戦争は、敵も味方も殺し、心身を長期に破壊する

(インターナショナル第221号:2015年7月号掲載)


声明書

戦争は、防衛を名目に始まる。

戦争は、兵器産業に富をもたらす。

戦争は、すぐに制御が効かなくなる。

戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。

戦争は、兵士だけでなく、老人や子どもにも災いをもたらす。

戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。

精神は、操作の対象物ではない。

生命は、誰かの持ち駒ではない。

海は、基地に押しつぶされてはならない。

空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。

血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、

知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。



自由と平和のための京大有志の会

 

 声明は今、安倍政権が推し進める「戦争法案」実現に対置するようにツイッターなどで世界中に広められている。
 「戦争法案」は憲法学者が憲法から逸脱していると解釈しているから違憲なのではない。人が人を殺し、人が殺される行為は許されないからである。声明はそのことを訴えている。
 声明の中の「戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。」について探ってみる。


▽自殺と派遣は強く関連している


▼自衛隊は実態を隠している

 民主党の阿部知子衆議院議員は、5月28日付で内閣に「自衛隊員の自殺、殉職等に関する質問主意書」を提出し、6月5日に「回答書」を受領した。

質問
一 平成15年度から平成26年度の各年度における自衛隊員の自殺者数について、以下の分類により示した上で、政府として自衛隊の任務及び訓練等の特性と自殺との因果関係等自衛隊員の自殺を巡る状況について如何なる分析をし、評価をしているか答えられたい。
@陸上自衛官、海上自衛官、航空自衛官及び事務官等の別
A年齢階層の別
B階級の別
C自殺原因の別かつ陸上自衛官、海上自衛官、航空自衛官及び事務官等の別

回答
 平成15年度から平成26年度までの各年度における自衛隊員の自殺者数について、@陸上自衛官、A海上自衛官、B航空自衛官及びC事務官等 (防衛省の事務次官、防衛審議官、書記官、部員、事務官、技官及び教官をいう。以下同じ。) の別にお示しすると、次のとおりである。

平成15年度 @48人 A17人 B10人 C 6人 (計 81人)
平成16年度 @64人 A16人 B14人 C 6人 ( 100人)
平成17年度 @64人 A15人 B14人 C 8人 ( 101人)
平成18年度 @65人 A19人 B 9人 C 8人 ( 101人)
平成19年度 @48人 A23人 B12人 C 6人 (  89人)
平成20年度 @51人 A16人 B 9人 C 7人 (  83人)
平成21年度 @53人 A15人 B12人 C 6人 (  86人)
平成22年度 @55人 A10人 B12人 C 6人 (  83人)
平成23年度 @49人 A14人 B15人 C 8人 (  86人)
平成24年度 @52人 A 7人 B20人 C 4人 (  83人)
平成25年度 @47人 A16人 B13人 C 6人 (  82人)
平成26年度 @43人 A12人 B11人 C 3人 (  69人)

 平成15年度から平成26年度までの各年度における自衛隊員の自殺者数について、@陸将、海将、空将、陸将補、海将補又は空将補の階級にあった自衛官、A一等陸佐、一等海佐、一等空佐、二等陸佐、二等海佐、二等空佐、三等陸佐、三等海佐又は三等空佐の階級にあった自衛官、B一等陸尉、一等海尉、一等空尉、二等陸尉、二等海尉、二等空尉、三等陸尉、三等海尉又は三等空尉の階級にあった自衛官、C准陸尉、准海尉、准空尉、陸曹長、海曹長、空曹長、一等陸曹、一等海曹、一等空曹、二等陸曹、二等海曹、二等空曹、三等陸曹、三等海曹又は三等空曹の階級にあった自衛官及びD陸士長、海士長、空士長、一等陸士、一等海士、一等空士、二等陸士、二等海士又は二等空士の階級にあった自衛官の階級の別並びにE事務官等の別にお示しすると、次のとおりである。

平成15年度 @0人 A3人 B 6人 C54人 D12人 E6人
平成16年度 @0人 A3人 B11人 C69人 D11人 E6人
平成17年度 @0人 A7人 B 8人 C65人 D13人 E8人
平成18年度 @0人 A8人 B 6人 C65人 D14人 E8人
平成19年度 @0人 A1人 B13人 C51人 D18人 E6人
平成20年度 @0人 A3人 B 7人 C54人 D12人 E7人
平成21年度 @0人 A4人 B 9人 C54人 D13人 E6人
平成22年度 @0人 A5人 B14人 C45人 D13人 E6人
平成23年度 @0人 A8人 B13人 C41人 D16人 E8人
平成24年度 @0人 A1人 B10人 C49人 D19人 E4人
平成25年度 @0人 A4人 B13人 C45人 D14人 E6人
平成26年度 @1人 A9人 B 8人 C38人 D10人 E3人

平成15年度から平成26年度までの各年度における自衛隊員の自殺者数について、@病苦、A借財、B家庭、C職務、D精神疾患等、Eその他及びF不明の自殺の原因の別にお示しすると、次のとおりである。

