃をやめさせましょう。『殺すな!』の声を大きくしていきましょう。」と呼びかけられる。
 それから1時間、約20のグループ・個人の発言があった。県内各地で「イラク反戦・有事法制反対」の活動をしてきた団体の報告。埼玉県内の65人の議員で「イラク戦争反対声明」を県知事に提出したことを報告した山下修子・入間市議は、土屋知事自身も「平和的解決を首相に伝える」と語ったと報告。アメリカの反戦デモに参加してきた学生の報告。埼玉新聞の記者は、「イラク反戦」の意見広告の賛同を訴えた。
 はじめて政治的な集会とデモに参加した人たちの発言もいくつかあり、大きな拍手が沸いた。おやこ劇場のお母さん。学習塾の若い講師たち。「区名変更住民投票」の活動をしている元保守系市議。さらに共産党系、社民党系の人の発言もあった。途中で、JRから「乗客の通路を開けるように」という注意もあるほど、駅前広場は参加者に完全に埋め尽くされた。
 午後3時。ぬいぐるみやさまざまなふん装した「おやこ劇場」の人たちを先頭に、二つのバンド、真ん中にはプロの「ちんどん屋」さんを配して、にぎやかにデモ出発。ここでも、今まであまり考えられなかった乳母車を押す人、自転車を引いて歩く人、犬を連れている人もいる。そして翌日の新聞記事に「誰でもはいれますというアナウンスがあったので」参加したという人のインタビューに載ったように、少なくない人がその場でパレードに加わってくれた。
 最終的な参加者は500人に達した。この日も実行委員の予想は200人だった。

▼そして「3・8 WORLD PEACE NOW」 −日比谷公園には4万人が−

 野外音楽堂に入れなかった人々の方が圧倒的に多いという大結集だった。
 所属団体の旗やノボリのない、個人参加の人々が延々とつづくデモであった。マスコミの報道も驚きが現れていた。
 東京新聞は「増殖する反戦デビュー。自分の意志と発見で、4万人デモの潜在力」。
 毎日新聞は「反戦集会に『普通のおばさん』も。東京から訴え」。
 新しい感覚の、ユニークで想像力あふれる行動も始まった。
「安保理中間派・激励ピースウォーク 6カ国大使館周り」。ジョン・レノンのベッドインならぬ「国会前での布団イン」。「パンは剣よりも強い!ピースマークのパンで反戦訴え」(東京新聞)。「スケボーに乗って若者ら反戦デモ。大阪市」(毎日大阪)。
 全国各地でも、地方都市だけでなく小さな町や村からも、少人数(1人〜5人)のピースウオークが始まっている。ネットやメールで励ましあいながら。

  (おおさわ・りょうじ)


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