新自由主義と対決する労働運動の背景と意義A
二国間投資協定反対で、日韓連帯討論集会


日本の運動の立ち遅れ

 3月31日、「私たちはなぜ〈日韓投資協定〉に反対するのか?日韓連帯討論集会」が、東京の交通会館で開催された。
 この集会は、韓日二国間の投資協定と自由貿易協定の締結が、韓国労働者の権利と生活を侵害するものであるとして、投資協定反対の闘いを展開している韓国の「投資協定・WTO反対国民行動」(KOPA)から、共同執行委員長のイ・ジョンフェさんと、同じくKOPAの政策委員で、全国民主労働組合連盟(民主労総)の政策部長であるパク・ハスンさんの2人を迎え、日韓民衆連帯全国ネットや全統一労組、全国一般全国協などによる実行委員会が主催したものである。
 当然のことだが、グローバリズムの名のもとに激しいリストラに直面している日本の労働者にとっても、労働基本権の擁護のためにある規制を廃することで、多国籍資本の勝手気ままな移動を可能にしようとする投資協定の締結は、看過できないものである。
 この討論集会では、今回の日韓投資協定が、98年に経済協力開発機構(OECD)で多国間投資協定(MAI)協定の協議が決裂し、さらに昨年12月に世界貿易機構(WTO)閣僚会議の決裂にしたことに危機感を強めたグローバリズム推進の立場にたつ各国政府が、二国間の投資協定や自由貿易協定の締結を促進し、頓挫した多国間協定の成立を待つことなく、多国籍資本のフロンティア(投資先)を確保しようとする動きの一環であることが、2人のゲストの報告や問題提起で明らかにされた。
 とくに投資協定と自由貿易協定の締結につづいて、東アジアの自由貿易圏の影が見え隠れしているという分析は、ヨーロッパ共同体(EU)や北米自由貿易協定(NAFTA)に対抗するように、日本帝国主義も日本・韓国・中国を軸にした東アジアにおける自由貿易協定という、多国籍資本の自由奔放な活動を保障する経済圏の創設をめざしていることに警鐘を鳴らすものだったが、それはまた日本の労働組合の側が、こうした日系多国籍資本の戦略的な動向に対して、大きく立ち遅れていることが示されている。
 事実、韓国においてはKOPAといった大衆的な反対闘争が組織されはじめているのに対して、日本では、労働組合が主体となって日韓投資協定を真っ正面から議論し、これに反対する大衆的な行動としては、この日の集会が初めてであったことに、それは端的に示されていたと言える。

日韓連帯運動の転機

 と同時にこの集会の重要な特徴は、ひとことで言って、韓国の民衆運動と民主労総に代表される進歩的な労働組合運動が、おそらくは「IMF統治」と呼ばれた国際資本による韓国経済への支配的介入を経験したことで、急速に国際主義化していることを印象づけたことである。そしてこれが、日韓投資協定反対闘争の日本と韓国における落差の背景と言えるだろう。
 この韓国労働者民衆運動の国際主義化は、この集会のために来日にしたイ・ジョンフェさんが、集会冒頭に上映された80年代の日韓連帯闘争の記録を引き合いに出して、「これまでの韓日連帯運動は、日本の労働者が(日系進出企業で働く)韓国労働者の闘いを支援するという構図だったが、それはもう止めた方がいい。これからは韓日労働者が連帯し、多国籍資本と闘う時代だ」という発言したことに象徴的に示されていた。
 たしかに、かつての日韓労働者の連帯運動の大半は、韓国に進出した日系資本の横暴や非道なふるまいに対して、韓国労働者が労働権侵害をふくむ人権侵害を告発する闘争を展開し、これを日本の労働者が韓国労働者に連帯して日本資本をともに追及するというのが、階級的労働者にとっても印象的な闘いのパターンであったと思われる。
 しかしこのイ・ジョンフェさんの発言は、ある意味で歴史的な日韓関係を〃暗黙の前提にした〃これまでの日韓連帯運動を越えて、多国籍資本が世界各地で利潤のためにおこなっている労働権や人権の侵害に抗して、日本と韓国の労働者が真の意味で労働権と人権を守る民衆の護民官としての協働を組織し、グローバリズムに反対して多国籍資本を規制しようと闘う、国際的運動の信頼にたる一翼を形成しようと言う呼びかけであり、日韓労働者の連帯闘争の歴史的転機となる可能性をはらんだ問題提起でもあった。

真摯条項の問題点

 こうした、日本の労働運動の側の立ち遅れを自覚しつつ、しかしグローバリズムと対決する闘いの一環として日韓投資協定に反対する日本での大衆的な運動をつくりだしていくために、集会では、同協定の重要な問題点として、いわゆる「真摯(しんし)条項」に焦点をあてた闘いが提起された。
 この「真摯条項」とは、日本の外務省が投資協定に盛り込むように要求している、「労働争議には真摯に対応する」という条項のことである。
 集会に先立って、来日したKOPAの2人と共に外務省に申し入れに行った集会実行委員会のメンバーに、この「真摯条項」を要求している理由を質問された外務省の係官は、あろうことか韓国スミダの解雇撤回争議を例にあげて、「ああしたことが繰り返されては困るからだ」と臆面もなく答えたという。民主的な労働組合の結成によって、期待していた利益があがらなくなったことを理由にファックス1枚で労働者全員を解雇し、さっさと日本に引き上げてしまったスミダ資本を追求した解雇撤回争議が、争議への真摯な対応と称する労働組合運動の抑圧や制限を必要とする理由であることを隠そうともしない投資協定は、韓国労働者に対する重大な人権侵害行為であることは明らかである。
 しかしそれはまた、企業社会の防衛を基調としたJC派イニシアチブと対決し、グローバリズムへの対応を口実に強行される首切りや賃下げに反対して、労働者の権利のために闘う日本の先進的労働組合の闘いにも、日本政府が「真摯に対応する」ことを意味してもいるのである。
 国際労働機構(ILO)の中間勧告によって条約違反が強く示唆されてなお、国鉄分割民営化の過程で行われた不当労働行為の是正措置を取り消す判決が出され、同様にILO各号条約を背景にもつ「解雇4条件」を踏みにじる解雇を容認する判決が連発される日本の現状は、むしろ日韓投資協定に盛り込まれようとしている「真摯条項」が、実は韓国の民主的労働組合運動を、ILO条約をも無視する堅い決意で、日本と同じように押さえ込むべきだという、日本帝国主義ブルジョアジーの主張にほかならないことを示していると言うべきであろう。
 その意味で、日韓投資協定に反対する闘いとは、まさに日本の労働者・労働組合自身のための闘いなのである。   

(S)


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