●かんぽの宿入札疑惑

国民資産を資本に委ねる郵政民営化の隠れた本質

−不動産、郵貯・簡保資金、そして天下り−

(インターナショナル第186号:2009年4月号掲載)


▼巨大株式会社−日本郵政

 日本郵政株式会社は06年1月、郵便局会社、郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命への郵政事業4分割に先がけて、4事業を統合する株式会社として設立された。
 資本金は3兆5000億円、発行株式総数6億株、発行済み株式1億5000万株。現在は、財務大臣が唯一の株主となっている。その業務内容は、グループ会社各社に対する経営管理、会社の設立準備および業務・資産・職員を各会社に引き継ぐことであった。いわば郵政本省の役割である。
 旧郵政局に当たるのが「郵便局会社」で、各支社(東京、大阪、名古屋等)中央郵便局、社宅、職員訓練所、集配業務を行わない郵便局が引き継がれ、「郵便事業会社」は集配事務を取り扱う郵便局と物流センター、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」はそれぞれの事務センターのみとなり、窓口の業務は貯金・保険・郵便ともに郵便局会社に委託し、手数料を払うというものであった。
 この構造は、郵政省、公社時代とはほとんどかわらない。
 表にするとすると、以下のようになる。
 

  ▼資本金 ▼株主 ▼不動産
日本郵政  3兆5000億円 財務大臣 2250億円
郵便局会社 1000億円  日本郵政 1兆0020億円
郵便事業会社 1000億円 日本郵政  1兆4030億円
ゆうちょ銀行 3兆5000億円 日本郵政 1200億円
かんぽ生命 5000億円  日本郵政 900億円


▼かんぽの宿問題と郵政の不動産

 こうした構造の中で、最も経営が危ぶまれるのは郵便事業会社である。
 郵便事業は恒常的に赤字であるうえに、ユニバーサルサービス【注】が義務つけられている。そしてこれまでは、貯金と保険の利益でその赤字を埋めてきたが、それができなくなるのである。はじめから指摘されていた公共サービスの崩壊は、現実のものとなると思われる。
 しかし大資本にとって、過疎地の郵便局の廃止などを問題にする気は全くない。郵便貯金200兆、かんぽ115兆の資金をどうかすめ取るのか、都市部の優良不動産をどう獲得するのかが最大の関心事なのである。
 そうした中で浮上してきたのが、かんぽの宿と東京、大阪の中央郵便局(中郵)などの改築問題なのである。
 東京駅前の超一等地にある東京中郵を、総工費876億円をかけて地上38階建ての賃貸オフィスビル「JPタワー」に立て替える計画が具体的に動き出した中で、鳩山総務大臣から待ったがかかったが、結局は「文化財」として残す部分を少し拡大することで決着しそうである。
 これが完成すれば、土地建物で1兆円の価値があると言われている案件である。自民党内部にどのような対立があるのか定かではないが、建設が中止されるはずはない。
 しかも郵便局会社と郵便事業会社は、他にも大阪、名古屋、京都の中央郵便局をはじめ、地方都市の中心部に局舎を持っている。郵便事業がどのような危機になろうと、これらの不動産を活用することによって生き残ろうとするであろう。
 これ以外の不動産、全国14カ所の逓信病院、逓信総合博物館(東京・大手町)、人事・経理集約センター(旧熊本貯金事務センター)のほか、簡保資金と郵貯資金でつくられた「かんぽの宿」と「メルパルク」などが、日本郵政の所有となったのである。
 ところで「かんぽの宿」の売却には総務大臣の許可が必要で、中郵では必ずしもその必要がないのは、かんぽの宿を所有する郵政株式会社の唯一の株主は財務大臣だが、各地の中郵は郵便局会社の所管で、株主は日本郵政だからであろう。
 2400億をかけたかんぽの宿を、109億円でオリックス不動産に売却しようとして問題になったが、新たに「メルパルク」問題をめぐる疑惑も表面化している。
 メルパルクは、郵便貯金の普及宣伝を目的にしてつくられた宿泊施設であるが、かんぽの宿も含めて、郵政官僚の天下り先をつくることが本当の目的であったことは明らかである。メルパルクは現在11の施設があるが、08年6月、土地建物は日本郵政所有のままで、営業権だけが京都に本社がある「ワタベウェディング」に売却された。
 この入札も、かんぽの宿同様極めて不透明で、実質上は随意契約である。しかも「営業権はタダ」というウワサもあり、かんぽの宿と同様に真相の徹底的解明が必要である。
 メルパルク以外にも、旧厚生省のグリーンピア同様の複合型保養施設を建設したが、民営化直前の07年3月に営業を停止し、その後売却された。
 その売却価格も、「メルモンテ日光霧降」(栃木県日光市)は、210億円の建設費に対して7億円で「大江戸温泉物語」に売却されているし、「メルパール伊勢志摩」(三重県志摩市)も、250億円に対して5億円で「近畿日本鉄道」に売却されているのだ。
 そして問題のかんぽの宿は、全国に100ヶ所近くあったが、30施設はすでに売却されている。
 これも、75億6000万円の建設費をかけた浦安簡保ホームは7億3000万円、約93億円の広島簡保検診センターは10億円、仙台検診センターは61億円が11億円で売られるなど、格安のバーゲンばかりである。合計すると、建設費810億2000万円に対して売却額は74億7000万円と、10分の1以下である。

 【注】@国民生活に不可欠で、A誰でも利用可能な料金など適切な条件で、B全国で公平かつ安定的に提供されるべきサービスと定義される。郵便のほか、電力や電話も法律で供給義務が定められている。

▼莫大な郵貯・簡保資金の行方

 郵政民営化のもう1つの側面は、300兆円を超える貯金・保険の資金を、金融資本主義の主戦場に流し込むことであった。
 これを最も執拗に要求したのはアメリカ政府であった。
 アメリカ政府は、対日規制制度改革要望書の中で郵政民営化を強く要求し、郵貯・簡保に対していかなる特権も与えぬよう要求したのである。
 小泉政権の閣僚となった竹中平蔵と、ゼーリック米通商代表の会談は21回にも及んだというが、結果として日本郵政の株式は全体の3分の2が、郵貯と簡保の株式はすべて市場に放出されることになった。
 仮に、日本郵政の株式の過半が外国資本に握られることになれば、郵貯・簡保の資金はハゲタカファンドの餌食になる事は明らかである。「リーマンショック」でアメリカ金融資本主義の破産が明らかになったが、逆に言えばだからこそ、自分たちの破産を取り繕うためには「何でもあり」という状況になるのではないだろうか。
 さらに、国と地方自治体を合わせれば1000兆円を越える借金を抱える日本であるが、それを支えてきたのは、郵貯・簡保・年金を財源とする財政投融資(財投)資金であった。この資金が、大量の国債と地方債を買い支えてきたのである。
 そして恐らく、これらの財投関連の特別会計は破産寸前であると思われる。少なくとも大量に抱え込んでいる国債を売却しなければ、新たな資金は出てこない状況にあるのではないだろうか。
 郵政民営化のヤミを明らかにし、同時に特別会計のヤミを明らかにすることが求められているのである。

(3/25:かがわ・みのる)


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