平成15年度 @6人 A19人 B 4人 C 6人 D17人 E 6人 F23人
平成16年度 @3人 A24人 B11人 C10人 D26人 E 7人 F19人
平成17年度 @4人 A17人 B14人 C 9人 D32人 E 3人 F22人
平成18年度 @0人 A23人 B11人 C 4人 D26人 E14人 F23人
平成19年度 @1人 A19人 B 9人 C12人 D27人 E 8人 F13人
平成20年度 @2人 A15人 B 6人 C22人 D25人 E 4人 F 9人
平成21年度 @0人 A16人 B12人 C18人 D16人 E13人 F11人
平成22年度 @9人 A06人 B12人 C 9人 D14人 E 8人 F25人
平成23年度 @2人 A 3人 B17人 C17人 D16人 E12人 F19人
平成24年度 @4人 A 8人 B14人 C 5人 D32人 E 8人 F12人
平成25年度 @1人 A 5人 B 5人 C 8人 D36人 E 7人 F20人
平成26年度 @0人 A 4人 B 3人 C 3人 D22人 E 5人 F32人

質問
 二 一の自衛隊員の自殺者のうち、公務災害に認定された隊員の数を陸上自衛官、海上自衛官、航空自衛官及び事務官等の別で示した上で、自殺者に係る公務災害の認定状況について如何なる見解を有しているか答えられたい。

 回答
 平成15年度から平成26年度までにおける自衛隊員の自殺者のうち、防衛省の職員の給与等に関する法律 (昭和二十七年法律第二百六十六号) 第二十七条第一項において準用する国家公務員災害補償法 (昭和二十六年法律第百九十一号) の規定に基づく公務上の災害 (以下 「公務災害」 という。) と認められた自衛隊員は、平成27年3月31日現在、陸上自衛官が7人、航空自衛官が3人及び事務官等が1人である。
自殺は、自衛隊員の自損行為による災害のため原則として公務災害とは認められないが、公務の負荷により精神疾患を発症し、当該疾患が原因で自殺した場合は、公務に起因して死亡したものと認めている。

▼命が軽んじられている

 まず自衛隊の海外派兵等について整理をする。
1991年(平成3年)6月5日〜9月11日、海上自衛隊がペルシャ湾(公海・イラク領海・イラン領海・クウェート領海・サウジアラビア領海)で機雷掃海。
1992年(平成4年)9月17日〜1993年(平成5年)9月26日、「PKO法」に基づき、国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)停戦監視要員8名、陸上自衛隊遣施設大隊600名。
2001年(平成13年)11月〜2007年(平成19年)11月「インド洋派遣テロ特措法」に基づき、2008年(平成20年)1月〜2010年(平成22年)1月「新テロ特措法」に基づき、海上自衛隊のインド洋後方支援派遣。
2004年(平成16年)1月16日〜2008年(平成20年)12月、「イラク特措法」に基づき、陸上自衛隊、航空自衛隊を派遣。陸上自衛隊は、2006年(平成18年)7月まで。
2004年(平成16年)12月28日〜2005年(平成17年)1月1日、スマトラ島沖地震に際して艦艇3隻、人員約600名を周辺海域に派遣。被災者の遺体57体の収容作業に従事。

 自衛隊は1985年から自殺者数を発表している。制服組のみについては、年間60〜70人前後で推移していたが2002年度(平成14年度)78人、03年度(平成15年度)75人で、04年度(平成16年度)に94人と初めて90人を突破し、05、06年度(平成17、18年度)93人、07年度(平成19年度)83人となっている。
 精神的に体調を崩して自殺に至るのは派遣後しばらくしてからである。(それが「原因不明」の口実にもされている)
 推移は、「インド洋派遣テロ特措法」による派遣などの動向と一致する。(だから07年度は全体数が減っているにも関わらず海上自衛官だけが増えるような状況になる。また「一等陸尉、一等海尉、一等空尉、二等陸尉、二等海尉、二等空尉、三等陸尉、三等海尉又は三等空尉」など実際に派遣された階級のなかから多く出ている。年令、階級にも偏りがある。
 しかし、政府と自衛隊は、派遣が原因で死者や自殺者が出ていることを認めようとしない。本来、このような状況が明らかになったなら早急に対策が打たれるべきである。しかしそれを認めると他の隊員の士気を喪失させると捉えている。また世論の反対を押し切って強行したことに重ねて批判を浴びることになる。安全でないことを認めてしまうことになる。
 だから隊外での自殺の原因はなるべく個人的な問題として処理し、隊内でのストレスが隊外で発散されたとは捉えようとしない。軍隊のような集団行動が行われている組織で「原因不明」は無責任である。そして「精神疾患等」に理解がない、またはわざと原因を追及しない(していても公表しない)ということである。だから1.044人の自殺者がでても「自損行為」ということで、公務災害認定はなんと11人という結果になる。
 これは命を軽んじているということである。原因の「借財」はストレス等の発散のためにいわゆる“遊び”につぎ込まれるということが多くあるようだ。さらに大きな問題に、体調を崩して自衛隊を除隊した者については何も公表されずに隠されているということがある。

