●西松建設の「偽装献金」疑惑

憶測を呼ぶ強制捜査と麻生内閣支持率の低迷
−検察官僚の「独断専行」は容認されるのか−

(インターナショナル第185号:2009年1・2月合併号掲載)


▼破られた不文律

 東京地検特捜部は3月3日、小沢一郎民主党代表の公設秘書・大久保隆規(たかのり)を政治資金規正法違反容疑で逮捕し、あわせて小沢の資金管理団体「陸山会」(りくざんかい)など、小沢の関係事務所を家宅捜索した。
 事件は、来年度予算が成立する見通しとなり、解散・総選挙をめぐる与野党の駆け引きが激化し、いわゆる「解散政局」になると見られていた時期だけに、通常は、選挙に大きな影響を与える強制捜査は手控えられるというこれまでの「不文律」が覆されたことで、大きな驚きをもって受けとめられた。
 案の定、小沢は翌4日の記者会見で、「捜査は不公正で不公平だ」と東京地検を非難して「違法行為はない」と語気を強め、民主党代表の進退問題でも「考えていない」と強気の姿勢を貫いた。
 ところが麻生自民党も、この「敵失」に乗じて反転攻勢に出るでもなく、奇妙な平静を装って「捜査の推移を見守る」姿勢に徹したが、その理由は、6日までには明らかになった。
 小沢の秘書が逮捕されたのは、準大手ゼネコン西松建設が、政治資金規正法で禁止されている企業献金を、元社員を代表名義人にした政治団体を「迂回」して行い、大久保秘書はこの違法性を認識した上で献金を受け取りながら、政治資金収支報告書に嘘を記載した「虚偽記載」容疑だが、その西松建設は06年までの約10年間で、少なくとも与野党の有力議員21人に総額3億8千万円の「企業献金」を行った疑いのあることが、「改めて報道された」からである。

▼年末から始まっていた捜査

 事件の発端は昨年暮れ、西松建設の関連会社から福島県の建設会社に融資された1億数千万円が、金利も含めてまったく返済されないまま、借入残高の確認書を毎年とり交わすという不自然な取引が発覚したことだった。
 だがこの事件も、西松建設が国内外で総額20億円を超える裏金をつくり、海外の銀行にプールしていた裏金のうち約1億円を不正に国内に持ち込んだとして、同社の元海外事業部副事業部長が外国為替及び外国貿易法(外為法)違反で逮捕され、持ち込まれた1億円の使途を解明しようとする捜査の過程で発覚したのだ。
 福島の建設会社に融資された金は、実際には00年当時、青森県むつ市に計画されていた核燃料中間貯蔵施設建設事業に関連して、西松建設社東北支店の幹部に渡たり、まだ計画が未公表の段階で事業用地の先行取得に使われたと見られている。この用地は、当時のむつ市長の後援企業が、西松建設OBが経営する会社から5千万円の融資を受けて取得、同支店幹部の要請で、所有権は東京都内の建築資材会社に移されたという(朝日:09年1月1日)。
 そしてこの一連の西松建設の裏金事件に関連して、地検特捜部が捜査した関係先に、今回、企業献金を隠すためのダミー団体と言われる2つの政治団体、「新政治問題研究会」(95年設立、06年解散)と「未来産業研究会」(98年設立、06年解散)とが含まれていた。
 しかもすでにこの時点で、この2つの政治団体の献金先として小沢・民主党代表のや自民党・二階経産相、そして当時は自民党所属議員だった亀井静香ら、21人の国会議員の名前が上がってもいた。したがって今回の政治資金規正法違反事件は、昨年の暮れから東京地検特捜部が捜査を進めていた事案であり、小沢や二階ら、名前の上がっていた議員たちがそうした事情を知らないはずはない。
 それでも、前述のように「政局がらみ」ではないかとの憶測を呼んだのは、強制捜査のタイミングもさることながら、地検特捜部に「前科」があるからである。それは03年、社民党の辻元議員が「秘書給与の詐取」で逮捕・起訴された一方、田中真紀子ら与党議員の同様の疑惑は立件されなかった事件である。
 さらに6日には、警察庁長官時代に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に圧力を加える「政治捜査」を公言した漆間(うるま)官房副長官が、「捜査は自民党議員には及ばない」と発言したことが暴露され、民主党幹部が「国策捜査だ」と口走ったのも、まったく根拠が無いとは言えないことも明らかになった。

▼それでも不人気な麻生内閣

 だが西松建設の「偽装企業献金」が、自民、民主両党の有力議員に広く行われていたことが明らかな以上、政治不信が高まるのは確実だか、選挙で、自民・民主両党の勝敗に大きな影響を与えるとは考えられない。もちろん党首秘書の逮捕という連日の報道は、それ自身が相乗効果を生んで民主党へのダメージになる。とは言え麻生首相はじめ自民党幹部たちが、この「敵失」に乗じて解散・総選挙に打って出るのも考えにくい。スキャンダル合戦の選挙が、自民有利とは限らないからだ。
 こうした推測は、事件直後の世論調査(6日〜8日)でも裏付けられた。
 読売新聞の調査では、民主党の支持率は23・8%(前回28・3%)に下落したが、自民党も24・1%(同26・8%)に下落、内閣支持率も17・4%(同19・1%)と続落し、誰が次期首相にふさわしいかでは、小沢が35%(同40%)に下落し麻生は26%(同24%)に微増した。また朝日の調査では、民主党支持率36%(同42%)に対して自民党支持は24%(同22%)、内閣支持率は14%(同13%)とやや回復、次期首相についても、小沢が32%(同45%)で麻生は22%(同19%)と麻生自民党が多少回復はしたが、なお民主党と小沢を下回る結果になったのである。

 だがその上で、指摘しておかなければならない問題がある。それは警察や検察の恣意的解釈を許す公職選挙法の曖昧さと、検察による突然の「ルール変更」を容認するマスメディアの対応である。
 だいたい警察や検察はこれまで、労働組合などの団体献金には厳しく対処する一方で、偽装企業献金は事実上野放しにしてきたと言って過言ではない。今回に限らず、企業による「迂回献金」はこれまで「見逃されてきた」のが現実であり、これを今になって「違法」として摘発するのは、試合中のルール変更と同じだろう。それは本来、法的不備が明らかになった時点で、法律なり省令を改訂して違法行為を明示すべき事なのだ。
 こうした官僚機構の「独断専行」は、官僚側が「政府・与党にだけ事前告知する」ことなどで容認されてきたのだが、それこそが自民党の長期政権と官僚機構の癒着の産物であり、これを指摘しないマスメディアもまた「官僚主導政治」を容認しているとしか言いようがない。
 長期政権と官僚機構の癒着を断ち切るためにも、やはり一度は、自民党政権を清算すべきなのだ。

(3/9:ふじき・れい)


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