 なぜ、原因を明らかにしないの。惨事ストレス対策の中で問題だと指摘されていることがある。
 「災害救援者が体験する惨事ストレスの存在は、徐々に社会的にも認められるようになってきたが、災害救援組織の中には、惨事ストレスに対する組織レベルの対策をとろうとする機運はなかなか生まれにくい。……男らしさを強調する組織風土から、『俺たちは弱音を吐いてはいけない』という弱さを認めない雰囲気に支配されている職場が多い。たとえストレスをみとめても、『そんなストレスは、個人で処理すべきことだ』と考えている上司も少なくない。ある災害救援組織の幹部は、『ストレスケアを強調すると、就職希望者が減る』と心配していた。
 別の幹部は、『我々は日頃隊員に対して、災害現場では一歩前に出ろと教育しているのに、惨事ストレスなんて教えると、隊員が怖じ気づいてしまう』と話し、惨事ストレス教育に不良に対して、様々な抵抗が見られるのである。」「隊員」1人ひとりは問題にされず、「組織」維持だけが追及される。このような理由からは公務災害は“認められない”。これでは派遣が原因で体調を崩して自殺した隊員は犬死させられたことになってしまう。
 さらに自衛隊が持つ体質の問題がある。
 自衛隊は、採用に際して心理テスト・スクリーニングを行っているので(諸外国では意味がないと行っていない)心身ともに弱者はいないと公言している。隊内では、体調不良者は精神が弛んでいる、根性がたりないからだという風潮がまだ残っている。体調不良を訴えると詐病と言われたりする雰囲気のなかでは弱音を吐けない。それぞれの隊員が他の隊員から弱者だと思われないよう、そして他の隊員に迷惑をかけないよう我慢を続ける。
 2000年(平成12年)10月6日、自衛隊はメンタルヘルスに関する検討会を開催して「自衛隊員のメンタルヘルスに関する提言」を公表した。防衛大学の授業のカリキュラムには4年間通して「メンタルヘルス」の科目が盛り込まれている。あまり有効性がない内容のようだが実際役に立っているとは言い難い。

▼ストレス除去ではなく「ストレスに強くなる対策」

 兵士の精神的体調不良の問題について、海外では第一次世界大戦の最中から対策が開始された。日本ではつい最近まで意識的・無意識的に放置されてきた。
しかし昨今、海外のストレス対策は別の方向に向かっている。「ストレスに強くなる対策」 である。
 「学会では米国の専門家による招待講演もあり、イラク戦争に参加した米兵のPTSD研究の紹介がされていた。講演を聞きながらわたしは、『トラウマ研究は何時から、戦っても傷つかない人間をふやすための学問になったのだろう』 と思った。潤沢な予算がPTSDの予防や治療の研究につぎ込まれることと、平然と戦地へ兵士を送り出すことは、米国では矛盾しない。米兵のPTSDの有無や危険因子は調査され、発症予防や周期回復のための対策は練られるか、派兵をやめようという提案にはならない。イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえない。そのことに違和感をもつ人はいないのだろうかと周囲を見回すが、みんな熱心に講演に聞き入っている。孤立感を覚える。」(宮地尚子著 『傷を愛せるか』 大月書店 2010年)
 そしてこれらの方向性は、日本の厚労省、企業が行っている労働者のストレス対策と同じである。

▼「イラク特措法」の自殺による死亡率は375人

質問
三 平成15年度から平成26年度の各年度における自衛官の自殺率を陸上自衛官、海上自衛官及び航空自衛官並びに自衛官全体につき示し、かつ同一年度における一般職国家公務員及び日本国内の成人の自殺率を示した上で、自殺率の差異に対する政府の見解を明らかにされたい。

回答
お尋ねの平成15年度から平成26年度までの各年度における@陸上自衛官、A海上自衛官、B航空自衛官、C自衛官全体及びD一般職の国家公務員の自殺による死亡率を十万人当たりでお示しすると、次のとおりである。

平成15年度 @32.5人 A37.9人 B21.8人 C31.4人 D17.1人
平成16年度 @43.1人 A35.7人 B30.4人 C39.3人 D19.0人
平成17年度 @42.9人 A33.2人 B30.1人 C38.6人 D17.7人
平成18年度 @43.5人 A42.1人 B19.4人 C38.6人 D23.1人
平成19年度 @34.4人 A51.4人 B26.0人 C36.0人 D20.3人
平成20年度 @36.1人 A37.2人 B20.3人 C33.3人 D21.7人
平成21年度 @37.3人 A35.0人 B27.1人 C34.9人 D23.6人
平成22年度 @38.8人 A23.5人 B27.6人 C33.8人 D22.7人
平成23年度 @34.8人 A32.6人 B34.1人 C34.2人 D20.7人
平成24年度 @37.6人 A16.4人 B45.9人 C35.2人 D15.9人
平成25年度 @33.7人 A37.5人 B29.8人 C33.7人 D21.5人
  平成26年度 @30.8人 A27.9人 B25.0人 C29.1人 D現在調査中


 平成15年から平成26年までの各年における日本国内の成人の自殺による死亡率を10万人当たりでお示しすると、平成15年は32.6人、平成16年は30.5人、平成17年は30.6人、平成18年は30.1人、平成19年は31.0人、平成20年は30.1人、平成21年は30.7人、平成22年は29.4人、平成23年は28.4人、平成24年は25.8人、平成25年は25.4人、平成 26年は23.7人である。
 自衛官の自殺による死亡率は、おおむね一般職の国家公務員及び日本国内の成人の自殺による死亡率より高い数値であるが、防衛省としては、一般に、自殺は、様々な要因が複合的に影響し合って発生するものであることから、自殺による死亡率の差異の要因等について一概にお答えすることは困難である。

 国家公務員もそれ以外でも自殺による死亡率は絶対的に高い状況にあるが、それぞれきちんとした対策が取られていない。
 しかしこれだけでも問題がはっきりしている。
 陸上自衛隊の平成16年度から18年度の43.1人、42.9人、43.5人、海上自衛隊の平成18年度と19年度の42.1人、51.4人、航空自衛隊の平成24年度45.9人は異常過ぎるとしか言いようがない。

質問
四 旧テロ対策特措法、イラク人道復興支援特措法及び補給支援特措法に基づき派遣された自衛隊員の人数を派遣根拠法別、部隊別に示した上で、在職中に自殺した者の数を以下の分類により示し、政府としてこれらの派遣と自殺との因果関係について如何なる評価をしているか答えられたい。
@派遣根拠法の別かつ部隊の別
A自殺原因の別かつ部隊の別

回答
 お尋ねの「部隊別」及び「部隊の別」の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法(平成十三年法律第百十三号。以下「テロ対策特措法」という。)に基づく活動に従事した自衛隊員数は、海上自衛隊員が延べ約1万900人及び航空自衛隊員が延べ約2900人の合計延べ約1万3800人であり、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(平成十五年法律第百三十七号。以下「イラク特措法」という。)に基づく活動に従事した自衛隊員数は、陸上自衛隊員が延べ約5600人、海上自衛隊員が延べ約330人及び航空自衛隊員が延べ約3630人の合計延べ約9560人であり、テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法(平成二十年法律第一号。以下「補給支援特措法」という。)に基づく活動に従事した自衛隊員数は、海上自衛隊員が延べ約2400人である。
 テロ対策特措法に基づく活動に従事し、在職中に自殺した自衛隊員数は、海上自衛隊員が25人及び航空自衛隊員が零人であり、イラク特措法に基づく活動に従事し、在職中に自殺した自衛隊員数は、陸上自衛隊員が21人、海上自衛隊員が零人及び航空自衛隊員が8人であり、補給支援特措法に基づく活動に従事し、在職中に自殺した自衛隊員数は、海上自衛隊員が4人であり、この4人の中にはテロ対策特措法に基づく活動に従事し、在職中に自殺した海上自衛隊員2人が含まれている。
 テロ対策特措法に基づく活動に従事した自衛隊員、イラク特措法に基づく活動に従事した自衛隊員又は補給支援特措法に基づく活動に従事した自衛隊員のうち、在職中に自殺した者の数について、原因の別にお示しすると、病苦を原因とする者が0人、借財を原因とする者が6人、家庭を原因とする者が7人、職務を原因とする者が3人、精神疾患等を原因とする者が14人、その他が5人及び不明が21人である。
 防衛省としては、一般に、自殺は、様々な要因が複合的に影響し合って発生するものであり、個々の原因について特定することが困難な場合も多く、海外派遣との因果関係を特定することは困難な場合が多いと考えているが、防衛省においては、自殺の原因について可能な限り特定できるよう努めているところであり、このような観点を含め自殺防止対策については、今後とも強力に推進してまいりたい。

 「テロ対策特措法」では海上自衛隊員が延べ約1万900人派遣され、自殺者したのは25人。自殺による死亡率は229人。
 「イラク特措法」では陸上自衛隊員が延べ約5600人派遣され、自殺者したのは21人。航空自衛隊員では延べ約3.630人で8人。自殺による死亡率は375人と220人。
 「補給支援特措法」では海上自衛隊員が延べ約2.400人され、自殺したのは4人。自殺による死亡率は166人。
 質問三への回答で示された数字と比べて桁が違う。

 5月14日、安倍首相は「戦争法案」を閣議決定した後の記者会見で、自衛隊員が死亡するリスクが高まると指摘された質問に、「まるで今まで殉職した隊員がいないかのように思っている方もいるかもしれないが、1,800人が殉職している。私も遺族とお目にかかっており、殉職者が全く出ない状況を何とか実現したい」と語った。
 いつものように質問をはぐらかした回答で何を言いたかったのかわからない。これまでにも死者は出ていると言いたかったのなら軽すぎる発言。もしかしたら「戦後も国に命を捧げた者が1,800人いる、お前らも捧げろ」とでも言いたかったのかもしれない。
 しかしこれらの数字が自衛隊員派遣の実態であり予想されるリスクである。
(質問 5 回答 質問 6 回答 は略)

▼神経症性障害が急増

自衛隊員の自殺の原因を裏づける資料がある。
雑誌『防衛医療』2009年6月号に、自衛隊北部方面を統括する自衛隊札幌病院精神科の医師の報告『自衛隊精神科医療とメンタルヘルスの溝をどう埋めるか 北部方面隊の精神科臨床の現状と課題』が掲載された。その中の表である。
外来新患数は、2000年119人、01年143人、02年196人、03年265人、04年375人、05年251人、06年326人である。
外来新患者を「国際疾病分類ICD−10」で分類しています。(09年段階での分類)    F2は「統合失調症および妄想性障害」、F3は「気分(感情)障害、うつ病圏」、F4は   「神経症性障害、ストレス関連障害」。

    2000年 F2 11人、 F3 64人、 F4 48人 など。
  01年     6人、    36人、    45人
  02年     6人、    37人、    74人
  03年    14人、    32人、   123人
  04年    13人、    43人、   113人
  05年    14人、    39人、   114人
  06年    14人、    90人、   108人

となっている。
 入院患者については2000年から2003年までの資料がないが、1999年と2004年を比べると入院患者数は99人から141人、そして05年は206人に急増している。F4の患者数は20人から50人に増え、05年は87人と急増している。
 北部方面部隊の自殺者数は2000年16人、01年13人、02年19人、03年15人、04年14人、05年25人、06年21人である。
 医師は「近年の当科の特徴として、入院を要しない軽傷のうつ病圏の患者と神経症性障害・ストレス関連障害の患者数が著しく増加している。これは、うつ病圏(気分障害)診断概念の変化といった観点からみれば、休養・薬物治療といったいわゆる内因性のうつ病治療の原則だけでは十分な改善が期待できないタイプのうつ病が目立つ傾向にある」と分析している。しかし動機についてのきちんとした分析は行われていない。
 06年頃から新聞などで自衛隊員の自殺の問題がしばしば取り上げられているが、コメントを求められた関係者は常に「原因不明」である。
別の資料で自殺者についての陸・海・空別の内訳をみると海が急増している。

▽米軍が米兵を殺害している

個人としての兵士は敵を殺すことを拒否してきた

 軍隊の「心の負傷」については、古くはアメリカの南北戦争の時から発見されている。
 PTSDは、軍隊において兵士が陥った体調不良から発見・研究・対策が進められてきたという経緯がる。
 現代の古典として、ベトナム帰還兵の問題を取り上げた米国陸軍に勤務し、陸軍士官学校教授などを歴任した心理学・軍事社会学専攻のデーヴ・グロスマンの著書『戦争における「人殺し」の心理学』(筑摩書房)が日本でも、ロングセラーになっている。この中で戦争における兵士の「心の負傷」の問題を研究した文献がいくつか紹介されている。
 その1つが第二次世界大戦中、太平洋戦域の米国陸軍所属の歴史学者だったS・L・A・マーシャルの面接調査に基づく研究『発砲しない兵士たち』。
 「何百年も前から、個人としての兵士は敵を殺すことを拒否してきた。そのせいで自分の生命に危険が及ぶとわかっていてもである。これはなぜだろうか。そしてまた、これがあらゆる時代に見られる現象であるとすれば、そこにははっきり気付いた人間がなぜひとりもいなかったのであろうか。」
 マーシャルの調査では、第二次世界大戦中、平均的な兵士たちは敵との遭遇戦に際して、火戦に並ぶ兵士100人のうち、平均して15人から20人しか「自分の武器を使っていなかった」。しかもその割合は、「戦闘が1日中続こうが、2日3日と続こうが」常に一定だった。
 これを受けてグロスマンが書いている。
「マーシャルはこう書いている。『平穏な防衛地区に移されると心底ほっとしたのをよく憶えている。……ここなら安全だからというより、これでしばらくは人を殺さなくてすむと思うと、じつにありがたい気持ちになるのだ』。マーシャルの表現を借りれば、第一次大戦の兵士の哲学は『見逃してやれ、こんどやっつけよう』だった。」

「リチャード・ゲイブリエルはこう述べている。
『今世紀に入ってからアメリカ兵が戦ってきた戦争では、精神的戦闘犠牲者になる確率、つまり軍隊生活のストレスが原因で一定期間心身の衰退経験する確率は、敵の銃火によって殺される確率よりつねに高かった』。」
「イスラエルの軍事心理学者ベン・シャリットは、戦闘を経験した直後のイスラエル軍兵士を対象に、なにがいちばん恐ろしかったか質問した。予想していたのは、『死ぬこと』あるいは『負傷して戦場を離れること』という答えだった。ところが驚いたことに、身体的な苦痛や死への恐怖はさほどではなくて、『ほかの人間を死なせること』という答えの比重が高かったのである。」

「個人としての兵士は敵を殺すことを拒否してきた」というマーシャルの報告は、アメリカでは評価されず、公表されることはなかった。
 しかしその事実に対する対策は進められる。「反射的な早打ちの訓練」などが行われ、その結果としてベトナム戦争での発砲率は90%から95%に昇ったといいう。
 「ベトナムで何がおきたのか。40万から150万ともいわれるベトナム帰還兵が、悲惨的な戦争のすえにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいるのはなぜなのか。いったい、アメリカは兵士に何をしてしまったのか。」
 ベトナム戦争帰還兵から、たくさんの自殺者が出ている。米軍が米兵を殺害している。
戦闘の近代化は兵士が戦場・現場に赴くことなく、遠方の安全地帯からの機械操作で画面を見ながら行われている。しかしその安全地帯で機械を操作する兵士も体調を崩している。

▼自衛隊は教訓を持っている

 旧日本軍そして新日本軍・自衛隊においては隊員の精神的隊体調不良はあまり関心が向けられない。しかし教訓にすべきことはある。
 1992年6月15日に成立したPKO法は6月19日に施行され、9月に自衛隊がカンボジアに派遣された。
 杉山隆男著『兵士に聞け』(1995年 新潮社刊)は、その時に派遣された自衛隊員について追跡している。
 「PKOに参加した千二百人の自衛隊員が多かれ少なかれさまざまな形でカンボジアの影を未だに曳きずっているのだった。
 B三佐の体に、他人が見てもわかるほどの『異常』があらわれるようになったのは、カンボジアから帰国してしばらくたってのことだった。
デスクに向かって仕事をしていると、突然、汗が出てくる。それも尋常な出方や量ではない。迸るという表現が決して大袈裟に聞こえないくらい、額の生え際や首すじ、そして腋の下や背すじの、毛穴という毛穴から堰を切ったようにいっせいに汗の粒が吹き出して、あとからあとから流れ落ちるのである。陸上自衛隊の夏服はクリーム色の開襟シャツである。濡れると結構目立つ。そのワイシャツの背中に地図でも描いたようにみるみる染みが広がっていく。頬を伝った汗が大粒の滴となってデスクの上の書類にぽたぽたしたたり落ちていく。
この頃にはB三佐の様子がおかしいことに、机をならべて仕事をしている同僚や上官たちも気がつく。……
 汗が出るのは陸幕のオフィスで仕事をしているときとは限らない。自宅でくつろいでいるときでも通勤途中の電車の中でも、何の前ぶれもなくいきなり汗がしたたり落ちてくる。汗ばかりではない。時には急に吐き気に襲われることもある。胸がむかついてきてトイレにかけこむ。嘔吐特有の胃が締めつけられるような感覚がして何かがこみあげてきそうになる。しかし便器にかがみこんで手を喉の奥に突っ込んでみても何も出てこない。しばらくすると吐き気は嘘のように去っていく。二日酔いのような逃げ場のないもやもやとした気分の晴れない状態がつづくわけではない。吐き気が収まったあとはごくふつうに食べ物が喉を通るしデスクに向かって仕事をつづけることもできる。……
 それだけB三佐は、自分の体の中でいったい何が起こりはじめているのか、かえって薄気味悪かった。目には見えないけれど、しかし確実に体の中では得体の知れないものがバイオリズムを狂わせている。病気でもないのに自分の体がいいようにかき乱されていると感じるのは決して気持ちのよいことではなかった。」
 しかし、この教訓は生かされていない。

▼「“誰ひとり”ここにいたいなんておもっちゃいないよ」

 2012年8月7日の『Newsweek』日本版に、作家のアンソニー・スウォフォードの「アメリカ 『帰還後に自殺する若き米兵の叫び』」の見出し記事が載った。
 「アメリカでは毎日18人前後の元兵士が自ら命を絶っている。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、戦闘中の死者数(6,460人)を上回るとみられている。」
 死者の8倍近くの負傷者がいるといわれる。帰還兵とその家族から精神的体調不良者が続出し、今後も続くことが予想される。ベトナム戦争帰還兵が陥っている状況、被った被害が隠されている。
 アメリカだけでなくドイツ軍、イタリア軍でも同じことが起きている。自衛隊員の体調不良者や自殺者の続出はその一環である。

 イタリアは、アフガニスタンには02年から、イラクには03年から派兵した。
 アフガニスタンではこれまで従軍記者を含む54人が死亡し、651人が負傷している。
 イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノの『兵士たちの肉体』(早川書房 2013年邦訳刊)はフィクションだが、11年9月23日の西部ヘラートでの戦闘などを下敷にしている。いくつかの場面をピックアップする。
 戦闘後のシーン。
「チェデルナとイエトリは強い日差しを浴びながらベンチでトレーニングをしていた。……
イエトリは疲労に顔を歪めた。どうも気分がのらない。あの村に敵を探しにいってからというものの、ずっと妙な具合だった。夜になれば悪夢を見る。昼もその余韻で不安が抜けない。『よくわからないんだ。もしかすると、僕はもうここにいたくないのかもしれない』
『それだけの話なら、いいことを教えてやろう。“誰ひとり” ここにいたいなんておもっちゃいないよ』」
戦闘で4人の仲間を失った。
……
生き残ったチェデルナは少佐の心理学者からカウンセリングを受ける。
「『……そこで君には何ひとつ包み隠さず、自由に話してもらいたいのです』フィニッツィオは前置きを終え、待ちの姿勢に入ろうとしたが、チェルナンデはすでに反撃の構えを整えていた。『失礼ですが、少佐、自分には何も話したいことがありません』
 ……
『少佐、あなたはここが怖くて、ちびっているんだ。本当はこの手の危ない場所からうんと離れた安全なオフィスでのんびりしたいんでしょう。それがこんなところまで飛ばされちゃって。お気の毒です』
 ……
 ……
『そうか。きっと今の君は、ひとと会話をするのがひどく苦痛なんだろう。怒り以外の感情を表現するのが難しい時期なんだ。何もかもがまだ生々しくて、我々は痛みに口を閉ざしてしまう。記憶の蓋を開けてしまえば、耐えられないほどの苦しみがあふれ出すのではないかと心配なんだろう。でも僕は、そんな君を支えるためにいるんだよ』
 ……
 チェデルナは思わず立ち上がり、上官にのしかかるような格好で迫った。『思ったままのことを申し上げて本当によろしいんですか、少佐?』
『是非、聞かせてほしいね』
『では、申し上げます。あんたは気色悪いくそったれだ。我々は痛みに口を閉ざす、だって? “我々”って誰だよ? あんたはあそこにいなかった。どこか遠くで、くだらねえ心理学のマニュアルでも読んでたんだろう? なあ、海軍の少佐殿、あんたみたいな連中はよくいるぜ。大学出の仕官はみんなそうさ。あんたら、なんでも知っているってツラしてやがるが、その実なんもわかっちゃいねえ。無知もいいとこだ! 他人の頭に入り込んで、あれこれ漁るのが好きで好きでたまらないんじゃありませんか? 俺の打ち明け話が聞きたくてうずうずしてやがるんだ。そうでしょうが? ……以上。面談終わり』」
 帰還兵の苦闘は続いている。
 イタリア政府はアフガニスタンでどのような成果をあげたと説明しているのだろうか。

 5月30日の「朝日新聞」は「憲法解釈変えアフガン派兵55人犠牲」の見出し記事で、ドイツ軍のことを紹介している。
 02年からアフガンの国際治安指示部隊(ISAF)の任務が終了する昨年までに、帰還後の心的外傷後ストレス障害による自殺者などを含めて兵士55人が死亡し、このうち6割強の35人は自爆テロや銃撃などの戦闘による犠牲者だったという。

▼帰還兵の20%から30%が「見えない傷」で苦しんでいる

 安倍政権が「戦争法案」の準備を始めていた今年の3月頃、本屋ではディヴィッド・フィンケル著『帰還兵はなぜ自殺するのか』(亜紀書房)が平積みされていた。その後再版が続いている。
 「砲弾の上を走って、そいつがどんぴしゃで爆発した。彼は車ごと持ち上げられ、下に叩きつけられた。爆風が音速より早く彼の体を貫いたとき、彼の脳はぐらぐら揺れた。そしてこうなった。記憶、ぶっ壊れた。注意力、ぶっ壊れた。バランス、聴力、衝動抑制、認知力、夢。すべてがぶっ壊れた。軍隊は外傷性脳損傷のことを『戦争による特徴的な損傷』と表現している」
 イラクに派兵された米兵の“その後”が16章に分けて語られている。
 第1章から元兵士たちの今を紹介する。
 「サスキアがそう言うのは、アダムが戦争に行く前の状態に必ず戻るという希望を抱いているからだ。こうなったのはアダムのせいというわけではない。彼のせいではなかった。彼は恢復したがっていないわけではない。恢復したいと思っている。しかし別の日には、死んだほうがましだという気がする。アダムに限ったことではない。アダムと共に戦争に行ったあらゆる兵士たち――小隊30人、中隊120人、大隊800人――は、元気な者ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。アダムと行動を共にした兵士のひとりは、『悪霊のようなものに取りつかれずに帰ってきた者はひとりもいないと思う。その悪霊は動き出すチャンスをねらっているんだ』と言う。
『助けがどうしても必要だ』2年間、寝汗とパニックの発作に苦しんだ兵士はこう言う。
『ひっきりなしに悪夢を見るし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になってしょうがない』と別の兵士は言う。
『気が滅入ってどうしようもない。歯が抜け落ちる夢を見る』と言う者もいる。
『家で襲撃を受けるんだ』別の兵士が言う。『家でくつろいでいると、イラク人が襲撃してくる。そういうふうに現れる。不気味な夢だよ』
『2年以上も経つのに、まだ夫は私を殴ってる』ある兵士の妻が言う。『髪が抜け落ちたわ。顔には噛まれた傷がある。土曜日に、お前は最低のクソ女だと怒鳴られた。夫が欲しがっていたテレビをわたしが見つけられなかったからよ』
いたって体調がよさそうに見える兵士は、『妻が言うには、ぼくは毎晩寝ているときに悲鳴をあげているそうだ』と言ったあとで困ったように笑い、『でも、それ以外は何の問題もない』と言う。
しかしほかの兵士たちと同じように、途方に暮れているように見える。
『あの日々のことを、死んでいった仲間のことを、俺たちがやったことを考えない日は1日たりともない』とある兵士は言う。『しかし、人生は進んでいく』」
「ひとつの戦争から別の戦争へと。2百万のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。そして帰還したいま、その大半の者は、自分たちは精神的にも肉体的にも健康だと述べる。彼らは前へと進む。彼らの戦争は遠ざかっていく。戦争体験などものともしない者もいる。しかしその一方で、戦争から逃れられない者もいる。調査によれば、2百万人の帰還兵のうち20パーセントから30パーセントにあたる人々が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)――ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害――や、外傷性脳損傷(TBI)――外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす――を負っている。気鬱、不安、悪夢、記憶障害、人格変化、自殺願望。どの戦争にも必ず『戦争の後』があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。それが生み出したのは、精神的な障害を負った50万人の元兵士だった。」

 国に貢献するという自負心と社会からの期待を背負って出兵しながら負傷したり、「敵」を死傷させたりして「見えない傷」をした兵士の帰還は歓迎されなかった。政府は兵士等の要求で多少の補償をしても大きな関心を示さない。だから過ちが繰り返してきた。補償はベトナム帰還兵たちの粘り強い戦いで勝ち取った。
 兵士は、兵士と国・軍は違う意思を持っていたことに気づかされた。兵士は国・軍の名のもとに翻弄されたのだった。またそれが国家であり軍なのである。
 兵士が抱いている気持ちは、「戦争における真実とは、隣にいる戦友を大事にすることに尽きるが、戦争後における真実とは、人は自分1人で生きて行くこと」。自分だけが助かったという思いに「終わりのない罪悪感」が支配する。「俺は弱っちく、意気地のない、だめな男だ」の思いは「人生をもう一度立て直そうと思って入隊した」決意がくじかれる。
 『戦争による特徴的な損傷』やそれ以外の「見えない傷」を負っている兵士は意識・無意識に鬱積した思いを他者にぶつける。それが組織関係者、家族や友人だったりする。トラブルや自己を起こす。戦争の二次被害である。そしてさらに自分を追い詰めて自殺に至る。
 治療にあたる将校が言う。「終わりのない罪悪感。私が理解できる唯一の理由がそれです」
 精神的な障害を負った兵士のために社会的復帰を指せるシステムとして「兵士転換大隊総合施設」が作られ、治療が行われている。ようやくアメリカ政府もこの問題に取り組まざるを得なく模索を続けている。データを集め、その分析結果がでるのは5年後になるという。
 治療の対象者が多すぎる状況がある。だとしたら今できる対策・手段はこれ以上「見えない傷」を負う兵士を作り出さないことのはず。

▽兵士に「戦後」はない


 ベトナム帰還兵にとってベトナム戦争はまだ終わっていない。イラクからの帰還兵にとっては真っ最中。米軍は米兵を殺し、負傷させることを続けている。
 自衛隊員の自殺の理由は「原因不明」ではなく派兵によって負った「見えない傷」であることは明らかである。しかし今、安倍政権はさらに自衛隊員がそのような状況に陥ることを強行しようとしている。
 日本軍兵士が定期的に集まって『同期の桜』を合唱するのは、戦争を賛美しているのではない。“心の傷”を分かち合える仲間たちと癒していることでもあることを理解しなければならない。
 安倍政権は頻繁に大人数の商人を引き連れて兵器や原発や売り込む外交を続けている。「戦争は、兵器産業に富をもたらす。」 そこには平和のための外交がない。

 「戦争法案」は「人殺し法案」。戦争という行為は、敵も味方も殺し、心身を長期に破壊する。後方部隊、兵士以外の第三者も巻き込んでそうする。
 日本国憲法9条は「人を殺さなくていい」、人がいちばん嫌なことをしなくていいと謳っている。その保証があると人びとは物事をポジティブに発想できる。
 日本国憲法9条は、平和に、安心して生きるための本物の「安全保障」である。
 

(いしだ・けい)


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